第九話 ワイトは女子の パルホは男子の制服を着ることになった
「お二人は異なる制服を着てもらうことになり申した」
サマドゾ王国の城の応接間にでっぷりと太った男がソファーに座っている。緑色の立派な服に丸眼鏡をかけており、口髭がピンと上を向いている。腕を組み、足を開いていた。
キャコタ王国の大使、モッニである。彼は愛嬌のある笑顔でサマドゾ王国の王妃バガニルと対面していた。黒を強調したドレスを着ている。
「……それはワイトは女子の制服を、パルホは男子の制服を着ろとおっしゃるわけですか?」
バガニルは複雑そうな表情で、モッニに聞き返した。こくんと首を縦に振る。もう決まったことの様だ。
「ご子息はどう見ても女性にしか見えません。声も聴きましたが、女性として違和感がございませぬ。ご息女は男にしか見えませぬな。品がないわけではございませぬぞ。美男子と言って差し支えないで候」
なぜキャコタ王国の大使が来たのか。それは二人が来月キャコタ王国王立学園に入学するために調整に来たのだ。もちろん制服は数か月前から用意されている。だが最終的な確認も含めてモッニが来たわけだ。
「正直申し上げますが、お二人の変貌は劇的でございますな。一年前は普通の男女でござったが、ワイト殿はそこら辺の女子より美しくなっておりまする。パルホ殿も男装の麗人に見えますなぁ。周りの女性たちが黄色い声を上げずにはいられん気持ちは理解しているで候」
「……私たちは普通に教育していたつもりでした。とはいえ二人は素直な性格です。魔法や武術の修行はきちんとこなし、座学や礼儀作法も問題ありません。なのに、二人の変貌は私たちでも予測外でした」
バガニルは頭を悩ませていた。だが二人は問題を起こしているわけではないのだ。ワイトは見た目は女の子だが、男の精神を持っている。教育係が見た目が悪いので女性らしい仕草と行儀作法を教えたら素直に従っていた。パルホも同じだ。
問題は本人たちではなく、周囲であった。
「制服の件は大丈夫なのでしょうか?」
「問題はございませぬ。世の中には身体は男なのに、心は女の子という人もおりまする。その子は自分が男子の制服を着ることに疑問を抱き、吐き気を催すこともあったのでございます」
なるほどとバガニルは思った。自分も入学当時はスカートがすーすーして嫌いだった。さすがに訴えたが取り上げてもらえなかったが。
☆
ワイトは城の中を歩いていた。着ているのは白いドレスだ。教育係が男性の服だと違和感があるので着てくれと頼まれたからだ。
正直動きずらいが、ワイトは我慢した。歩き方もきめ細かく支持された。男なのになんで女の真似をしなければならないのかと反論したら「ワイト様は若い頃のバガニル様にそっくりですよ」と言われた。
ワイトはそれを聞くと嬉しくなった。大好きな母親と同じと言われて心を躍らせていたのだ。
廊下を歩いていると、若いメイド二人組とすれ違った。ふんわりと柔らかい白い髪の毛からほのかな良い香りがする。
メイドたちはそのままそそくさと立ち去ったが、ワイトが見えなくなると、くたくたと腰が抜けた。
「ふぁ~、ワイト様は今日も奇麗ですね~」
「本当だね~。あたしたちよりすんごく美人だから、もううっとりだよ~」
「あれで男なんだから、天は二物どころか三物も与えているよね~」
「それはパルホ様も同じだよ~。あんなかっこいい女の子なんか見たことないよ~」
「あたしたちの間じゃ、パルホ様の人気は絶大だよね~」
「「ね~!!」」
その時メイドたちの眼から星が飛び出た。頭から拳骨を喰らったためだ。でっぷりと太った年配のメイド長が鬼のような形相で小娘たちをにらみつけている。
「おしゃべりばかりしてないで、さっさと仕事に戻るんだよ!!」
「「はい~~~!!」」
メイドたちは逃げ出した。その後姿を見てメイド長はやれやれとため息をついた。
「……この城に来たばかりのバガニル王妃もそうだったねぇ。でもワイト様は男の子……、何か起きそうな気がするねぇ……」
メイド長は13年前の事を思い出す。当時は17歳のバガニルが来たとき、彼女は歓迎されていなかった。ゴマウン帝国の皇帝の娘に対して敵対心を抱いていたくらいだ。
当時のサマドゾ領はよそ者に対して厳しかった。逆にモンスター娘と契りを交わしたものは優しく迎えた。サマドゾではその手の類を受け入れていたが、他国はそれを忌み嫌うことを知っていたのだ。
バガニルはサマドゾ家に仕える執事一族に毛嫌いされていた。次期当主であるマヨゾリと比べて露骨に差別していたのだ。
だがバガニルは負けなかった。彼女は帝国の姫君とは思えないほどおてんばであった。
森で獣を狩り、一夜を過ごすなど朝飯前だ。男を相手に稽古をしたりして信頼を勝ち取ったのだ。
自分もバガニルを世間知らずのお姫様と小馬鹿にしていたが、彼女自身が積極的に動き信頼を勝ち得た時、生涯この人に仕えたいと心に誓ったものだ。先ほどのメイドたちみたいに騒いだりはしなかったが。
ワイトは庭に出て読書をしながらお茶を飲んでいた。その姿は深窓の令嬢そのものだ。中身が男とわかっても愛を囁く者がいても不思議ではない。
その横でパルホは胸にさらしを巻いて白い袴を履いて木刀で素振りをしている。汗を流す姿は美男子そのものであった。
「ふ~、気分がいいでござるな! ワイトはそんなすーすーしたドレスを着て、平気でござるか?」
「そりゃあ最初は戸惑ったけど、今は慣れましたよ。パルホこそさらしを巻いて剣の稽古ですか。男みたいですよ」
「だから胸を隠しているでござるよ!! 本来ならさらしも邪魔でござるが、メイドたちがうるさいのでござる!!」
パルホは豪快に笑っている。ほんの2年前は気弱なワイトをしかりつけるおしゃまな性格だった。
今は剣の師匠である炉守都京の影響で、言葉遣いはおろか性格も変貌していた。
ワイトの場合はズゥコ王国の冒険者カムゲシャから教わったことがある。孫娘のラガクキから絵を習い、娘のワマレドから彫刻を習った。芸術をたしなむようになる。
「別に女の子になりたいわけではないのに、なんでこんな風になったのでしょうか?」
「知らんでござる!! だが現状は満足しているので大丈夫でござるよ!!」
「確かにそうですけどね」
ワイトとパルホは自身の体質の変化に戸惑っていた。しかし今はすんなり受け入れている。こればかりは周りがどう言おうと当人たちが納得すればいいのだ。
その様子をバガニルが遠くで見ている。子供たちの笑顔を見て、自分が何とかしようと心に誓うのであった。




