第十話 ハボラテへの道
「ワイト様、パルホ様。おひさしぶりでございます」
ワイトとパルホの目の前には三人の女性が立っていた。
一人は鴉のような艶のある黒髪が腰まで伸びており、小柄な陶器のような人形ような美しい顔立ちの女性だ。
銀のハチマキに白い装束、赤い袴を履いている。使熊荷王国の巫女、荷庫小芥子であった。
彼女の後ろには、雀のような黒髪に女性にしては中肉中背で法被のような赤い衣装に、仁王襷をつけていた。やんちゃ坊主のような笑顔を浮かべ白い歯を剥き出しにしている。
彼女の名前は荷庫梅歩といい、小芥子の妹だ。
最後に黒髪のおかっぱ頭で眼鏡をかけた小柄の女性が控えている。小芥子と同じような衣装を着ており、控えめである。彼女も小芥子の妹で荷庫弁樹といい、荷庫三姉妹の次女だ。長女が小芥子で三女が梅歩であった。
荷庫家は荷庫神社といい、商人や旅人たちの荷を守る役目を持っている。特に王家の荷は普通の商人たちには預けられない。王国内に荷庫神社は広がっており、独特の情報網を持っていた。
小芥子たちは荷庫神社の統理の娘だ。彼女たちは修行の為に海外に出て見聞を広めているのである。その一方で使熊荷のために仕事をしていた。
「はい小芥子さんたちもおひさしぶりですね。2年ぶりでしょうか」
「小芥子さんたちはまったく変わっておらんでござるな!!」
ワイトとパルホは三人とは顔見知りである。バガニルに頼まれて二人に稽古をつけたのだ。もちろん当時は10歳の二人に立ち向かえるわけがない。小芥子たちの技を見せて体験させるのが目的であった。
それに小芥子からは使熊荷王国の華道に茶道、舞なども教わっている。特にワイトが様になっていた。パルホも落ち着いているが、ワイトの方が絵になるように見える。
「……お二人は随分成長しましたね。見違えました」
「というよりもまったくの別人でございます。ワイト様はバガニル様そっくりになりました」
「パルホはマヨゾリ卿に似てきたなぁ!! 何を食えばそんな風になるんだ!?」
小芥子と弁樹は控えめだが、梅歩は豪快であった。小芥子たちは梅歩を小突いた。
ワイトたちは両親に似ていると言われて、嬉しそうである。
そこでコホンと小芥子は咳払いした。
「それはそうと今回私たちがサマドゾ王国に来たのは、バガニル様の依頼でございます。ワイトとパルホ様を西にあるハボラテの都へ護衛するためです」
「ハボラテの都、ですか?」
「はい。都に赴き、念道布を受け取りに行くそうです。ですがバガニル様は忙しいので同行できず、代わりに私たちが護衛として雇われたわけですね」
その通りですと小芥子は首を縦に振る。母親と同行できないのは残念だが、必要ならば仕方がない。
「念道布を何に使うのでござるか?」
「それは手に入れてからのお楽しみです」
パルホの疑問に弁樹は優しく笑って右手の人差し指を口に当てた。内緒なのだろう。
これはのちのお楽しみということで、二人は納得した。
「まあ、俺たちはそれだけじゃないけどな!!」
梅歩はがっはっはと笑い飛ばす。まるでおっさんだ。姉たちは妹の素行の悪さに頭を悩ませていた。弁樹は反面教師にするようにとワイトたちにそっと耳打ちする。
☆
「ふぅ、相変わらずこの森は険しいぜ」
梅歩は弱音を吐いた。彼女たちは花級であった。冒険者としては名が売れているし、実力も高い。海の大魔獣を三人で狩ったこともある。
そんな彼女たちでもハボラテへの森は何度も行きたいと思えない場所であった。
人をあっさりと飲み込む暗く深い森に、棲んでいる魔獣も桁外れの強さを持つ。
うねうねと動き回る人食い花はハーピーを自慢の蔓で捕らえて首を絞め喰らい殺すことがあった。
巨大な虫が徘徊しており、狼や猪の魔獣を食い殺すのも日常茶飯事だ。
森の中も方向感覚がわからなくなり、花級はおろか上級の花びら級の冒険者でさえ立ち入ることを躊躇する。
「ハボラテもひさしぶりですね」
「そうでござるな。エロガスキー殿も元気でござろうか」
ワイトとパルホは平然と森を歩いている。まるで散歩のような気楽さだ。その癖、茂みなどに隠れている魔獣はすぐに見つけて小芥子たちに退治させていた。
冒険者にとってこの手の森はかくれんぼの感覚で挑む。それも見つかったら命に係わるかくれんぼだ。
ハボラテに続く魔獣たちは知恵が回るものも多い。腕の立つ冒険者も不意を突かれれば簡単に殺される。荷庫三姉妹も隙を見せればその身を食われる可能性があった。
「……さすがサマドゾ生まれと言いますか、バガニル様とマヨゾリ様のお子様と言いますか……」
「この森を熟知しているようですね。経験がものを言う典型ですわ」
「同年代で、あれほどの腕を持つ者は見たことがねぇや。いや、モコロシのドゴランがいたっけ」
三姉妹は双子の後姿を見ながらつぶやいた。
「ぐるらららぁぁぁぁぁ!!」
突如咆哮がした。それは巨大な何かであった。飛蝗のような顔つきにクワガタの挟みのような牙が生えている。手足は蜘蛛のように8本生えており、足は芋虫のような形をしていた。
「バグゾンビですね。蟲の魔獣の死骸を取り込んだ魔獣ですわ」
小芥子が収容呪文を唱えると長刀を取り出した。別名アイテムボックスと言われている。
冒険者としては基本的な呪文だ。
弁樹は鞭を、梅歩は大木槌を取り出した。
「ワイト様、パルホ様、お二人はさがって―――」
だが戦いは終わっていた。バグゾンビはすでに溶けてなくなっていた。
双子が倒したようだ。
「どっ、どうやって……」
「はい、この手の魔物は身体を繋ぎとめる核があるのです」
「ワイトが核を見つけて拙者が斬ったのでござるよ!!」
二人はなんでもないと胸を張った。それを見た三姉妹は茫然となった。もちろんバグゾンビの核は知っている。双子は何でもないように振る舞うが、自分たちですら核を見つけるのは一苦労だ。小芥子と梅分が戦い、弁樹が核を探るのが流れである。
双子はあっさりとしていた。弱点を知っていても簡単にはいかない。熟練の冒険者でなければ無理なのだ。
「姉上たち……。ひょっとして俺たちが護衛の対象じゃないのか?」
「「……でしょうね」」
三人は何とも言えない表情になった。双子は虫取りを楽しむ感覚だった。
荷庫とは荷を倉庫に預ける意味です。
小芥子は芥子を精製する意味があります。
弁樹は樹を見極める意味があります。
梅歩は梅を分けて歩くという意味で付けました。ひどい名前ですが理屈をつければもっともらしく見えます。




