第一話 世界は神様が一瞬で作ってたんです
サマドゾ王国。それは広大で手つかずの密林しかない国であった。北方は岩山の壁で覆われており、魔獣たちの侵入を防ぐ。 西方も同じく岩山がそびえており、海に隣接してもその恩恵は受けていない。
南方こそ海が開けているが浅瀬で大型船は来れない。精々漁船くらいが関の山だ。
東方だけ岩山の一部がなく、そこ以外交通手段がない。天然の要塞と言えた。
この地は二千年前に地上に降り立った、光の神ヒルカと闇の女神ヤルミが降り立った地でもあった。
ヒルカはオスに力を与え魔獣を生み出した。ヤルミはメスに力を与えモンスター娘を生み出したのだ。
二人の神は創造神の命により、この地に降り立った。その際に自分たちの兄を見習い、人間や動物を生み出したのである。
人間はどこの世界でも争い憎しみあった。珍しいものを生み出す知恵も持っていた。
二人は人間たちが憎しみあわないように人間の敵を生み出したのである。
その栄養源は人間から生み出される邪気だ。それらの邪気は自然界に戻る。そして獣や植物に宿り、人間を襲うのだ。人間が邪気を出さねば魔獣たちは生まれないが、それは無理な話である。
さらに二人の神は人間たちにも対策を取った。ヒルカの使徒は魔法の道具を持つ男を、ヤルミの使徒は魔法を生み出す知恵を持つ女を作ったのだ。男はその知識を利用して最初に滅んだ国、スキスノに聖国を立ち上げた。女は魔女となり魔法を授けたが人々から迫害され続けてきたのだ。
彼等には自分の知識と記憶を受け継ぐ力を授けた。長い年月で知識が失われないための配慮だ。
スキスノ聖国は魔女を迫害するよう命じたが、実際は魔女を匿っていた。魔女の敵と思わせて、保護していたのである。これは誰にも気づかれなかった。
そして人間の邪気を消費するためにある手段を講じた。それは魔王化と勇者化である。
実際に魔王が誕生するわけではない。その国が蓄積している邪気を人間の身ですべて受け止めるのである。そして勇者はヒルカの源である太陽の光を浴びて、魔王化した者を浄化する役目を持たせた。
こんな考えが浮かんだのは、兄たちの失敗を聞いたためだという。
魔王化した際には周囲の人間が魔石と化す。これは体内に蓄積された邪気が結晶化されるためだ。
それを二千年間繰り返した。大抵百年間隔なので、20か国は滅んでいる。もっとも魔王化がなくても国は滅び新しく誕生していた。
最後の魔王化はゴマウン帝国であった。サマドゾ王国は帝国の一部だった。当初は辺境伯という役職があったが、周囲の人間はこれに疑問視した。辺境伯とは国境に近い土地を護ることだ。帝国と違い独自の群体を持つことも許されている。周囲は岩山に囲まれた辺鄙な土地になぜ辺境伯という役職を付けたのか。
☆
「それはサマドゾの前身であるハボラテの民と同化するためだったのです」
とある一室に妙齢の女性と二人の男女の子供がテーブルを囲んでいた。部屋の中は調度品が豪華であった。貴族の部屋だと一発でわかる。
妙齢の女性は二十代後半で黒髪を腰まで伸ばしていた。黒を強調したドレスを着ており、胸元は大胆にはだけている。まるでメロン二つをぶら下げているようだ。
「お母様。ハボラテの民とは何ですか?」
気の弱そうな男の子が質問した。どうやら目の前の女性は母親のようである。
「ヒルカ様とヤルミ様を崇める一族です。国を持たず、集落を作って生活していたのです」
「どうして国を作らなかったの? 作り方を知らないの?」
やんちゃそうな女の子が答えた。二人の顔はそっくりだ。10歳を少し過ぎたところだろう。
「国を作る気はなかったのです。そもそもお二人が命を産み落とした瞬間に、すでに各国は作られたのですから。スキスノ王国もいつの間にか王様が生まれ、平民が生まれていたという状態だったのです」
「神様ってすごいのですね。でも僕たちを助けてくれないのはなぜですか?」
「神は世界を生み出すことはできますが、それを極端にいじることはできません。なぜなら世界と神は同化したのですから。助言すら与えることもできないのです。なので私の先祖である魔女と現スキスノ聖国の法皇猊下はある程度の情報を与えられ、状況に応じて各地に知恵をばらまいたわけです」
母親は悲しそうな顔になった。魔女の記憶を受け継いでいることは、悲しみと悔しさも受け継いでいることである。
「さてハボラテの民ですが、彼等は神に近い一族です。腕力はもちろんのこと、知識も豊富です。過去に他国が攻めてきましたがすべて一蹴しました。百年前にサマドゾ領ができるまでまともな街はなかったのです」
「それが僕らのご先祖様なのですね」
「そうですよワイト。パルホもサマドゾの歴史をよく理解するのですよ」
「「はーい! バガニルお母様!!」」
ワイトとパルホは元気よく答えた。母親のバガニルはにっこりと笑う。
下ネタファンタジーのスピンオフですが、設定はきちんと語るべきだと思っています。
まず世界の成り立ちは神様から始まりますので、ヒルカとヤルミの設定を持ち出しました。