第三話 あ〜ん
引き続き街デートです。
タイトルからしてもうあれですが、楽しんでもらえたら嬉しいです。
「ここだよ〜。美味しいお店〜」
「まぁ、素敵ですわ」
あー、『キャンドルドルチェ』かー。
貴族には普段使い、庶民には特別な日の一品として絶妙な価格帯の菓子店。
素材の良さから考えると、利益はそんなに出てなさそうなんだよな。
薄利多売、にしては大々的な宣伝もしないし。
「どうしたの〜?」
「いえ、美味しそうな匂いを楽しんでおりましたの」
「う〜ん、ほんとだ〜。いい匂〜い」
いかんいかん。
三歳から商人としての英才教育を叩き込まれてきたせいで、つい思考が商売の方に傾く。
今は婚約者ルースのご機嫌を取らないとな。
「あ、中で試食もできるみたいだね〜。入ろ入ろ〜」
「はい」
散歩にはしゃぐ犬かお前。
ご機嫌を取らないとと考えている時間の意義が疑わしくなってくるだろうが。
「これ、食べていいんですか〜?」
「えぇ、どうぞ」
「いただきま〜す」
あーあー、試食に無遠慮に手を伸ばして。
貴族の子息としてどうなんだそれは。
お付きの連中も何とか言え。
「またですか」「やれやれですね」って顔で笑ってる場合か。
「シビーラちゃんも食べる?」
「……はい、いただきますわ」
ここで指摘して恥をかかせるのは愚策だ。
適当に調子を合わせよう。
「あ〜ん」
!?
何考えてんだお前!
周りの目とか考えろ!
「あの、それは……」
「……やだった……?」
うぎ。
濡れた子犬みたいな目をするな!
全然悪くないのに私が悪いみたいな気分になるだろ!
……仕方ない。こいつの機嫌を損ねないためだ。
「……あ、あーん……」
「! はい! あ〜ん! ……おいしい〜?」
「はい……」
味なんかわかるか!
こいつの犬みたいな反応、返しに困る!
あぁ、犬みたいに躾けられたらどんなに楽か……。
読了ありがとうございます。
周りの気持ちは「あらあらうふふ」で統一されてますね間違いない。
やさぐれているようでチョロいシビーラの明日はどっちだ。
次話もよろしくお願いいたします。