第九十九話 キョワナの かわいそうじゃない 過去の話
「ふふ、ふふふふふ……。不細工な冒険者が、美男子の海賊を殺すなんて……。まったく彼等は弱い者の気持ちを理解していませんね。海賊たちは爪に火を点すような生活を送っていたのに、それに対して救いの手を差し伸べないなんて、人間のすることではありませんね」
黒っぽいハムスターのような美少年が、何やらぶつぶつと独白していた。彼の名前はキョワナ・カモネチ。カモネチ王国の王子だ。本来なら小柄で愛らしいのだが、今の彼は非常に暗い。この世のすべてを憎んでいるような雰囲気があった。
現在、彼等はサゴンク王国の街道を歩いていた。サゴンク王国の第一〇王子バオカジの行為は王家と反すると言い、彼を王族から除名したという。そしてすべての被害はサゴンクが弁償することになった。本来サゴンクはドゴランの国と友好的になりたいのだ。それを嫉妬したバオカジが台無しにしかけた。
それらはドゴランの配下たちがすべて片づけている。だがキョワナは彼等の行為にイラついていた。
「なんでキョワナさんは美男美女にこだわるのでしょうか。それに悪いことをしても笑って許すことにこだわっていますね」
キョワナの後ろで腰まで伸びた豊かな白髪の美少年が言った。赤いバニースーツを着ている。見た目は美少女にしか見えない。胸は断崖絶壁だが、それ以外は完璧であった。
ワイト・サマドゾだ。
「そうでござるな。なぜドボロクの真似をしたがるか理解できないでござるよ」
日焼けした黒髪の美少女が答える。ワイトの双子の妹パルホだ。彼女は黒いバニースーツを身に着けていた。この衣装は素材が違う。うさ耳は遠くの物音を察知することが出来る。ハイヒールは大地の力を吸い取り、バニースーツはそれらの魔力をため込むことが出来る優れモノだ。
「やはりあの子の過去に問題があるようね」
声をかけたのは山のように大きな男だ。だが口調は女性に近い。双子の叔父であるサリョド・サマドゾだ。黒革のチョッキに、黒革の短パン。サングラスにとげ付きの肩パットに、黒革の長靴を履いている。
「過去……、ですか?」
ワイトが訊ねるとサリョドは教えてくれた。
キョワナの母親はマジッサ王国から亡命してきた貴族であった。宰相ヒアルドンの娘だったが王族の横暴に耐えかねたらしい。
彼女はカモネチ王国へ亡命した。そこで城のメイドをしていたが、国王が手を付けて側室にしたのである。マジッサ王国の人間は常人よりけた外れの魔力を宿している場合が多い。それ故に世界各国の王侯貴族はマジッサ王国出身の女性を側室にすることを好む。なぜなら今は魔法の時代だからだ。魔女の脅威は先進国になると薄れていき、強大な魔力を宿す子供を欲しがったのだ。
キョワナが側室の子なのに王太子になったのは、単純に男の子がキョワナしかいなかっただけだ。
正室や他の側室には蛇蝎の如く嫌われていた。何もしていないのにいじめられていたそうだ。
だが母親は本当に何もしなかった。自己中心的で他人の事など眼中になかったという。何もしないから嫌われていることに気づいていないそうだ。
「なるほど。母親のせいでござるな。そのせいで友達もできなかったのでござろう」
パルホが頷いた。王太子と言えど母親の力は弱いし、相手にしたくなかった。本来なら学友をつけるはずだが、誰もがキョワナと一緒に勉強することを嫌がった。キョワナ自身根暗であり母親と同じ自己中心的な性格ゆえ、当然の如く嫌われていた。
人に気遣うことが大嫌いで、努力することも嫌っていた。
そんな彼にとって城の図書館で読むジュヴナイルが最高の友達だった。
ジュヴナイルを読んでいる時だけ、自分は自由になれると思っていたそうだ。
「正直、同情できませんね。母親の影響もあるでしょうが、周囲の人間によって歪んでしまったのでしょう」
自分は偉いのになんで周囲は自分を蔑ろにするのか理解できなかったのだろう。
ワイトはそれを聞いて眉をしかめた。自分はサマドゾ王国の後継者にはなれなかったが、自分の役割は理解している。貴族は平民の生活を守るために働かねばならない。そうしないと領地の運営ができないからだ。平民の生活を向上させることにイラつく貴族は、大抵本来は当主になれない次男坊くらいなものだ。
領地運営の重要さを教えられなかったためである。
「先ほどのシフンド様たちの行為に対しても悪態をついてましたね。キョワナさんの発言はかなり不愉快です」
ワイトが言った。シフンド達は美形ではないが、荒海を乗り越えた精鍛な顔つきをしている。
ワイトは数々の冒険を乗り越えた冒険者が好きだった。だがキョワナは彼等を馬鹿にしていた。美男美女なら人を殺したり物を盗んでもお咎めなしにするべきだと主張している。
「ふはははは!! 我らはアウテマ盗賊団!! サゴンクを救うために立ち上がった正義の使徒である!!」
アウテマと名乗る男は美形であった。赤毛で右目に眼帯を付けており、鉄の鎧を着て白馬に乗っている。
背後には百数人の男たちが槍や剣を持っていた。どれも血がこびりついており、大勢の命を吸ったように見える。
「えい!」
ワイトは持っていた杖で火の玉を出した。それはアウテマの顔に当たり、あっという間に燃え上がる。
「ひぎゃああああああああ!!」
アウテマは馬から転げ落ちると、ごろごろと地面にのたうち回った。そして暴れる馬の脚に頭を踏みつけられて死んだ。
男たちは慌てふためき、頭がいなくなったので蜘蛛の子を散らすよう逃げ出した。
「なっ、なんで!! 何で殺したんだ!! あんな美男子を殺すなんてワイトは人の心がないのか!!」
キョワナはワイトを非難した。アウテマはサゴンク王国で数々の村を焼き払った極悪人だ。
捕まれば死刑は間違いなしである。そのことをキョワナに話しても聞く耳持たない。
「死刑になるなら、逃がすべきだったんです!! もし彼を捕まえて死刑にされたら、僕たちがその人たちを殺したことになるんですよ!!」
しかしキョワナの話など誰も聞かなかった。彼の自分勝手な発言など聞く耳持たないからだ。
だがキョワナは確実に不満を溜めている。それがいつ爆発するか、ワイトたちにはわからなかった。




