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第十六話 空飛ぶ城

「ところでこの銀色の建物は何でしょうか?」


 ワイトが訊ねた。まるで玉が地面に半分埋まっているような形である。ドアがあり、丸い窓がいくつもついてあった。

 それをサリョドが説明する。


「これは空飛ぶ城よ。サマドゾ王国内でしか採取できない浮遊石を使ったものなの。魔法使い4人で操縦する代物で、これがあればキャコタ王国まで丸一日で到着するのよ」


 サリョドは筋肉隆々の大男だが口調は女だ。なんでも昔は反抗精神剥き出しで、嫁に来たばかりのバガニルに対して敵意を抱いていたという。今は亡きゴマウン帝国の皇帝ラボンクの態度が気に喰わなかったからだ。

 だがバガニルに急所を潰されて以来女に目覚めたらしい。それ以降はバガニルとは女友達として接していた。


「すごいでござるな!! これは母上が作ったのでござるか!!」


「いいえ、初代皇帝ゴロスリ陛下からの賜りものです。そもそも浮遊石とは大魔獣トリガーのお腹に詰まった胆石なのです。それを利用しようと考えたのはゴロスリ様だけなのでございますよ」


 ゴロスリ。初代ゴマウン帝国皇帝であった女性だ。死後はスライムに魂を移し、遥か南方にあるトナコツ王国最大の密林アマゾオに住んでいるという。

 大魔獣トリガーは男を得られなかったハーピーが邪気をため込み巨大化したものである。大抵のハーピーは冒険者に殺されるので、大魔獣になるのは年に数体ぐらいだ。それでも冒険者に狩られるので胆石が成長した個体は希少である。


「確か1年前にベータス叔父様がこれに似たものを使ってましたね。あれは一度限りだったらしいですが」


「そうですね。元々ゴロスリ様が片道だけの魔力を注いでおらず、魔力の追加も受け付けませんでした。こちらは魔法使いがいれば何度でも使えます。ただ無暗に飛ばすことはできません」


「……各国の対応ですね」


 ワイトはサリョドの言葉を理解した。そもそもこの巨大な物体が空を飛ぶ。それだけでも脅威だが、自由に移動できると問題が起きる。

 空飛ぶ城に武器を搭載される危険性を指摘されるからだ。武器ではなく岩を各国の王都にばら撒かれる可能性もあるし、有毒な薬品をばら撒かれることもある。フラワー級の冒険者である荷庫梅歩にく ばいぶなら縮小ヘチナン呪文で岩などを縮小し、空からばら撒いてから解除すれば、王都を壊滅してもおかしくない。


「その通りです。私はキャコタ王国はもちろんのこと、カホンワ王国、オサジン王国、トナコツ王国、ヨバクリ王国、ゴスミテ王国を中心に説得してまいりました。これがゴマウン帝国時代なら謀反ありと兵を挙げられていたでしょう」


 最後の皇帝ラボンクは狭量きょうりょうで当時はサマドゾのやることなすこと難癖をつけてきたのだ。正確には配下のアヅホラ・ヨバリク侯爵とその娘バヤカロが煽てて煽ったためである。

 国民の為に政治を行うことを嫌い、昔のやり方に固執していた。前例に執着しそれ以外を認めることはなかったという。


「まったく面倒でござるな!! 度量がないでござる!!」


「馬鹿を言わないでパルホ。そもそも飛竜に乗って空を飛ぶのとはわけが違います。こちらは一度に大量の物資を運ぶことができる。例えサマドゾ王国が閉鎖されても空を飛んで敵地に亜人の兵士を送れば一気に戦況は変わるのよ」


 憤るパルホに対してワイトは宥めた。ピロッキ王国では飛竜に乗って戦うことがある。しかし空飛ぶ城はサマドゾ王国以外存在しない。各国は対空に対する備えはないのだ。いや大魔獣トリガーに対してはバリスタなどを用意している。しかし空飛ぶ城は文字通りの城だ。バリスタでは歯が立たない。


 だからこそサマドゾが戦争の意思がないことを事前に知らせる必要があるのだ。


「まあ、難しい話は後ですよ。ワイト様とパルホ様はこの城でのんびりくつろいでくださればよいのです。お世話はこの私ナイメヌと駄犬に任せてくださいな」


 犬耳のメイドであるナイメヌが歯を剥き出しにして笑顔になる。

 そこに犬耳の執事である少年、ケダンが抗議した。


「おいナイメヌ!! 駄犬とは誰の事だ!!」


「あんたのことよ。アタシたちの仕事はワイト様たちのお世話です。あんたみたいに主従関係を無視するお馬鹿さんは駄犬で十分よ」


 二人は双子の姉弟だ。ナイメヌが姉で、ケダンが弟である。

 それを見て二人の親であるサリョドはため息をついた。足元には銀色の狼の魔獣、アルジサマが控えている。

 アルジサマは二人に近づくと、いきなり二本足で立ちあがった。そのまま人間の美男子へと変化していく。裸だったが指を弾くと黒い執事服に変わった。着替コプスレえ呪文だ。

 銀髪に犬耳が生えており、銀色のふさふさのしっぽが揺れている。胸ポケットから黒ぶち眼鏡を取り出してかけた。知的な印象を受ける。


「二人とも喧嘩はやめるように。お前たちの指示は私がするからね」


 アルジサマに言われてケダンはしょんぼりとなった。サリョドにアルジサマと二人の父親には頭が上がらないのだ。

 ナイメヌは真摯に受け止めているが、ケダンは屈辱に震えている。反発しているわけではないが、思春期故の反抗期であった。ナイメヌの時は10歳で反抗期は終わっている。


「アルジサマさん……、叔父様に甚振られてないのに変身できるのですか?」


 アルジサマはサリョドに暴行を受けることで、その痛みと憎しみを魔力に変換し、サリョドを獣に変えることが出来る。

 魔法ではなく呪術の一種で、互いの気持ちが通じ合っていないと不可能だ。もっとも痛めつけられなくても変身は可能である。ただし人間のようにしゃべって歩くことが出来ても、実力は一般人並みであった。


「今回は特例ですよ。戦闘に参加するわけではありませんからね。それにサリョドが獣人化しては大使の役割は果たせません。ですよね?」


 ワイトの言葉にアルジサマが答える。サリョドはそれを見て頷いた。


「ではワイト様にはナイメヌを―――」


「だめだ。ワイトの面倒は俺が見る」


 ケダンはアルジサマをにらみつけそう宣言した。それを見てサリョドとナイメヌは互いに顔を見合わせてため息をついた。

 ワイトは心配そうに見ているが、パルホは面白がっている。

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[一言] 犬耳の姉弟。どう絡んで来ますか。
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