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エピソード6 ワイトたちは 世界中に 嫌われた

「あーっはっはっは!! 我が嫁よ!! 教職復帰おめでとう!!」


 いきなりワイトに抱きついたのは、すらりとした長身の美少年であった。いや中身は女性である。

 ここはキャコタ王立学園の廊下で、抱きついたのは王立学園生徒会長ガベリン・ヤソクウであった。

 彼女は男子の緑色のブレザーの制服を着ている。


「ちょっと、ガベリンお姉さま……」


「のんのん、ガベリンさんと呼んでくれ。僕は君の婿なんだからね」


「お前は女だろうが。頭でも打ったのか?」


 皮肉を言ったのはドゴランだ。彼は流れるような黒髪に美女と思わせる美少年だ。こちらは普通に制服を着ている。


「ふん、僕とワイトの間にはどんな岩山だろうが関係ないね。僕たちは魂で繋がっているんだ。例え世界の果てまで離れていても心はいつも一緒だよ」


 そう言ってガベリンは赤い一凛のバラをワイトに差し出した。その姿は気障そのものである。


「ワイトは俺の嫁だと何度言ったらわかる? そしてお前は俺の側室だと決定事項なんだがなぁ」


「おいおい君は男色の気があるのかね? 男の僕と愛し合いたいなんてよっぽど女が苦手と見えるな」


「お前も女だろうが」


「確かに体は女だけど、心は男だよ。股間に熱い男の剣を宿している。ワイトの子供ならお腹を痛めても平気だね」


 ガベリンとドゴランは言い争っている。ヤソクウ王国ではまだワイトとガベリンの婚約は解消していない。元々ガベリンは他国に嫁がせる予定だった。そのワイトがドゴラン王国に嫁ぐのはさすがにまずいので大使同士で調整中であった。


 ☆


「くっ、あいつらワイトの気持ちを無視していやがる……。少しはワイトの心を理解する気がないのかよ……」


 その様子を校舎の外で見ている少年がいた。黒髪の犬耳少年で執事服を着ている。ケダンだ。

 

「ワイト様は王侯貴族として政略結婚を認めているわ。あんたが文句を言う資格はないわよ」


 双子の姉であるナイメヌが言った。彼女も犬耳でメイド服を着ている。ワイトのメイドだ。


「まああの二人に言い寄られるのはいいのよ。周囲にはあの二人以上に押しの強い人はいないからね。問題は他国の生徒たちなのよ」


 ナイメヌはうんざりしたような顔になる。現在ワイトとパルホには他国からの見合いの話が来ていた。魔女の子孫である二人を母国に取り込むつもりなのだ。

 だがワイトの故郷サマドゾ王国の大使であるサリョドは、お見合い話を片っ端から断っている。

 他国はサリョドを責めまくったが、キャコタ王室が抑えていた。


「ふん、ワイトに見合う男なんかいるものか」


「それは自分だと言いたいわけね?」


「その通り……、なわけないだろう!! お前は俺を馬鹿にしているのか!!」


 ケダンが激怒すると、ナイメヌはからからと腹を抱えて笑った。

 ひとしきり笑い終えると、むくりを起き上がり真剣な顔になる。


「ワイト様たちと婚姻を結ぼうとする連中はまだ健全ね。問題は二人を抹殺しようとする輩がいる事よ」


「あの二人を殺そうというのか? 大魔王エロガスキーのことを忘れたのかよ?」


「忘れているんでしょうね。世界には二人をすぐ処刑するべきだと訴えているけど、大抵は先進国もそうだけど発展途上国ですら反対されているわね。魔女の子孫を嫌っていたけど、あの件で益々嫌いになった感じかしら? 恐らくは邪気中毒症候群が悪化したと思われるわね」


 ナイメヌの説明にケダンはうんざりした顔になった。

 ここ最近王立学園の敷地に不審者が相次いで発見されている。全員王立学園の責任者であるダイザフ侯爵の私設軍によって逮捕されていたが。

 別に他国の諜報員と言うわけではなく、キャコタ王国の国民がワイトとパルホを暗殺するために忍び込んだのだ。

 どれも生活苦で社会不適合者ばかりであった。魔女の子孫を殺せば世界が平和になると思い込んでおり、自分が正義と信じていた。


 魔導テレビでも彼等が逮捕されるたびに彼等は可哀そうだ、彼等はワイトとパルホの犠牲者なんだと騒ぎ立てる。マスコミの中には魔女の子孫を嫌っており、二人を陥れる放送ばかり繰り返していた。

 もちろんキャコタ王室は抗議したが無視されたので逮捕したが。


「まるで祭りだな。世界に魔女の子孫を殺す熱気が高まり、一般人でもワイトたちを殺そうとする。滅茶苦茶すぎるぜ」


「キャコタの貴族でもワイト様たちを処刑せよと訴えている人がいます。もちろんキャコタ王は退けますけどね。でも思い通りにならない奴は何をしでかすかわかりません」


 そう世界は魔女狩りを望んでいる。それも恵まれない不幸な人間たちが集まり、ワイトとパルホの死を願っているのだ。

 花級フラワークラスや花びらペドルクラスは誰も二人を嫌っていないが、種級シードクラス芽級スプラウトクラスには二人を憎んでいる者が多い。二人は生まれつき恵まれているのが気に喰わないのだ。


 遠くでワイトを巡り、ドゴランとガベリンが言い争っている。その様子を他の生徒達は微笑ましく見ていた。


「けどよぉ、雑魚が何人、何千人集まってもワイトとパルホの敵じゃないよな」


「そりゃそうですけどね。そもそもそんな目障りな連中は私たちが始末しますし」


 そう言ってナイメヌはスカートからナイフを取り出した。


「三時の方角から侵入者です。足音や臭いからしてタダのチンピラですね」


「違うぜ、ただの虫だ。俺たちは虫退治をする。それだけのことさ」


 ケダンがつぶやくと二人は一瞬のうちに消えた。

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[一言] 大きな騒動は収まっても、小さなものは残りますか。
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