第三十九話 安心
ルースの膝枕で、その心地良さのあまり寝入ってしまったシビーラ。
ときめきに支配されていたその心は果たして……?
どうぞお楽しみください。
ふわふわ ふわふわ
くものまくらは おひさまのにおい
はるのかぜが あたまをなでてる
ふわふわ ふわふわ
しあわせ しあわせ
はねのはえた ちいさないきもの
いろいろなどうぶつにすがたをかえる もこもこ
みんな かわいい
しあわせ しあわせ
あ おちゃのにおいがする
はなのかおりがまざった やさしいにおい
あまいおかしといっしょに
あたたかいおちゃを のみたいな
「……はっ!?」
目を開けると湯気の立つお茶の器。
首を巡らせるとルースの笑顔!
「あ、起きた〜」
「は、はい……」
「お茶入ったよ〜」
「い、いただきます……」
ゆっくりと身体を起こし、髪の毛をさっと整える。
……お茶が冷めていないから、さほど長く寝ていたわけではなさそうだ。
「いかがでした?」
シンパーがにこにこしながら顔を覗き込んでくる。
……悪意は感じられないが、何か楽しんでないかこいつ?
しかし確かに少し寝入ったからか、さっきより気持ちは落ち着いている。
……シンパーの言った通り、ルースに膝枕してもらったおかげ、なのか……?
「えぇ、随分頭がすっきりしました。ありがとうルース」
「どういたしまして〜」
「じゃあお茶飲もうか」
「うん」
花の香りが漂うお茶を一口。
うん、旨い。
心地良い温かさが腹に収まるにつれて、意識がはっきりしてくる。
何だあの夢。
あらゆるものがぼんやりした輪郭。
色とりどりなのに全体的に白みがかった風景。
何食ってんだかわからない生き物。
明るさしかない世界。
幼児が見るような甘い夢。
……膝からルースのほわほわが感染ったかな……。
「シビーラ様」
「はい」
シンパーがお菓子を頬張るルースを横目で見ながら、小声でささやく。
「愛しい方に触れたい気持ちと言うのは抑えがたいものです」
「は、はぁ……」
突然何を言うんだこのメイド。
「シビーラ様は幸いにもルース様と婚約関係にあります。シビーラ様の節度の中でたくさんルース様にくっつかれるといいですよ」
突然何を言ってんだこのメイド!
「そ、それは、その、はしたないと言うか……」
「いけませんシビーラ様。恋焦がれる心が高じて、身体を痛める令嬢もいるのです」
そうなのか!?
いや、確かに身に覚えがある。
ルースの誕生日の時は、命に関わるかとさえ思ったのだからな。
「唇同士の口づけはご結婚の際に取っておくとして、手を繋いだり軽く抱きしめたりを繰り返していけば、抑え切れない程のときめきも直に収まります」
「な、成程……」
「絆も深まり数年後のご結婚の際には、当家の主のように夫婦仲睦まじくなりますから、一石二鳥でございます」
「わ、わかりました……」
……そういう事なら仕方ない。
別にどうしてもやりたいわけじゃないけど、自分の体調と、ルースとのより良い関係のためなら仕方ない。
横を見ると、ルースがお菓子を頬に付けて微笑んでいた。
「ルース、頬にお菓子が付いてるわ」
「え、どこ〜」
「今取ってあげる」
お菓子のかけらを取る時に、ルースの頬に指が触れる。
その柔らかさ、暖かさに、さっき見た夢が重なって、
「わ」
「あら」
……!
お、思わず頬に口づけをしてしまった!
「あ、ご、ごめんルース、つい……!」
「えへへ〜、ちゅ〜されちゃった〜」
「素晴らしいです。その意気ですシビーラ様」
嬉しそうなルースと、心なしか早口のシンパー。
心地良い苦しさが胸を満たす。
きっとこの気持ちにもいずれ慣れて、穏やかな気持ちでルースの側にいられるようになるんだろう。
それが早く来てほしいような、少し惜しいような不思議な感覚が私の中に芽生えていた。
……それが私の幼さゆえの甘さだった事に気付くのは数年後の事だった……。
読了ありがとうございます。
立った! フラグが立った!
数年後を語るのは最終回フラグ。
という訳で『やさぐれ令嬢』次話最終回です。
数年後、二人の関係は一体どうなっているのか……?
どうぞ最後までお付き合いください。




