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第二十五話 伯爵令嬢

三人の伯爵令嬢からちょっかいを出されながらも何とか社交会で婚約を発表したシビーラ。

しかしその伯爵令嬢の一人から茶会の誘いが届く。

伯爵令嬢の目的とは……?


どうぞお楽しみください。

「お嬢様、フー伯爵家からお茶会の招待と手紙が届きました」

「……ありがとう」


 帳簿の手を止めると、ハドワークが持ってきた手紙を受け取り、中を開く。

 表向きは社交会での詫びと、ご機嫌取りの言葉が並べられていた。

 しかしその実、恐らく私に取り入る隙を探す腹なのだろう。

 スラック侯爵家とトレランス公爵家の後ろ盾を得ている私は、伯爵家クラスの人間にとっても魅力的な人脈だろうからな。

 しかしなめられたものだ。

 ルースに隙がないと見て、私なら与し易いと思ったのだろう。

 そうでなければ社交会の詫びに、ルースを呼ばないわけがない。

 その勘違いを後悔させてやろう……!




「お呼び立てして申し訳ありませんシビーラ様」

「いえ、お招きに預かり光栄ですわ」


 フー伯爵家の令嬢・ノイシーが馬車まで迎えに来た。

 普通なら執事かメイドを寄越すのに、随分なへりくだり振りだな。

 余程私を恐れていると見える。

 と、思わせておく手かもしれない。

 隙は見せずに狙いを探ろう。


「支度は整っております。さぁこちらへ」

「ありがとうございます」


 通された茶室には、想定と違いメイドの他には誰もいなかった。

 てっきりフー伯爵か夫人、もしくは他の伯爵令嬢二人が待ち構えていて、包囲されるものだと思っていたのに。

 同年代で同性のノイシー一人ひとりの方が話がスムーズとでも思ったのか?

 それともこのノイシーが私以上のやり手なのか?

 とりあえず作法に従ってお茶をいただく。

 今日は慌てることもない。

 侯爵家での失敗を繰り返さないように、ゆっくり飲む。


「まぁ、大変美味しゅうございますわ」

「それは良かったですわ! お父様におねだりして最高級のお茶を取り寄せましたの!」


 ほう、つまりこの茶会には伯爵の意思も加わっているという事だ。

 匂わせてくる辺り、成程小娘と侮らない方が良さそうだな。


「……それで、あの、先日は大変失礼をいたしました。あんなにルース様に大事にされているとは思いませんでしたので……」

「無理もありませんわ。私のような平民の出の者が侯爵家令息の婚約者だなんて、私も信じられませんもの」

「い、いえ、そんな事は……」


 牽制のつもりの嫌味に、覿面てきめんにうろたえるノイシー。

 おいおい、これくらいの返しは予想して然るべきだろう。

 まさかあの手紙一通で全部許されて、私が喜んで来たとは思っているまい。


「その、だからこそお伺いしたい事がありまして……」

「何でしょう」


 さぁ何が来る?

 第二夫人の可能性か?

 それとも侯爵家の内情か?


「あの、あれ程ルース様に愛されるために、シビーラ様がされている事を教えてくださいませ!」

「え?」


 想像もしなかった問いに、間の抜けた声が漏れる。


「失礼ですが、ルース様のお立場からすれば、シビーラ様との婚約にメリットはないはずです」


 ……何だ、喧嘩売るつもりだったのか?

 良いだろう。受けて立っ


「つまり政略結婚ではなく、真実の愛という事ですよね!?」


 てぷ。

 な、何言ってんだこいつは!

 し、真実のあ、愛とか、ば、馬鹿な事……!


「あれほどに大事に思われているのですもの! きっと深い絆があるのだと感じましたわ! それをお聞きしたいんですの!」


 いや深い絆とか知らないぞ!

 会った時からずっとあんな感じだルースは!


「あの、特に何がという事はないのですが……」

「……! あの、今更ルース様のお心を奪おうなんて気持ちはございません! 私も将来嫁ぐ時にあんな風に愛されたいだけで……!」


 あ! 真っ先にそれを疑うべきだったのに、頭をよぎりもしなかった……。

 くそ! ルースの事を考えると判断力が鈍る!


「どんな些細な事でも構いません! どうか……!」

「えっと、その、お勉強を教えたり、手作りのお菓子を差し上げたり……」

「まぁ! そうなのですね! どのようなお勉強を教えられたのですか!?」

「算術を少し……」

「算術……。勉強してみますわ!」

「あ、あの、でも人によっては女に物を教わるのはプライドが許さないと言う方もいるので、詩の交換などから始めたら良いかと思います」

「詩でしたら少し嗜みますので、そちらの方がありがたいですわ! それとお菓子はどのようなものを!?」

「差し上げたのはパウンドケーキです。ですがこれも好みがありますので、それとなくその家の使用人の方に好みを聞いておくと失敗が少ないかと……」

「成程、勉強になりますわ!」


 ……私は何をしてるんだろう……。

 勢いに押されて、金にもならない取り留めのない話をして……。

 そして何より、それを少し、ほんの少しだけ楽しいと思っている自分に戸惑っている。


「あ、すみません私ばかり……! シビーラ様は何かお困りの事とかありませんか?」


 困っている事……。

 弱みを見せるようで、今までは誰にも話せなかったけど……。


「……あの、以前私は衣装が抑えすぎだと言われたのですが、どのような衣装が良いのでしょうか?」

「でしたら私の部屋に参りましょう! シビーラ様と私は背も体型も近いので、きっと似合う物が見つかりますわ!」


 もしかしたらこれが話に聞く友達というものかと、私はぼんやりと感じていた。

読了ありがとうございます。


恋バナがしたいだけの伯爵令嬢でしたとさ。

とはいえそういう手練手管は、令嬢の間では貴重な情報として行き来してるのだと思います。

シビーラのケースはさぞや価値のある事でしょう。

シビーラからすれば、勝手に懐かれてるんだからノウハウも何もないのですが……。


次話もよろしくお願いいたします。

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