第三十六話 誤算
ルースとの婚約に家の利益が絡んでない事を知り、安堵するシビーラ。
気持ちも新たにルースの元へと向かうが……?
どうぞお楽しみください。
さぁ、今日はルースに会える日だ。
親父の悪企みもないと知れた。
これで何の心配も遠慮もなく、ルースと一緒にいられる。
もう私を阻むものは何もない。
今日はちょっとだけ、可愛いの着てみようかな。
ルースがくれたこの髪留めに合わせて、薄いピンクのドレス。
ルースはきっと『かわいい〜』と言ってくれるだろう。
あぁ、今からわくわくしてきた。
「シビーラちゃん、こんにちは〜」
「……こ、こんにちは……」
やばい! やばいやばいやばい!
身体が強張る!
ルースの顔がまともに見られない!
声を絞り出して、何とか返事をするのがやっとだ!
何これ何これ何これ!
身体の血が熱湯になったみたい!
「わ〜、今日のドレス、ピンクでかわいい〜」
「あ、ありがとう、ございます……」
きゃあああ!
予想通りの褒め言葉なのに飛び上がりたいほど嬉しい!
でも走って逃げたいくらい恥ずかしい!
どうしよう!
こんなに頭がめちゃくちゃになったのは、誕生日会をすっぽかした時、いや、それ以上かもしれない!
「じゃあ行こう〜」
「ぴっ」
またこいつは無造作に手を握る!
あ、でも、ちょっと落ち着く……。
これ、手だけじゃなくてもっといっぱいくっついたら、もっと気持ちは落ち着くのかな……。
前に抱きしめられた時みたいに……。
って何考えてんだ私は!
そんなのはしたないし、ルースは……、喜んでやってくれそうだけど……。
「シビーラちゃん、どうしたの〜? 何だかぼ〜っとしてる〜?」
「だ、大丈夫、です」
大きくて綺麗な目が、心配そうに私の顔を覗き込んでくる!
恥ずかしくて逸らしたいのに、ずっと見つめていたい!
自分だけ透明になってルースをずっと眺めている事ってできないかな!?
「お熱あるかな〜」
ばっ、やめろ!
まだここは屋敷の外で、外からは見られないにしても使用人とかの目もあるし、部屋に入って二人きりなら、おでこだけじゃなくて……。
わー! わー! わー!
「大丈夫ですから、お部屋に行きましょう」
「うん」
……誤算だった……。
今まで貴族令嬢の仮面が私を守っていたんだな……。
改めて痛いほど実感する……。
実際胸が痛い。
側にいる事だけでこんなに気持ちが落ち着かなくなって、でも離れたくなくて、今にも飛びついてしまいそうになる。
私の中にこんな幼い、衝動的な感情がまだ残っていたなんて。
気を抜いたら暴走しそうになる気持ちに辟易しながらも、少し嬉しい気持ちになるのが不思議に思えた。
読了ありがとうございます。
そんな無装備で大丈夫か?
大丈夫じゃない問題だ。
でも今更一番いい仮面は頼めないという……。
シビーラがやさぐれじゃなくなったので、そろそろ風呂敷を畳みにかかろうかと思いますので、今少しお付き合いください。




