第三十七話 想像
欺くために付けていた仮面を外したら、ルースへの気持ちに戸惑うシビーラ。
勉強の間に気持ちを立て直そうと考えるが……?
どうぞお楽しみください。
落ち着け。
落ち着け私。
今からするのは勉強だ。
教師としての仮面を被れば、こんな動揺なんてどうという事はない。
「ではルース様。前回のおさらいから始」
「シビーラちゃん、また『様』ってつけてる〜」
「え、あ、失礼いたしました」
「そのていねいなのもなしがいいな〜。今は二人だけなんだし」
無茶言うな。
ただでさえ頭がぐるぐるしていて、どうしたら良いかわからなくなってるんだ。
ここで呼び捨てにしたり、敬語をなくしたり、二人っきりって事を意識したら、より頭が混乱して最終的にはしゃがみ込んで泣くぞ。
「とりあえず勉強の時は、気持ちを引き締める意味で、このままでさせてください。……終わりましたら、その……」
「わかった〜。ごほうびだね〜」
ごほっ……!?
違う違う! あの『ぎゅ〜』じゃない!
それだと私のご褒美に……!
そ、それも違う!
「と、とにかく勉強しましょうね」
「うん、がんばる〜」
……勉強の間に頭を落ち着けよう。
今日の課題なら結構時間かかるはずだから、その間に気持ちを立て直せるはずだ。
自分に言い聞かせるように、祈るようにそう考えると、深呼吸して本を開いた。
「できた〜」
「……お疲れ様です……」
早すぎる!
面倒な課題だったはずなのに、いつもの半分くらいの時間で終わってしまった!
「今日は早かったですね」
「うん、ごほうびがあると思ったらがんばれた〜」
きゅう。
私が呼び捨てで呼んだり敬語をやめるのが、そんなにやる気に繋がるの……?
……嬉しいな。
「じゃあ、えっと、ルース……」
「な〜に?」
満面の笑み!
どうしよう! 可愛い!
勉強の間にかき集めた冷静さが、あっという間に減っていく!
『金は貯めるのは時間がかかるが、失う時は一瞬だ』という親父の言葉が、心の底から理解できる!
「え、えっと、あの、な、何を話したら良いでしょうか……」
「む〜、またていねいになってる〜」
「あ、申し訳、……ごめん。何話したら、いい、かな……」
「シビーラちゃんの好きなもの教えて〜」
ルース。
違う馬鹿! 違わないけど!
金……?
それも違う! 今言ったらドン引きだぞ!
「弟、かな……」
「シビーラちゃん、弟がいるんだ〜」
「う、うん。グレイブっていうの。まだ一歳にならないくらいのちっちゃい子……」
「そうなんだ〜。かわいい〜?」
「うん、すごく」
「いいな〜。ボクも弟ほしいな〜。お母様にお願いしてみようかな〜」
お、お願いって……!
弟って事はスラック夫人が子どもを産むって事で、子どもを産むって事は、つまり、男女のそういう事をするわけで……!
想像しちゃ駄目だ!
いくら結婚したら当たり前の事とはいえ、そういうのを考えるのはマナー違反で……。
「!」
「でも妹もいいな〜」
結婚したら、当たり前……!?
つ、つまり、いずれは私もルースと……!?
やだやだやだ! 嫌じゃないけどやだ!
そんな事になったら、恥ずかしくて怖くて……!
あぁ! 考えないようにしようとすればするほど……!
「弟だったらボクが馬の乗り方を教えてあげて〜、妹だったらシビーラちゃんにドレスを選んでもらったりして〜、楽しそ〜」
「……あの、ルース、ちょっと、お茶、飲まない……?」
「うん、いいよ〜」
どうにかして意識を切り替えないと……。
私の茶だけ苦いものにしてもらえないだろうか?
不自然でない言い訳を考えないと……。
読了ありがとうございます。
保健体育程度の知識でも好きな人がいると、妄想が増えろわ◯めちゃん。
時に実体験がない方が捗るからね。仕方ないね。
次話もよろしくお願いいたします。




