八ノ日
ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅ、なな、やぁ、ここのつ、とお……
地面からゆらゆらと陽炎が立ち上る。山に囲まれた小さな村に、私は帰郷していた。思い出の地を散歩でもしようと実家から出たものの、変わっていたのは神社が整備されて小綺麗になっていたくらいだ。今日は8月8日の昼下がり。あまりの暑さに古びたバス停の屋根の下に座り込んだ。
「…ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅ、なな、やぁ、ここのつ、とお……もーいいかい?」
セミの鳴き声と共に子どもたちのキャッキャと遊ぶ声が聞こえる。懐かしい掛け声だ。かくれんぼといえば、私はよく神社の中にある仲良くならんだ木の裏に隠れたものだ。
「ねえ、お姉さん。女の子、見なかった?」
鬼役の子だろうか。小さな男の子が私の元へ尋ねにやって来た。
「見てないよ」
「おかしいなぁ、こっちから声がしたのに」
男の子は「おかしいなぁ、おかしいなぁ、」としきりに繰り返し、私の周囲をグルグルと歩いた。そしてもう一度私を見上げると、ニコリと笑って言った。
「お姉さんも一緒に探してよ」
「いいけど……」
「やったぁ!」
それはズルではなかろうか?
「お姉さんこっちこっち!」
「わわっ」
私は力強く手を引かれた。手首がズキズキとするくらいの握力に背筋がヒヤリとする。
「あ、あの……」
「お姉さん、はやくはやく」
一般道から脇道へ入り込み、脇道から神社の獣道へと連れてかれた。確かにかくれんぼにはうってつけだろうけど、元の場所から離れすぎではないだろうか?
「この辺りから声が聞こえた気がするんだけどなぁ」
「えっ、でも、さっきはバス停の近くから声がするって」
「うーん、でも、こっちからも聞こえた」
「えぇ……」
男の子はずんずんと神社の獣道を進む。まるで目的地がわかっているかのように脇目も振らずに。
「ね、ねぇ、本当にこっち?」
「うん」
この神社ってこんなに広かったっけ?
「あ、みーつけた」
御神木というのだろうか? しめ縄が巻かれている1本の大きな木が青々と茂っていた。御神木の下には腐りきった切り株があるだけで、女の子の姿はない。
「え、どこ?」
「どこって、ほら、この木に触ってごらん」
言われるがままに御神木を触ると、とてつもない眠気が襲ってきた。触れている御神木の皮に悲痛そうな人の顔が浮き出て見えたが、だんだん、思こうかい路がまわらなくなってきて、怖いとかがどうでも良くなって、ここがどこなのか、なぜこのようなじょ状たいにになったのかじぶんがだれなのかじぶんがだれなのかじぶんじじぶじぶじぶんだれだだじ……
「やっぱりここの神木は対じゃないと、ね」
ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ、むぅ、なな、やぁ、ここのつ、とお……
_______八ノ日は神が神木を数える日_______