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第二十六話 自覚

ルースに関する事になると、何故か調子が狂ってしまうと感じているシビーラ。

その正体にどうやら気が付いたようで……?


どうぞお楽しみください。

 最近の私はおかしい。

 商家の仕事をしていて、ふとした折にルースの事が頭をよぎり、手が止まってしまう事がしばしば起きる。

 そのくせ、翌日スラック家に行くとなると、何故か能率が上がり、帳尻が合う。

 ルースと会うと、飛び跳ねたり手をめちゃくちゃに振り回したくなる衝動に駆られる。

 自分が仮面で笑っているのか心から笑っているのか、わからなくなる。

 帰る時、衝動を抑え切れた事に安堵しながらも、猛烈に寂しくなる。


「これは……」


 冷静に分析すると見えてくるものがある。

 この感情を私は知っている。

 自分がルースに対してそんな感情を抱くなんて信じられなかったが、ここまではっきり理解してしまったらどうしようもない。


「私はルースの事……」


 幼い弟・グレイブを重ねて、愛しく思っているのだと。

 グレイブの事を考えて手が止まる事は今までもあったし、仕事を片付けて顔を見に行こうと思ったら、能率が上がる事もあった。

 グレイブの寝顔を見ると可愛くて、胸の奥がきゅーっとなって、じたばたしたくなる事も一度や二度じゃない。

 微笑みかけてくるグレイブを見ると、仮面を被る間もなく微笑んでしまって、世話役のウェトナスの視線を気にしてしまう。

 グレイブの部屋を出る時に、貴族令嬢らしく振る舞えていた事にほっとしつつ、すぐにもグレイブの元に戻りたくなる。

 ここまで共通点があれば、もう間違いないだろう。


 グレイブに抱くものに比べて激しく強く感じる気もするが、そこもようやく理解できた。

 グレイブに対しては家の仕事をする事でその笑顔に報いていると思えるから、落ち着いて受け止められるのだ。

 ルースからは、無邪気な笑顔とか、優しい言葉とか、無防備な寝顔とか、問題が解けた時の得意げな表情とか、温かい雰囲気とか、お菓子を食べた時のとろけるような笑顔とか、不意に繋がれる手の柔らかさとか、スラック家全体から感じる歓待の空気とか、守ろうとしてくれた頼もしさとか、他の貴族との繋がりとか、色々なものをもらっている。

 それに返せていない罪悪感が、私にもどかしい気持ちを強く感じさせているんだろう。

 ……頬へのキスは、その、あれだ、赤ちゃんみたいに柔らかかったから、グレイブにしてあげたいけどできない反動が原因に違いない。


 つまり私がルースに対して、望む何かを叶えていけば、この落ち着きのない気持ちも制御可能になるはずだ。

 次に会えるのは明後日。

 その時にルースのしてほしい事を聞いてみよう。

 主導権を奪うためにも、この策は必ず成功させよう。




「あ〜、終わった〜」

「お疲れ様ですルース様。随分問題を解くのが速くなりましたね」

「シビーラちゃんのおかげだよ〜」

「ありがとうございます。お茶の支度を頼みしましょうか?」

「お願〜い」


 私はベルを鳴らし、やってきたメイド・シンパーにお茶の用意を頼む。

 よし、このタイミングだ!


「最近特に頑張っていらっしゃいますね」

「ありがと〜。シビーラちゃんに褒められると嬉しいな〜」


 ぇぐ。

 こ、この微笑みに負けるな私!


「でしたらご褒美と言っては何ですが、何がルース様が嬉しい事をして差し上げますよ。何かご希望はありますか?」

「え、いいの〜?」


 よし、自然な流れだ!

 これでルースの希望を聞き出せれば……!


「そしたらね〜、ぎゅ〜ってしてほしいな〜」


 は?

 ぎゅ〜って、それは、つまり抱きしめてほしいって事か!?

 幼いような振りをして、中身は男という事か!


「がんばった時にはね〜、お父様とお母様がぎゅ〜ってしてくれるんだ〜」


 そうか、そうだよな。

 ルースに限って私の身体に触れたいとか、いやらしい事とか、そういうのを考えるわけないもんな。

 ……なら大丈夫。


「わかりました。ではこちらへ」

「うん!」


 以前ウェトナスがトイレに行っている間に泣き出したグレイブを抱っこした事もある。

 あの時のような安らぎを感じるは、ず……!?


「えへへ〜」


 ぱへ。

 な、何でだ何でだ!?

 安らぐどころか心臓が跳ねる! 跳ねる!

 これ、ルースに聞こえてないか!?

 聞こえてたら恥ずかしい!

 それなのに離れたい気持ちにならない!

 気持ちはこの上なく不安定なのに、どこか満たされた感じがして……!

 ! ノックの音!

 シンパーが戻って来た!


「……シンパーさんが戻られたようですから、今日はここまでにいたしましょう」

「うん! シビーラちゃん、柔らかくって、いい匂いした〜」


 ぴにゃ。

 ルースから離れ、一段と跳ね上がる心臓を両手で押さえる。

 な、何だこれ何だこれ!

 グレイブの時にはこんな風になった事なかったぞ!


「あの、どうぞ入って」

「承りました」


 シンパーのお茶を用意をするのをぼんやり見ながら、何か致命的な勘違いをしているような不安が頭を支配していた……。

読了ありがとうございます。


シビーラの推理は、芯を食った場外ファールに終わりました。

これが家族への愛情とは別のものと自覚したら、どうなる事やら……。


ちなみにシンパーはできるメイドなので、良き頃合いを見計らって、ノックをしています。

できるメイドなので、何も見てないし聞いてもいません。

読者に一番近いメイドです。


また次話もよろしくお願いいたします。

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