エピソード2 世界各国で 暗愚な王が 消えまくっていた
「はーい、頼まれた土と木を持ってきましたよ~」
お昼ごろ、マジッサ王国の王都にあるドボチョン教団の本山に三人の女性がやってきた。
一人はまっちょで二人はちびだ。だがちびの方が30歳の子持ちの人妻であることは知られていない。まっちょも子持ちだ。
三人はセヒキン三姉妹といい、シジョフ、シジョム、シジョルの三人で花級の冒険者をしている。
彼女たちは何もない空間から手を突っ込むと、そこから大量の土と木などが出てきた。
子供の大きさほどの量で、色は様々であった。さらに樹木も一軒家ほどの量があり、どうやって持ってきたか疑問がわくだろう。
彼女たちは収容呪文、別名アイテムボックスで大量の物を収容していたのである。
「ご苦労。これで研究がはかどる。ありがたい」
教会から出てきたのは、一人の男だった。赤い肌で筋肉隆々だ。赤いモヒカンに、身に着けているのは股間を隠す獣の角だけである。年齢は40代だが、若々しさを感じた。
彼はカハワギ王国の花びら級の冒険者、フチルンである。カハワギ王立アカデミーで教授を務めており、レッドモヒカンチームを率いていた。
フチルンは現在マジッサ王国の地質調査を行っていた。教え子たちは各地に散らばり、精霊魔法によって土地や動植物の調査をしていたのだ。
さらにドボチョン教団はスキスノ聖国の影響が強く、年に何回か地質調査を行っており、二千年近くのデータがそろっている。
フチルンはそれらをカハワギ王立アカデミーに送り、自分はここで研究を続けていたのだ。
すでにワイトが世界を復元して一か月は過ぎている。この件はキャコタ王国がスポンサーになっているので、冒険家業を休業しても問題はない。だがフチルンは長年の謎を解かずにはいられなかったのだ。
「セヒキン三姉妹のおかげで、普通は採れない鉱石や動植物を回収できる。感謝の気持ちでいっぱいだ」
「あたしたちの土地は痩せてて農業に向いてないのよ。だからこそ身体を強化してもぐらのように地中に潜り、鉱石を採掘することに特化したわけね」
ピンク色のツインテールに、白と黒のゴスロリドレスを着た少女が答えた。彼女はシジョフで三姉妹の一番上だ。なんとなく夢見がちに見えた。
「でも息が詰まりそうだったわね。有毒ガスとか水銀とかではなく、邪気が濃い感じがしたわ」
ピンク色の三つ網でこちらも白と黒のゴスロリドレスを着ている。次女のシジョムだ。
どこか子供っぽさを感じる。
「かといって周囲に邪気が充満しているわけではないのですよ。長年しみ込んだ感じがしましたね」
ピンク色のアフロで、白と黒のビキニを着たマッチョが答えた。三女のシジョルで一番背が高い。
彼女たちは世界各国で様々な鉱石を採取し続けてきた。それ故に鉱石に関しては学者並みに詳しいのである。
「マジッサ王国を覆う邪気は晴れている。これはワイトたちのおかげだ。だが長年鉱石や動植物に邪気がしみ込んでいる。これから調査をしなくてはだめだな」
フチルンが言った。
「ところでマジッサ王国の国民はどうなんですかね? 彼等は健康を害していないのでしょうか?」
シジョムが訊ねた。するとフチルンは首を横に振った。
「現在ドボチョン教団の人間を使って検査しているが、大体が邪気中毒に陥っているらしい。しかも生まれたての赤ん坊ですらだ。これはマジッサ王国が万年邪気に覆われていたのが原因らしい。教団が保存していた報告書では、下手すればマジッサの邪気は耐性のない人間を一気に魔石化させるほどの数値だった」
「ワイトたちが平気だったのは、耐性があったためでしょうね。あとは花級の冒険者なら濃い邪気のある土地の調査はお手の物ですから」
「マジッサが長年鎖国状況だったのは、これが原因でしょうね……。下手に他国の人間を入国させれば、邪気に耐性のない人間は魔石化してしまう。ヤコンマン台下がホムンクルスの身代わりを寄越したのも納得ですね」
フチルンの説明にシジョムとシジョフは納得した。世界各地には邪気の濃い場所がある。普通の人間なら体内の邪気に反応して、魔石化してしまう危険地帯だ。
ワイトたちのような冒険者なら邪気に対しての抵抗がある。
「キョワナ王子のような子供がドボチョン・ロックブマータとコブラツイスターズに嵌ったのは、マジッサ王国出身だけではなく、先天性邪気中毒症候群の可能性が高いですね。子供たちを利用するなんて許せません」
シジョルは義憤にかられていた。彼女には小さい子供がいる。子供はある程度成長してから姉たちと共に冒険者となった。セヒキン一族の価値を高めたいためだ。
同時にセヒキンを取り込んだヨバクリ王国も知名度を上げている。
先天性邪気中毒症候群は、邪気中毒の親が子供を作ることで生まれるものだ。
後天性と違い、最初から邪気中毒なので落ち着いているが、どんな障害があるかわからない。
「魔女ドボチョンはまだ生きている可能性が高い。だがどこで何をしているかはわからない。しかし今はマジッサ王国をなんとかするのが先だな」
フチルンが言った。マジッサ王国は国王キガチィ40世がいなくなったため、混乱していた。
そこでキャコタ王国が乗り込み、キガチィの長男、ヘボイン一世を即位させる。
宰相ヒアルドンの一族は全員追放し、キガチィの次男、ボクンラを宰相に仕立てた。
現在、マジッサ王国では冒険者ギルドが設立されている。マジッサの辺境伯たちも入国を認めることにした。
だが問題はある。今まで北部のピロッキ王国と東部のサゴンク王国はおとなしくしていたが、生き馬の目を抜くのが好きな彼等が動く可能性が高い。
南部のカモネチ王国はすでに新たな王太子がマジッサ王の即位を祝福に来ていた。
「そういえばピロッキ王国のバゾンク王が行方不明になった話を聞いたわね……」
「サゴンク王国でも国王の長男である王太子が消えたとの話も聞いたわ……」
「それもマジッサ王とヒアルドンが消えたのと同時期に……」
セヒキン姉妹は互いに顔を見合わせた。実は世界各国で王侯貴族が消える事件が多発していたのだ。
それもキガチィと五十歩百歩の性質の人間が……。
「我々にできることは、目の前の厄介事を片付けるだけだ」
フチルンが言った。それを聞いてセヒキン姉妹は頷くのであった。