第二十二話 エスコート
ルースの親戚に当たるトレランス公爵の社交会に、婚約者として招かれたシビーラ。
とはいえ生まれながらの貴族ではないシビーラを良く思わない者もいるわけで……?
どうぞお楽しみください。
「ルース様こんばんは」
「こんばんは〜」
「まぁ素敵なお召し物ですわね」
「ありがと〜。お母様が選んでくれたんだ〜」
「お飲み物を取ってまいりますわ」
「いいの〜? ありがと〜」
トレランス公爵への挨拶を終えた私達を、いや私はいないかのようにルースを取り囲む三人の令嬢。
隣にいる私が誰かを聞かない辺り、わかってやっているのだろう。
スラック侯爵家の一人息子で、トレランス公爵とも懇意にしているルースは、婚約者から強引に奪い取ってでも欲しいはず。
相手が平民上がりの貴族もどきと思えば尚の事だ。
「あの、私お父様と来てますの。会っていただけますか?」
「? うん」
「あ! 抜け駆けはよろしくないですわ! ルース様、私のお父様にも会ってくださいませ!」
「いいよ〜」
「では私のお父様にも、ご挨拶させてくださいませ」
「わかった〜」
ルースはルースで意味わかってない。
こんな事でルースがなびくとは思わないけど、婚約を破棄すると言っていただの、無理矢理手篭めにしようとしただの、はめる手立てはいくらでもある。
……私も元々はそうしようとしていた訳だが……。
「あの、スラック侯爵からルース様のお側に着くよう頼まれておりますので、私もご一緒させていただきます」
「あら、貴女は付いて来なくてよろしくてよ」
「ルース様のお世話役、ご苦労様でした」
「後はご自由にお楽しみあそばせ」
やはり邪魔者扱いか。
だがここで引き下がる訳にもいかない。
お前らにとってはアクセサリー感覚かもしれないが、こちとら弟と私の人生がかかってるんだ!
横からかっさらわれてたまるか!
「え? シビーラちゃんも一緒に行こうよ〜」
よし! よく言ったぞルース!
「え……、で、ですがそれはちょっと……」
「私達のお父様は皆伯爵でございますので、その……」
「き、きっとシビーラ嬢も困ってしまうのではないでしょうか……」
「そっか〜、わかった〜」
丸め込まれるなルース!
まずいな、ルースに付いて来るなと言われたら、ひっくり返す手はない……!
「じゃあシビーラちゃん、手をつないで行こう」
きゅわ。
私が何を考える隙もなく、ルースは私の手を取った!
だから急に手を掴むのはやめろって!
「これなら困った時に、すぐに助けてあげられるからね〜」
「あ、ありがとう、ございます……」
「でも僕がまた間違えちゃったら教えてね〜」
「かしこまり、ました……」
わかったってそっち!?
入口でヴァートラさんに言われた事、ちゃんとやろうと考えているんだな……。
「ぐぎぎ……」
「ふぬぬ……」
「ううう……」
こんなの三人の令嬢からしたら、良い面の皮だろう。
怒りとも悔しさともつかない、令嬢にあるまじき顔になっている。
ルースにそのつもりはないだろうけど、私以外と婚約する気はないという意思表示に他ならない。
ルースにそのつもりはないだろうけど!
「じゃあご挨拶に行こうか〜」
「……ハイ」
「……ワカリマシタ」
「……コチラデスワ」
死んだ魚のような目をしながら案内する令嬢に付いて、私とルースは歩き出した。
私は少しだけ、ほんの少しだけ胸を張った。
読了ありがとうございます。
悪役令嬢にいじめられるヒロインを颯爽と助けるイケメン。
ルースだとこんな感じになります。
令嬢達もルースに悪意も害意もないので、リアクションの取りようがないです。
無邪気の大勝利。
次の更新は月曜か火曜になります。
よろしくお願いいたします。




