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序章 ふたりのウサギ

 人を一切受け付けない暗い森の中を、小さな女の子と男の子が一目散に走っていた。

 二人は兄弟で女の子が姉で、一回り小さいのが弟だ。今日は森の中でキイチゴを積みに、普段大人たちから口を酸っぱく言われている禁断の森に入った。

 今日は母親の誕生日で、大好きな彼女の為に特別においしいキイチゴが欲しいと弟がぐずったのである。

 姉も弟に同調し、朝早く森の中に入った。二人とも森は遊び場であった。木の実を拾ったり、木に登ったりしたことがある。

 

 だが二人はうっかり森の奥に入り込んでしまった。そこで狂暴な熊の魔獣に追いかけられたのである。

 牛よりも一回り身体が大きく、二人は木の間に逃げ込んでも、衝突して木をなぎ倒す勢いがあった。

 猪ですら木をよけるのに熊の魔獣はそれがない。まるで獲物以外は目に入らないようだ。普段は樵の父親が伐採するのに一苦労する木もこいつにかかれば、木の枝にしか映らないのだろう。


「お姉ちゃん苦しいよう。ぼくたち食べられちゃうの?」


「バカッ!! あきらめちゃだめよ!!」


 姉は泣き言をいう弟を叱る。だが自分も心臓がやたらと高鳴り、息も切れかけている。

 お姉ちゃんだから弟を護る。それだけが彼女の支えであった。もっともか細い腕では限界があるが。


「あっ!!」


 二人は木の根に躓いて転んでしまった。とっさに手で地面の衝突を避けるが、逆に手を痛めてしまった。しかも足をひねってしまったようである。ずきずきと鈍い痛みが走る。もう動けない。


 背後にはクマの魔獣が二本足で立ちあがった。凶暴な牙を剥き出しにして、両爪を天に掲げている。二人をごちそうにする肚なのだろう。涎を垂らしにやりと笑った。


 もうだめだと、二人の姉弟は目を閉じた。なんでこんなことになったと自分の運命を呪うだけしか姉弟のやることはなかった。


「そんなことはさせーん!!」


 兄弟の背後から何かが飛び出した。それは白い巨大なウサギであった。手には刃が片方しかない剣を持っていた。

 よく見るとそれはウサギではなかった。白いウサギの耳の形をした髪飾り、黒く短く刈り揃えた髪に、肩を剥き出しにした水着のような白い衣装、足は網タイツに覆われ、白いハイヒールを履いていた。


 肌は日焼けしており、腕の筋肉はぼこぼこに膨れていた。剥き出しの背中はまるで鬼が笑っているようである。足もゴリラ並みに太かった。


「ふん、熊の魔獣でござるか!! 相手にとって不足はないでござる!!」


 白ウサギは剣を振るった。熊の魔獣は爪で弾き飛ばす。まるで暴風雨だ。だが白いウサギは剣を構え一歩も引かない。キンキンと剣と詰めの弾く音が森中に響いた。

 

 幼い姉弟たちは現実のように思えず、後ろに下がる。そこに優しげな声がかかった。


「もう大丈夫ですからね」


 後ろを振り向くと今度は美しい赤いウサギが現れた。

 赤いウサギの髪飾りに真っ白で波打つ腰まで伸びた髪の毛。白いウサギとは別に赤い衣装を着ているが、こちらは赤い燕尾服を着ていた。胸はまったくない。だがほほ笑むその表情は母親のように無償の愛を与えるようなものだった。手には樫の木の杖が握られていた。


「あなたたちは樵さんの子供ですね。お父さんから探索願を出されたのです。もう大丈夫ですよ」


 ふんわりと柔らかい匂いがする。今までの緊張感が溶けていくようだ。

 赤いウサギは立ち上がる。腰はきゅっと引き締まっており、足は身体の半分以上の長さだ。まるで針のようにすらっとしている。そして今までの自愛の女神から一転して顔を引き締める。

 杖を熊の魔獣に目掛けて突き出した。


針地獄ブッスト呪文!!」


 地面に落ちた無数の木の枝が宙に浮いた。それを聞いて白いウサギが横へ逃げる。

 木の枝は熊の魔獣の身体に突き刺さった。まるでハリネズミだ。


 ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……。


 熊の魔獣は断末魔の叫びを上げた。パクパクと口を開くと、泡を出して白目を剥いた。なんでだ? 自分は目の前の獲物の肉を喰らい血をすするはずだったのに……。こんなの認めない、こんなのは現実じゃない!! 熊の魔獣は白いウサギに殺意を抱いた。こいつも食い殺してやる!! しかし願いはかなわなかった。

 木の枝は魔獣の急所に突き刺さっていたのだ。それも数百本も。意識が薄れる中、なんで自分がと熊の魔獣は絶望の中に沈んでいった。

 魔獣は後ろへばったりと巨体を倒したのである。もう動かない。


「こら! 拙者が戦っていたのに、針地獄呪文はなかろう!!」


 白いウサギが右腕を上げて抗議した。しかし赤いウサギはしれっとしている。


「あなたなら避けてくれると信じていましたよ。それよりこの子たちの安全が第一です。依頼人の子でもありますからね。二人でおんぶしましょう」


 そう言って赤いウサギは姉の方を、白いウサギは弟を背負った。


「すごく、たくましいんですね」


 姉がつぶやいた。美しい女性なのに体つきはがっしりしている。

 白いウサギの方は筋肉が盛り上がっているが女性だ。弟を苦も無く背負っていた。


「ええ、私はこれでも男ですのよ」


「え?」


 姉は何を言われたのかわからなかった。こんな美しい人が男? そんなの今まで見たことがなかった。

 彼女は思わず白いウサギの方を見た。化粧っけはないが、整った顔立ちだ。美形と呼ぶにふさわしい。


「彼女はパルホ、私はワイト。私たちは双子なのですよ」


「そう!! 拙者たちはキャコタ王国王立学園の生徒で冒険者でもあるのでござる!!」


 保護された二人は両親からきつく叱られた後、優しく抱かれた。だが森であった双子のウサギを生涯忘れることはなかった。


「なんでウサギの格好をしていたのかな?」


 姉弟はそう思った。それは本人たちにしかわからない。

 新連載です。下ネタファンタジーに登場したバガニルの子供、ワイトとパルホが主役です。

 最初は二人を主人公にするつもりはなかった。なんとなくワイトを男の娘にしたら面白いと思ったのです。代わりにパルホはゴリラになりました。

 それにベータスが男なのに妊娠した設定も生かせると思いました。

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