第十一話 ハボラテの都
「ここがハボラテの都ですか……」
荷庫三姉妹が茫然と見ていた。そこは塔のような建物が立ち並び、道路も石造りとは違う、平らですべすべなもので出来ていた。
道端には黒い鉄の燭台が並んでいるが、薄いガラスで覆われている。だが他国と比べるとどこかうすら寒い物を感じた。人の住む場所ではないと思われた。
それ以上に都の住民たちだ。人間はもちろんだが魔物が多い。ラミアにハーピー、ケンタウロスに人魚、アラクネにミノタウロス、オーガやゴブリンなど様々だ。
「皆さん、おひさしぶりです!!」
「ここは相変わらずでござるなぁ!!」
ワイトとパルホたちは気さくに住民に声をかける。異形の住民たちも双子に対して笑顔で返していた。
「ワイト様おひさしぶりです!!」「バガニル様に似て美しくなりましたね!!」「パルホ様もお父様に似て強そうです!!」
住民たちは人間や亜人も関係なく双子を取り囲む。全員が笑顔を浮かべていた。だが荷庫三姉妹は完全に無視されている。まるで最初からいないものと扱われていた。
「おい、あんたら俺たちを無視する―――」
梅歩が住民の人間の男の肩に手をかけようとした。
「あぁ?」
すると男はすさまじい殺気を梅歩達に向ける。他の住民たちも一斉に三姉妹をにらみつけた。よそ者に対しての嫌悪感と殺気を剥き出しにしている。
「なんだこいつら? 殺しておくか?」「いいやこいつらはワイト様たちが保護してやってる人間だ。殺してはならない」「気絶しないだけまだましだな」
亜人はもとより、人間も三姉妹に殺意を抱いていた。彼等はよそ者を忌み嫌っている。例外はサマドゾ王家の関係者くらいだ。三姉妹はここがいかに危険な場所か思い知らされた。花級はおろか、花びら級ですらきついであろう。
「……領都でも肌がざわめきましたが、ここはそれ以上ですね」
「蕾級では太刀打ちできません。それ以下が来たら心臓が止まってしまいます」
「俺もおとなしくしているよ……」
梅歩は借りてきた猫のようにおとなしくなった。それほどハボラテの都に蔓延る邪気の濃さにめまいと吐き気を覚えた。双子は普通に振る舞っており、さすがだと思った。
☆
「ようワイトにパルホ!! ひさしぶりじゃな!!」
どしんどしんと地鳴りがした。するとのっそりと山が動いて近づいてきている。いいや山ではない。一人の人間だった。金髪碧眼で十歳くらいの幼女の姿だ。ヤギの角が生えており、着ているのは黒いマイクロビキニのみである。だが7メートルほどの巨大な身体であった。
「あっ、エロガスキー様おひさしぶりでございます」
「相変わらずでかいでござるな!!」
双子は無邪気にエロガスキーに近づいた。三姉妹はエロガスキーのまとわりつく邪気の濃さに退いてしまう。エロガスキーは大魔王と呼ばれており種族はデビルだ。元は山羊のモンスター娘サテュロスから進化した存在である。普通の人間なら何もしなくても心臓が止まって死ぬ。
それに普通に接するのは、やはり双子はただものではなかった。
「……ところでこいつらはなんじゃ? 儂に何の用じゃ?」
エロガスキーは三姉妹を睨んだ。その瞬間心臓を鷲掴みにされた気分になる。それほどエロガスキーの力の差は歴然であった。邪気をたっぷり含んだ大魔獣と戦ったことは何度もあった。しかしエロガスキーは別格である。三姉妹は戦う気は起きなかった。台風などの天災を相手にするようなものだ。自然をどうこうすることはできない。
「お母様の言いつけです。念道布の受け取りと、小芥子さんの取引に応じてほしいとのことです」
ワイトが言った。手紙とかはない。しかしエロガスキーは即承諾する。
「バガニルの頼みなら仕方がない。念道布は問題ないが、取引は儂らの言い値でやるからな」
エロガスキーは再びにらみつける。三姉妹派が身が縮まる思いだが、話はなんとかなりそうだ。
「まてぇい!!」
そこに横やりが入った。それはオークたちであった。元は猪の魔獣が黄金獣に進化した者の末裔である。
「余所者と取引をするなど言語道断!! 我らは認めませぬぞ!!」
「そうか。お前らこいつらを倒せ。でなければ取引は中止じゃ」
エロガスキーは面倒臭そうに答えた。オークたちの提言を受け入れたのは、取引自体どうでもいいと思っている証拠である。
そこに双子が反論した。
「え……、どうしてそんなことをするのですか?」
「そうでござる!! 後で母上に言いつけるでござるぞ!!」
「お前たちの願いは聞くがこいつらの話を聞くとは言っておらん。この都では力がすべて。こいつらが弱ければそれまでのことじゃ」
エロガスキーはバガニルは苦手だが、引かない時もある。三姉妹は決意を固めた。自分たちの力を見せつけるのだ。
「ではこの私、荷庫小芥子がお相手します。巨大化呪文!!」
すると小芥子の手が巨大化した。オークたちは慌てるがもう遅い。小芥子の突きがオークに決まり、オークは建物の壁にめり込んだ。ぴくぴくと泡を吹いているが死んではいない。
「本気を出さないと、こちらがやられるところでした」
「次はこの俺、荷庫梅歩の力を見ろ!!」
梅歩は懐から何かを取り出した。それをオークたちに投げつける。それはおはじきのようなものだった。オークたちは馬鹿にされたといきり立つ。
「縮小呪文解除!!」
するとおはじきみたいなものは巨大化した。それは岩であった。縮小呪文で小さくした岩を仕舞っていたのである。オークたちは岩の餌食になった。
オークたちは岩の下敷きになって泡を吹いている。それでも死んではいない。かなり頑丈だ。
「最後はこのわたくし荷庫弁樹の力をお見せしましょう。老化呪文!!」
弁樹はオークの一人に近寄ると、オークの頭を両手で挟む。
「ほげぇぇぇぇぇ!!」
するとオークは見る見るうちに老化していった。逆に弁樹はぷっくりと太っていく。恐らく若さを吸い取ったのだろう。
「ふぅ、こんなものでいかがでふか?」
達磨のように太った弁樹を見て、オークを始めとした住民たちは恐れおののいた。だがエロガスキーは平然としている。
「……うむ、はったりとしては上々じゃな。皆のもの、この女たちは強い!! よって取引は公平に行うが依存はあるまいな!!」
雷のような声が響く。住民たちは渋々従った。ワイトとパルホも一安心している。それよりも三姉妹の方が安堵していた。
「……なんで面倒なことをするでござるかな?」
「大魔王だからですよ。普通の人と普通に取引をするわけにはいかないのです。オークさんたちもパフォーマンスとして絡んだだけですよ。ほら、オークさんたちはピンピンしてます」
ワイトが指を差すと、小芥子たちにやられたオークたちは平然と起き上がっていた。彼等はハボラテでは一番頑丈である。冒険者の力試しの相手をするのが彼等の仕事であった。
小芥子たちもあくまで住民に対する見世物だと気付いている。
「大魔王は大変でござるな」
「大変だから大魔王なのですよ」
パルホの言葉にワイトが答えた。
下ネタファンタジーではエロガスキーはどこかポンコツでしたが、それ以外だと大魔王としての威厳はあります。




