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第十七話 どっちをとるのか

「どういうつもりですかケダン?」


 犬耳の美丈夫であり眼鏡をかけ執事服をきちんと着こなすアルジサマが、同じく執事服を着た犬耳の息子であるケダンを狼が獲物を狙うかのようににらみつける。冷静を装っているが内心は休火山のように激怒していた。


「文句は大ありだ!! こいつは男だぞ!! ナイメヌと一緒にしたら舐め犬にされるのがオチだ!!」


 ケダンは憤っていた。なぜこんなに怒っているかはわからない。噴火寸前の火山で、いつ爆発しても置かくしなかった。だがアルジサマは山を知る山師のように息子の心を読んでいた。


「あなたはワイト様が好きなのですね。姉に取られるのが嫌だと。素直に言えばいいのに」


「なっそんなんじゃねぇよ!! 俺はこいつが嫌いなんだ!! けどナイメヌがひどい目に遭わされるのを黙ってみるわけにはいかねぇんだよ!!」


「あらあら。普段は姉ちゃんなんかどうでもいいといっているくせに。そもそも舐め犬ならパルホ様はどうなるのかしらね?」


 烈火の如く真っ赤になる弟に対して、姉は悪戯っぽく右手を口元に当てて笑っている。この状況を楽しんでいるようだ。


「パルホなんか関係ねぇよ!! あれがないんだからなぁ!! そもそも異性同士に世話をさせるのが意味不明だぜ!! 王立学園では同性以外の従者は認めないはずだろうが!!」


 ケダンは頭に血が上っているが馬鹿ではない。きちんと王立学園の校則は理解していた。彼は冒険者として命の危険を何度も晒していた。冷静さを欠けてしまえば死につながるからだ。


「実を言えばワイト様は女子寮へ、パルホ様は男子寮へ入ることが決まったのです」


 アルジサマの言葉にケダンの顔が真っ赤になる。


「ワイト様は美しい。中身が男と分かっていても、下手な貴婦人よりも男の眼をむきやすいのです。そんな中にワイト様を置いていけば男たちの欲望の餌食になってしまいます」


「そっ、それは……」


「あなたのようにワイト様を男子と割り切れる人間は少ないのですよ。あなたはワイト様に友情を感じているのはわかります。それに女装させられていると思っているのでしょう。ですがそれはワイト様が望んだことなのです」


 アルジサマの言葉にケダンは目を丸くする。まるで恋する乙女のようだ。そしてワイトの方を見た。


「……私は正直この格好は好きではありません。だって私は男ですから。ですが同時に周りの人たちから若い頃のお母さまそっくりと言われているのです」


 ワイトは母親であるバガニルを尊敬していた。男なのに母親に似ていると言われたら普通は不機嫌になるが、ワイトは違った。大好きな母親と同じ、それはワイトにとって最高の褒め言葉なのである。


「まだまだ魔法の腕は劣っているのは自覚しています。お母様の足元にも及ばないことにも……。ですが私は少しでもお母様に近づきたいのです。お母様を越えられなくてもその背中をしっかり追えるために……。なのでこれは試練です。ですからケダンも理解してほしいのです」


 そう言ってワイトはケダンの両手を握った。華奢な見た目とは違い、ゴリラの如く握力が強い。思わず握りつぶされそうになる。

 ケダンは水晶のようなワイトの瞳に真っすぐ目を見つめられ、赤くなった。太鼓のように心臓の鼓動が早まる。


「わっ、わかったよ!! でも俺は納得してないからな!!」

 

 ケダンはそっぽを向いた。まるでやきもちを焼く恋人のようだ。ワイトはケダンの強がりを見てほほ笑む。


「ところで拙者が男子寮に入っても問題ないでござるか!!」


「パルホ様は性別は女性ですが、外見が美少年なので問題はありません。それにお風呂は各部屋についてますので心配はいりません」


「なるほど!! そうでござったか!!」


 パルホはアルジサマの言葉を聞いて納得した。ちなみに世の中には性別は女だが、心は男である人もいる。学園ではそのような生徒のための校則がある。パルホの場合は女なのに女の魅力がないと言われているものだが、本人はまったく気にしていなかった。


「うふふ。安心しなよ駄犬。あたしが毎晩ワイト様とくんずほぐれず手ほどきをするからさぁ。あんたはパルホ様とハッスルしてればいいよぉ」


 ナイメヌが品のないことを言っている。するとケダンはまた怒り出した。


「誰がパルホを相手にするかよ!! 俺が好きなのはワイトだけなんだ!! 例え雌でもパルホなんか目じゃねぇよ!!」


「おお、ケダンのワイトに対する熱意、確かに伝わったでござるよ!!」


 ケダンにメス呼ばわりされてもパルホは怒ることなく、ワイトに対する忠誠心を褒めている。

 それを黙ってみていたサリョドがほほ笑んだ。


「ふふふ。4人とも仲良しでよかったわ」


「ですね。4人は幼馴染。互いの長所短所は理解しています」


「それにしても美少年だったあなたが一年でここまで成長するとは思わなかったわね」


 サリョドはアルジサマを見てつぶやいた。一年前はアルジサマは少年であった。アルジサマは黄金獣だ。長い年月を生き抜いた魔獣が進化したものである。13年前にサリョドと出会い、結ばれた。

 サリョドは自分の腹にアルジサマの精を宿した。何をしたわけではない、ただ一緒に寝ていただけで妊娠したのだ。それで生まれたのがナイメヌとケダンである。


「人間化は13年前でそれまで容姿は変わりませんでした。ここ一年で成長したのはこの日のためかと思います」


「……ワイトとパルホね。あの子たちはバガニル義姉さんとマヨゾリ兄さんをすでに超えている。恐らくは王立学園では台風の目になるでしょうね……」


「お二人を護るには、少年のままではいられないのですよ」


 そうアルジサマは答えた。その言葉には固い決意を感じる。


「ですが二人ともワイト様たちに対して口が軽すぎます。入国までにきっちり躾けないといけませんね」


 アルジサマは眼鏡をくいっと直すと、自分の息子たちをにらみつけた。サリョドもうんうんとうなずいている。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当に台風の目になりそうですね。
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