第三十八話 助言
二人きりの空間に動揺が収まらないシビーラ。
気持ちを強制的に落ち着かせるために、メイドに苦いお茶を頼むが……?
どうぞお楽しみください。
「お待たせいたしました。ルース様、御用でしょうか」
スラック家のメイド・シンパーが恭しく頭を下げる。
「お茶が飲みたいから用意してくれる〜?」
「かしこまりました」
「あの、一つお願いがあります」
再度一礼をして下がろうとするシンパーに駆け寄る。
ルースに知られないように、苦いお茶を淹れてもらわないと、このルースの事でいっぱいになりそうな頭をまともに戻せない。
「何でしょうシビーラ様」
「あの、ルースに内緒で、私にだけ苦いお茶を持ってきてもらえないでしょうか?」
「……可能ですが、何故?」
「実は少々寝不足なので、前のような失態をしないためにも意識をはっきりさせておきたいのです」
「……失態? お昼寝の事ですか?」
「……はい」
「何も問題はなかったと思いますが」
そう言えば親父が昼寝の件をスラック侯爵から聞いていたって事は、このメイドが報告したんだよな。
くそ、この言い訳じゃ弱いか……。
「シビーラ様、頭をすっきりさせたいのなら、簡単で今すぐできる良い方法がございます」
「本当ですか?」
と期待した表情を見せてはみたが、正直役には立たないだろう。
確かに良家の執事やメイドは、主のために身体の調子を整える知識を持つ者も多い。
しかし今回私の求めているのは、寝不足の解消ではなく、ルースの事で動揺する自分の立て直し方だ。
まぁ気を悪くさせても良くない。
とりあえず試すだけ試してみよう。
「どのようにすれば良いですか?」
「ルース様の膝枕で寝ればよろしいのです」
試せるか。
百歩譲って寝不足に昼寝が有効なのはわかる。
他人の家でやるのはどうかとは思うが。
だがルースの膝を借りて昼寝なんてできるわけがない!
立場的にも気持ち的にも!
「あの、そんな失礼な事……」
「失礼だなんてとんでもない。以前にルース様はシビーラ様の膝でお昼寝されましたし、もう様付けなしで呼び合う仲ではありませんか」
……しまった。茶を頼む時、うっかり『ルース』って呼んでしまった……。
「それに愛しい人と居てどぎまぎしてしまう時は、いっそその身に触れてしまった方が落ち着くものですよ」
「!」
小声の耳打ちに心臓が跳ねる。
き、気付かれてる……?
「さ、ルース様、シビーラ様が寝不足のご様子なので、膝をお貸し願えますか?」
「うん、わかった〜。シビーラちゃん、おいで〜」
ルースはルースで、膝枕に何の疑問も抱かないのか。
いや、むしろすごく嬉しそう……。
これは断れない……。
「お茶を淹れてくるまでの間、少しそうしてみてください。心地良いようでしたら、お茶の後再開していただければ良いので」
「あ……」
それだけ言うと一礼してさっと部屋を出て行くシンパー。
……逃げ道は、ない。
「シビーラちゃん、どうぞ〜」
「……あの、では、……じゃあ膝、借りるね……」
「うん!」
ただでさえどきどきしてるのに、膝に頭なんて乗せたらどうなるのか……。
にこにこしながら膝をぽんぽん叩くルースの隣に座って、深呼吸して頭をゆっくりと膝へと落として行く。
「ふふふ、シビーラちゃんかわいい〜」
「……ありがと……」
「頭なでていい〜?」
「……うん……」
……シンパーの言った通りだ……。
どきどきはしてるけど、それ以上に落ち着く……。
頭を撫でるルースの手が気持ちいい。
すべすべの服に包まれたルースの脚が柔らかい。
……まずいな……。
早く、戻って、来てくれ……。
このままだと、私、ほんとに、ねむっ、てしま……、ぅ……。
読了ありがとうございます。
ちなみにシビーラ、昨夜は遠足前夜のごとくよく眠れていません。
テンションで気付いてないだけです。
なのでこの即すやぁもやむなしなのです。
シンパーは無礼にならない範囲ぎりぎりでゆっくりお茶を淹れてくる事でしょう。
そんな次話もよろしくお願いいたします。




