第十八話 ケダンの思い出
「や~い、化け物~!」
ケダンとナイメヌは幼少時から他人に化け物扱いされてきた。二人は男であるサリョド・サマドゾと従魔のアルジサマとの間に生まれた子供だからだ。
男なのに子供を産む。それだけでも異常であった。サリョドの血筋は特別で男同士でも子供を成すことが出来る体質を持っていた。
ピロッキ王国にある氷獄山という人を寄せ付けない極寒地獄のような山でサリョドはアルジサマと出会ったという。
二人の間に何が起きたかは知らない。13年前は銀色の悪魔と呼ばれていたアルジサマは周辺の村を荒らし回っていたという。冒険者となったサリョドがアルジサマを退治しに行ったが、帰ってきたときサリョドはアルジサマを従魔にしていたのだ。
その後、サリョドは妊娠した。父親はアルジサマだった。どうやって出産するのか? それは鶏のように尻から放りだした。小さな卵のような大きさで淡い光を発していた。その後、光が消えると犬耳と尻尾を持った双子の赤ちゃんが生まれたのである。
二人は一年足らずで5歳児ほどに成長した。サリョドとアルジサマ、ケダンとナイメヌの4人で旅をしていた。
だがケダンたちは友達が出来なかった。見た目は異質だし、母親がいない彼等を他の子供は不気味がって近づかなかったし、化け物扱いして遊んでいたのだ。
「化け物~。お前なんか死んじまえ~」
「なんで犬耳が生えてるんだよ、気持ち悪~い」
「一歩でも近づくなよ、近づいたら殺してやるからな」
子供たちの無邪気で残酷な言葉は、純粋なケダンの心を削っていった。その度にアルジサマは子供たちににらみつけ、小便をもらさせるのが日課であった。
ケダンは思った。どうして自分たちはひとと違うんだろうと。姉のナイメヌも同じくいじめられていたが、いつの間にか普通に人と接していた。なぜ自分だけが嫌われるのか理解できなかった。サリョドとアルジサマは強いから喧嘩を売る人間などいない。
「そりゃあ、あんたは他人を見下しているからよ」
ナイメヌが厳しい口調で言った。
「あたしたちは普通の子供と違って、すごく強いわ。鼻も犬並みだし体力だってある。だけどあんたはそれを鼻に掛けてる。あんたの傲慢さが身体からにじみ出ているのよ」
姉の言う通りであった。ケダンたちは確かに異形である。だが広い世界では獣人と呼ばれる人種はおり、割と知名度が高い。ケダンは僻んでおり、その空気を子供たちが読んでいたのだ。
「うるせぇ!! 俺はあんな奴らと同じじゃねぇ!! あんな弱っちい奴らなんかと友達になんかなれるわけがないんだ!!」
ケダンがそう吠えると、ナイメヌは処置なしと首を横に振った。
☆
5歳の頃にサマドゾ領でケダンはワイトと出会った。サリョドと共に里帰りで来たのだ。ケダンはサマドゾ領を見て驚いた。領都には牛頭のミノタウロスに下半身が馬のケンタウロス、羊人間のパーンや豚人間のオークなどが一緒に暮らしていたのだ。
サリョド曰く彼等はハボラテの都から来たものだという。そこでは大魔王エロガスキーの管理の元、モンスター娘や人間が仲良く暮らしているとのことだった。
「初めまして。僕はワイトです」
「……」
屋敷の中でケダンはワイトと対面した。5歳児で黒髪の愛らしい男の子であった。
ケダンはじろりとワイトをにらみつける。ナイメヌとパルホはすぐに仲良しになった。姉とはえらい違いである。
「……お前は俺を見て、何とも思わないのかよ」
「え? 君に何かついているの?」
ワイトはきょとんとしていた。彼にとってケダンの犬耳など珍しくないのだ。そんな人間など母親と共に連れていかれたハボラテの都で嫌と言うほど見ている。
「俺の生まれを聞いたことはないのか?」
「うん、サリョド叔父さんから聞いているよ。ハボラテではよくあることみたいだね」
まったくワイトは気にも留めなかった。さすがのケダンも呆気にとられた。
「へん、お前は口がうまいな。俺に取り入って何か得があるのかよ?」
「? 僕は口がうまいの?」
「……なんなんだよお前は」
ケダンの悪意などワイトにとってはそよ風のようなものであった。匂いを嗅いでも嘘をついていないことがわかる。ケダンはそれを見てワイトに興味を抱いた。
ケダンは右手に力を込める。すると爪が伸びた。ケダンは体の一部を強化できるのだ。
ケダンはワイトに向けて爪を振るおうとした。だがワイトはケダンのお腹に手を当てる。
するとケダンは腹痛に襲われた。何が起きたんだと、頭の中がぐちゃぐちゃになった。
「お母様から教わった魔法だよ。腹痛呪文というんだ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「ほらほら、トイレに行かないともらしちゃうよ。僕も一回粗相したことがあったからね」
これを喰らうと相手は腹痛に悩まされるのだ。くだらない魔法だが真剣勝負では致命的になる。
その結果ケダンはトイレにこもる羽目になったのだ。
それ以降ケダンはワイトを目の敵にした。後ろから襲い掛かってもワイトは気配を察ししてケダンを投げ飛ばした。母親のバガニルから英才教育を受けているワイトに常人が勝てるはずがない。
何度も叩きのめされていくうちに、ケダンはワイトに友情を感じたのである。
ケダンは実力主義者で強いワイトに惚れたのだ。
「うふふ。ケダンとナイメヌがいれば安心です」
12歳のワイトは変わり果てた。まるで女だ。男らしさがまったくない。女々しくなった友人にイカをが湧き、思わずケダンはワイトを切り裂こうとした。
するとワイトは足払いをする。ケダンは豪快にこけた。
「ぐえっ!!」
「魔法を使わなくても、なんとかなるものですよ」
「うっ、腕は落ちるどころか、上がってるじゃないか……」
ワイトがほほ笑んだ。外見はともかく彼はさらに強くなったと確信した。




