第百話 情報は 実体のない 金貨である
「ここがマジッサ王国の国境ですか」
太陽が真上になっていた頃、ワイトたちの一行はサゴンク王国とマジッサ王国の国境に来ていた。サゴンクの国境は木造建てで、数百人の兵士たちが見張っていた。
国境には宿屋があり、馬小屋があった。
対するマジッサ王国の国境は一里(3・927キロ)ほど離れており、周囲は森なのでぼんやりとしか見えなかった。
宿屋には多くの商人でにぎわっていた。彼等はマジッサ王国の商人たちと取引をしているのだ。
マジッサの商人たちは国を出ないが、取引だけはするという。
「まずは情報収集だな。現在のマジッサがどうなっているか、調べないといけないな」
犬耳少年のケダンが言った。それに双子の姉である犬耳少女のナイメヌも同意する。
「その通りです。マジッサ王国の情勢はかなり変化しているとみて間違いないでしょう。商人たちから情報を聞き出しましょう」
「ここは私の出番ね。まかせてちょうだい」
そう言って双子の父親であり、母親であるサリョドは商人たちが集まる酒場に行く。
そこで彼は収納魔法で収めていたキャコタ産の蒸留酒や布製品、ヤソクウ産の薬草などをサゴンク王国の商人たちに見せた。彼等はこれらの商品はマジッサで高く売れると判断し、買い付けた。
逆に彼等はマジッサ王国産の木材や魔獣の皮に骨を見せる。他の国と違って宿している邪気はけた外れであった。キャコタに売れば高い値段で売れるだろう。サリョドはそれらをすべて買い取った。
「さすがはサリョド叔父様だ。商人相手に引けを取らない」
「まったくでござるな。素材の良しあしを判断するのも、冒険者にとって重要なことでござるよ」
甥のワイトと、姪のパルホは感心していた。ケダンとナイメヌは父親の手伝いをしている。二人とも慣れているようでてきぱきと父親の指示に従っていた。
「うむ。あの駄犬もなかなか優秀だな。なのにワイトと関わるとポンコツと化す。ワイトは罪作りな男だな」
その様子をドゴランが眺めていた。12歳だがすでに王者の風格を醸し出している。そこらの平民ではドゴランの覇気に気圧されて土下座してもおかしくないだろう。
「なんなんだあのオカマは? 普通冒険者なら冒険者の酒場で、冒険者同士で情報を交換するのが普通のはずなのに。なんで商人のまねごとをしているんだろう、意味が分からない」
キョワナはサリョド達を見てそう吐き捨てた。キョワナにとって冒険者が情報を得るときは、冒険者に酒を一杯を奢るのが普通だと思っている。しかし現実では冒険者は自分の情報を簡単には売らない。なぜなら冒険者にとって情報は飯の種であり、命を繋ぐ大切な宝だ。
冒険者ギルドで開示される情報は、モンスター娘や魔獣がどこに住んでいるか、どのような形態でどれほど強いかは共有される。賢者の水晶に送信されるからだ。
だが貴重な薬草や鉱石、動植物の情報は明かされない。花級や花びら級は口が堅い。初心者には魔獣の倒し方を教えても、とっておきの情報は絶対に明かさないのだ。
明かしてほしければそれ相応の対価を支払わなければならない。商人たちと取引をしたのはそのためである。今回はサリョドが担当したが、実際はワイトたちがやらなければならない行為なのだ。あくまで手本を見せたに過ぎないのである。
その証拠にワイトとパルホはサリョドの行動を逐一観察している。時折ケダンやナイメヌに質問したりしていた。
ドゴランはその様子を見てますます感心し、逆にキョワナはそんな二人を薄汚い浮浪児を見下すような目で見ていた。
「ふぅ、マジッサ王国の情報をかなり得られたわ」
自国はすでに夕方で、日が落ちかけていた。サリョドが汗をぬぐいながら宿屋にある食堂で説明をしていた。
「結果で言えばマジッサ王国は何も変わりはないわね。ヤコンマン台下を火あぶりにした話も聞いたことがないそうよ。もっとも本人たちはそんな夢を見たと言っていたらしいわね」
「まったく動きがないのですか……。一体何を考えているのでしょうか」
「逆に考えれば動く必要がないからじゃないかしら? マジッサの王様はいつでも殺せるけど、器であるキョワナ王子が来るのを待っているかもしれないわね」
サリョドの言葉にワイトは考え込んだ。サゴンク王国の道中では盗賊などが襲ってきた。
どれも演劇に出てきそうな二枚目が多く、まるで舞台俳優のようなふるまいが目立っていた。
それらをワイトたちは問答無用で一掃してきた。主にエスロギの部下であるパンダ三頭が潰してきたが。
それを見たキョワナはますます不機嫌になる。美形はいくら犯罪を行っても無罪になるべきだと信じているのだ。逆に不細工な相手は問答無用で死刑にすればいいと考えている。
ドボチョン・ロックブマータとコブラツイスターズでも似たような話があった。もうキョワナは現実と物語の区別がついてないのである。
「ところで私たちはマジッサ王国に入国できるのでしょうか?」
「あらあなたなら簡単でしょう? これがバガニル義姉さんなら簡単に思いつくはずよね?」
サリョドが意地悪っぽく答えると、ワイトは考え込んだ。そしてポンと掌を叩く。
「そうですね!! ここは一発、自己暗示魔法で行きましょう!! 私たちはマジッサ王国の生まれにするのです!!」
ワイトの提案に全員賛成した。サリョドはそれを見てにっこりと笑うのであった。
この作品は変な人が多いけど、実際は厳しい世界です。
情報を得るにはきちんとした対価が必要なのですよ。
話をしただけで情報を得られるのは、ゲームの中だけです。
ジュヴナイルなら激高ものですけどね。




