第六話 挨拶
前話で商人上がりの計算能力を発揮してしまったやさぐれ令嬢シビーラ。
貴族令息ルースが天然だったため、好感度を上げるだけに止まったが、いよいよスラック邸でのお茶会本番。
果たしてシビーラは猫を被り切る事ができるのか。
まぁ大丈夫ですので安心してお楽しみください。
菓子を買ったルースに続いて、私はスラック侯爵家の門をくぐった。
今日のお茶会はルースの両親も参加する。
気に入られるように振る舞わないとな。
ここで機嫌を損ねて破談にでもなったら、あの親父が黙っていない。
「お母様ただいま〜」
「お帰りなさいルース」
玄関で迎えに出てきたのはソフティ・スラック夫人。
ルースの母であり、侯爵夫人。
彼女に気に入られるのは必須事項だ。
「スラック夫人。本日はお招きいただき、まことにありがとうございます。私、本日の会を心より楽しみにしておりました」
「あらシビーラちゃん! 立派な挨拶できるのね! ルースも見習いなさい」
「は〜い」
くそ、まずいな。
本来は「そのため昨晩はあまり眠れませんでした」という、ミスした時の予防線のつもりで振った挨拶なのに、その前にルースに矛先が向いてしまった。
私が礼儀正しくすればその分、同い年で礼儀作法が未修得のルースと比較されるのか。
ルースも今は笑って返事をしているが、比較され続ければ私に対する感情は悪化する。
かといって作法のレベルを下げるわけにもいかない。
ここはルースを持ち上げよう。
「夫人、ルース様は街で私をエスコートしてくださいました。とても立派な紳士でしたわ」
「まぁ、そうなの?」
「はい。はぐれないようにと手を繋いでくださいました」
「そう、それなら良かったわ」
これで多少なりともルースの評価は持ち直すだろう。
そしてルースの評価をプラスにした私は、ルースからも好印象になるはずで
「でもね〜、シビーラちゃんすごかったんだよ〜。お店の人が間違えたのを、さささって計算して『計算が違うよ』って言ったの〜」
何で今私を持ち上げるんだ。
謎の対抗意識やめろ。
今そういうのいらないんだよむしろこの菓子を選んだのが私って知れたら面倒な事になるから絶対喋
「このお菓子もね〜、シビーラちゃんが選んでくれたの〜」
「……まぁ……」
るなって釘刺したかったのに、最悪の流れでバラしやがったこいつ。
計算に聡い奴が一番高いのを選んだって聞いたら、印象最悪じゃないか!
「私もこれ好きなのよ。好みが一緒で嬉しいわぁ」
……この親にしてこの子あり、か。
十個で1ドルゴ越えの支出も意に解さないのか。
ならばうちの商会の中でも高値の物をそれとなく薦めれば……。
「貴女は私の娘も同然なんだから、どんどん好きな物買ってちょうだいね」
……成程。ルースがああ育つわけだ。
貴族特有の全能感。
自分を害する者なんかいないという自負。
いいだろう。
その甘えに付け込ませてもらうとしよう。
「ありがとうございます。不束者ですがよろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしくお願いしますわ。ルース、シビーラちゃんを大切にしてあげてね」
「うん!」
「さ、お茶にしましょう。主人が待ってるわ」
「行こ〜シビーラちゃん」
「はい」
お望み通り、あれこれねだってやろう。
うちの商会のもので、高い分質の良いものをな。
……ちょっとだけ商会割引もつけてやるか。
読了ありがとうございます。
まぁルースがあの性格に育つには、家庭環境の影響は絶対ありますよね。
そんなわけでのほほん系になったお母様です。
とっとと嫁入りした方が幸せになれそうなシビーラ。
しかし茶会の席で待つスラック侯爵はシビーラをどう思っているのか。
いよいよ茶会本番。お楽しみに。