第三十四話 落胆
父親にスラック家に手出しはしないよう交渉するシビーラ。
しかし父親との話はどこかズレがあるようで……?
どうぞお楽しみください。
「……そして私が我慢を続けなければならないのなら、結婚に先んじてスラック家に入る事も検討すると仰っていました」
「そうか」
「……以上でございます」
「……」
言い切った! 全部言い切ったぞ!
途中、『あれ? 何か恥ずかしい事喋ってないか?』とも思ったけど、何とか、最後まで……!
さぁ、どうだ!?
「……まるで子どものままごとだな」
「!」
「そんな事がそれ程に嬉しかったか」
「っ……!」
顔に熱が昇るのがわかる……!
恥ずかしさからか、怒りなのか、叫び出しそうになるのを歯を食いしばって堪える。
「やはりお前は女なのだな」
「……何か問題がありますか?」
「ただの確認だ。他意はない」
嘘つけ。恋に溺れた馬鹿な女と見下しているのだろう。
まずいな、手応えが薄い。
今からでも情ではなく利に訴える手を取るべきか?
「しかしこの婚約でスラック侯爵家のみならず、トレランス公爵家の助力を得られる可能性があります。ルースはトレランス公爵のお気に入りのようですからそこを通じて」
「今更利を挟むな。興醒めだ」
くそ、やはり完全に惚れている事を先に出してしまったからな。
今更私がもたらす利を語っても、心一つで反故にすると思われているのだろう。
……否定はできない。
グレイブがいるから、完全に敵対する事はないけど、それでも優先順位はルースが上だ。
……ごめんねグレイブ……。
「さて」
親父が手を組んだ……!
真剣な話をする時の癖だ。
何が来る……?
私に返せるか……?
「スラック侯爵家に手出しをするなと言ったが、それは何故だ」
「何故って……、これまで話した通り、私はスラック家を、ルースを大事に思っているのです! ですからそれを害するような事はどうか」
「馬鹿な事を言うな」
「!」
……やはり、駄目か……。
商人としての利を考えたら、あれほど人の良い家を見逃す道理がない……。
「娘の嫁ぎ先を害する馬鹿がどこにいる」
そうだよな……。
普通娘の嫁ぎ先を害するなんて真似はしないよな……。
……ん……?
……え……?
……あ、あれ!?
「お、お父様!? 今何と!?」
「娘の嫁ぎ先を害する馬鹿がどこにいる、そう言った」
……え? ちょっと待って思考が追いつかない。
うん、一般的にはそう。
むしろそんな相手なら娘を嫁がせない。
でも親父がそんな事を言うなんて……。
私は夢でも見ているのか……?
「……何故意外そうな顔をする」
「え、だって、お父様がスラック侯爵家に取り入って、家の利にするようにと」
「言ってない」
「で、ですが、何も説明がなく、ルースとの婚約を決めてきたと言われたので、そういう意図なのだと……」
「……」
「ち、違うのですか?」
親父が頭を抱えた!?
こんな親父初めて見た!
え、つまりこれは、政略結婚じゃない……!?
じゃあ一体何のための婚約なんだ!?
読了ありがとうございます。
風向きが変わってきました。
言葉少ないキャラは、すれ違いの宝庫。
次話もよろしくお願いいたします。




