第12話 エロガスキーとの取引
「それでお前たちは何を持ってきたのじゃ。見たところ空手のようじゃが?」
大魔王エロガスキーは荷庫姉妹たちを見下ろしていた。その眼差しは心を凍てつかせる感覚になる。
だが荷庫梅歩は懐から何かを取り出した。それは小さな木箱である。
梅歩は木箱を地面に置き、箱を開くと中身は小さなものが入っていた。
「縮小呪文解除!!」とつぶやいた。
すると箱の中身は見る見るうちに元の大きさに戻った。
中身は木樽や織物、こけしなどの細工物が山積みであった。さすがのハボラテの民も驚いた。先ほどオークたちを一方的にのしたので、見下す者は少なくなった。
これらは使熊荷王国の名産品である。木樽は清酒が詰まっており、他にも細工物などが並んでいた。
あとは梅の木も数十本あった。根が腐らないように藁を巻いてある。
エロガスキーの部下であるヤギ頭の亜人バフォメットたちが品物を鑑定していた。誰もが美しい細工物や酒の味に驚愕している。ハボラテの民は雑な性格が多く、料理も味が塩だけで平べったい物がほとんどだ。
エロガスキーはひょいと木樽を手にした。子供がコップを手に取る感じだ。蓋を開けてぺろりと舐める。
「良い味じゃな。これほど洗練された酒は味わったことがない」
仏頂面だが本人は満足げである。荷庫三姉妹はそれを見てほっとなでおろした。
「この木は梅じゃな。日当たりのいい所に植えておけ。ここなら数年でドライアドのモンスター娘になるじゃろう」
エロガスキーに命じられたミノタウロスたちは梅の木を担ぐと、走り去った。
「よしお前たち。倉庫に置いてあるものを適当に持ってくるのじゃ」
大魔王の言葉に側近のミノタウロスたちが倉庫へ走っていく。数十分後、彼等は色々なものを持って来た。
金色の羊の魔獣の毛皮に、鉄竜の鱗に骨、それに血の入った壺。トレントの木材や木の実にアルラウネの葉っぱに種。虹色の虫の殻に羽根、蜂蜜などを持ってきた。それらは梅歩の持ってきた物より4分の1程の量であった。
「え、あれだけのものに対してこれっぽっちですか?」
「何たる失礼な! エロガスキー殿母上に訴えるでござるぞ!!」
それに対してワイトとパルホは抗議の声を上げた。それを小芥子が止める。
「問題ありません。むしろこれだけの品質のものと交換できるなんて夢にも思いませんでした」
「そうですね。精々鉄竜の鱗1枚もらえれば御の字でございますね。それだけでも元は取れますが」
「カモネチ王国では安く買い叩かれそうになりましたから、ここは良心的です」
小芥子と弁樹が驚いていた。彼女たちにとってこれほどの品物は想定外だったのだろう。カモネチに対して毒を吐いたのは、そこで嫌な気分にあったのかもしれない。
梅分もカモネチと聞いて仏頂面になる。ワイトとパルホの中ではカモネチ王国に悪い印象を抱いた。
さて梅歩が品物に近づくと「縮小呪文!!」と唱えた。すると品物は見る見るうちに豆粒になる。
それを木箱に詰めた。梅歩は木箱を懐に仕舞う。
「とても便利な呪文ですね、すごいです。お母様はあまり使いませんけど」
「使いこなせればな。下手に小さくすれば木箱の中でめちゃくちゃになるし、一度に複数の物を縮小するのも苦労するもんさ」
「それに梅歩から離れると呪文は解除され、元の大きさに戻ってしまうのです。使いこなせているのは梅歩だけなのですよ」
ワイトが感心すると、梅歩と弁樹が答えた。なんでも都合のいいものはないのである。この呪文は生き物を縮小することができない。あくまで物質だけを小さくできるのだ。魔女がいざ魔女狩りから逃げる際に荷物をまとめるために使うものである。
収容呪文はあるがこれは自身の魔力に際して収容できる数が決まる。貴重品などは収容呪文で、日常品などは縮小呪文で持ち出すことが多いという。特に冒険者は縮小呪文は無理でも収容呪文と着替え呪文は必須だと言われている。
「さてワイトにパルホよ。お主たちに念道布を渡そう」
エロガスキーが言うと、一人のアラクネが前に出た。黒髪で髷を結っている。簪などで飾られていた。
着ている服は使熊荷風の着物で紫の生地に蝶々と蜘蛛の巣をあしらったものであった。
背後には白い着物を着た男が控えている。中年男性でその横には小さなアラクネが男の右足に抱きついていた。親子なのだろう。
男は長方形の木の箱を手にしている。それをアラクネに渡した。
「こいつは使熊荷出身の男と結ばれたアラクネじゃ。布を織るのが得意じゃが、本場はさすがに違うのぅ」
エロガスキーはアラクネを紹介した。多分今までのアラクネが作った念道布は質が良くなかったのだろう。本場から来た職人の方が、より品質の良い物を織れたのだ。
ハボラテには様々な国から逃げてくるものが多い。特にモンスター娘が好きな男が目立つ。モンスター娘と結ばれることは獣姦扱いされる国が多いからだ。サマドゾ王国より北にあるスキスノ聖国は世界中に教会を建てている。特にモンスター娘との婚姻を反対していないが、基本的にその土地に染み込んだ教えを優先していた。
ちなみにハボラテにも人間の女はいるが、こちらは少数である。魔獣も黄金獣に進化すれば人間に変身することは出来るが、数が圧倒的に少ないのだ。ワイトたちの叔父であるサリョドは狼の黄金獣であるアルジサマと結ばれている。
さてワイトたちはアラクネから木の箱を受け取った。蓋を取ると中には雪原のように真っ白な布があった。これが念道布なのだろう。ワイトが手を取ると、生地の色が血で染めたように紅くなった。
慌ててパルホに渡すと、今度は色が薄くなり白に戻る。一体どういうわけだろうか。
「こいつは手にしたものの魔力に応じて色が変わるのじゃ。赤は情熱や勇気、愛情と怒りや爆発、争いを意味するぞ。白は純粋に明るい、完璧という意味がある一方で空虚に冷たい、薄情という意味もあるのじゃ」
エロガスキーが説明してくれた。確かにワイトは割と情熱的な部分が目立つ。パルホは純粋さが際立った。割と的を得ているかもしれない。
「この念道布で何を作るのでしょうか?」
「これを使って俺が因幡尼の衣装を縫うのさ」
ワイトの疑問を梅歩が答えた。すると双子は目を輝かせた。




