第二十話 社交会
少しずつルースやスラック家の人々に心を開きつつあるシビーラ。
ある日、親戚筋に当たる公爵に婚約者として紹介したいと頼まれ、社交会に出席する事になり……?
どうぞお楽しみください。
「ルース様、シビーラ様、着きました」
「ありがとうスチュワート」
「行ってきま〜す」
今日はトレランス公爵様主催の社交会。
私にとっては雲の上の人だが、今回はルースの婚約者の顔見せという事で同伴を頼まれた。
スラック侯爵とは祖父の代が兄弟という親戚筋に当たるとの事で、
「所用があって私は遅れて参加するが、気軽に楽しむと良い」
「トレランス公爵はとっても優しい方よ。きっとシビーラちゃんもすぐ仲良くなれるわ」
と侯爵夫妻から言われた。
出来るか。無茶言うな。
王族に次ぐ地位を持つ方と気安く接するなんて出来る訳がない。
私の行動がインテンス家とスラック家の命運を握っていると考えて、慎重に行動しなくては。
「こんばんは。ようこそお越しくださいました」
「こんばんは〜。ヴァートラさん久しぶり〜」
「ルース様、お元気そうで何よりです。おや、また少し背が伸びられたようですな」
「うん。早くお父様やおじ様みたいに大きくなりたいな」
「きっとすぐでございますよ」
入口での執事とルースの親戚然たるやり取りに、抜けそうになる力を入れ直す。
「本日はお招きに預かり、誠に光栄に存じます。インテンス家長女シビーラと申します」
「お話は伺っております。ルース様の婚約者でいらっしゃいますね」
「はい」
「成程、噂に違わぬしっかりしたお嬢さんですね」
「恐縮でございます」
このヴァートラという銀髪の執事、入口を任される以上、相当信頼の厚い立場なのだろう。
隙を見せないように気を張っておかないと……!
「そういえばインテンス家には確かハドワークが仕えておりますな?」
は?
「え、えぇ。当家で執事として働いております」
咄嗟に返事はしたが、何の話だ?
いやハドワークの話だけど。
確かハドワークは色々な家で執事や家庭教師をしていたと聞いているから、どこかで会っているのかもしれない。
だがそれが今、社交会に入ろうとする私に問う意味は?
反応を見ているのかもしれない。
正解はわからないが、失敗のないようにしないといけない。
「ハドワークはかつて当家に仕えていた事がありましてな」
「そうなのですね」
無難な相槌で次を促す。
「当時は私も彼も若く、よく失敗をしたものです」
「まぁ、信じられませんわ」
驚いた様子でさりげなく持ち上げる。
「当家の主、トレランス公爵は寛大なお方です。そう緊張されなくても大丈夫ですよ」
「あ、ありがとうございます」
そ、そんなに緊張してるように見えたのだろうか。
気を張っているのは事実なんだけど……。
「ルース様、シビーラ様をしっかりエスコートして差し上げてくださいね」
「うん、でもどうやればいいの〜?」
「まずは会場まで手を引いてお連れしましょう。その後はシビーラ様が困っておられる時に守って差し上げれば良いのです」
「わかった〜」
わぱ。
ルースが私の手を掴んだ!
い、いきなり掴むな!
エスコートならもっとスマートにやれ!
いきなり手を掴むのはマナー違反だぞ!
それと私の心臓に悪い!
「シビーラちゃんは僕が守るからね〜」
「……ありがとうございます」
でも何でだろう。
さっきまでの命懸けに近い緊張感は薄れている。
こんな柔らかく頼りない手なのに、この手を繋いでいさえすれば大丈夫な気がして……。
いやいやいや! 気のせいだ!
いくら親戚とはいえ、親しき中にも礼儀ありだ。
このふわふわルースに頼ったりしたら、何がどうなるかわかったもんじゃない!
ちゃんとこいつの面倒を見るつもりでいないと!
……気持ちだけは、もらっておこう……。
読了ありがとうございます。
気が付けば二十話。早いものです。
多分三十話行くか行かないかで完結できると思います。
……いやフラグとかではなくて。
どうぞお付き合いいただけましたら嬉しいです。
次話もよろしくお願いいたします。




