第十四話 確認
父親への仕事の報告の後、突きつけられた突然の質問。
ルースとの関係を尋ねられたシビーラの答えは……?
お楽しみください。
「……ルース様との関係、ですか」
「そうだ」
この親父の質問は、何を意図している?
婚約関係は締結している。
余程の問題がない限り、この関係は動かない。
……まぁ私はその問題を作らせるか捏造して、婚約破棄に持ち込むつもりではあったけど……。
「特に問題はありません」
「身分の事での罵倒や、金の無心はないか」
「ございません」
成程。親父もスラック家の隙を伺っている訳か。
だがその面からの攻めは難しいだろう。
家や庭園の手入れの様子から見て、資金的な問題があるようには見えない。
それに、商人上がりの貴族の娘という扱いは全く受けてない。
むしろ、もう娘扱いされてる感さえある。
「ルースに横柄な振る舞いや傲慢な態度はないか」
ひ、膝枕は違うよな。寝ぼけただけだし。
他にも無邪気さから振り回される事はあるけど、その、別に、嫌じゃないし……。
「……ありません」
「そうか」
息を吐く親父。
隙のなさに対する溜息か?
それとも、私の働きに対する落胆か?
私の働きに不満があれば、別の手で介入してくる可能性もある……。
それは、嫌だな……。
……これは、私の仕事だからな。
「父上、現在ルースやスラック家との関係は良好です。このままお任せいただければ、必ずインテンス家にとって利益になる事をお約束いたします」
「……」
「どうか今しばらくこのままで、お願いいたします」
「……」
親父が無言で見つめてくる。
ここで引く訳にはいかない。
親父が直接関わったら、ルースやスラック家の人達にどんな被害が及ぶか……。
私ですら陥れようと思えば、四つか五つは策を思い付く。
私より遥かに上手な親父がその気になったら……!
あの笑顔が翳る事を考えるだけで、胸の奥が締め付けられるように痛む。
まるでグレイブの未来を思う時のように……。
「……シビーラ、ルースに対して特別な感情があるのか」
ふぎ。
顔に集まろうとする熱を、対交渉用の仮面を総動員して抑え込む!
まずい! 親父がそうだと判断したら、私は婚約を破棄させられて、他家に回される!
それは何としても回避しないと!
「ありません」
「本当か」
「はい」
「少しもか」
「えぇ」
「全くか」
「ございません」
しつこい!
何でいつも口数少ないのに、ここだけはそんなにこだわるんだ!
「……そうか。下がって良い」
「失礼いたします」
親父の部屋を出て、足早に自室に戻る。
靴を脱ぎ捨て、ベッドに飛び込むと、仮面が崩れ落ちる。
「〜〜〜っ! 〜〜〜っ!」
何でこんなに動揺してるんだ!
『特別な感情』
ただの言葉に、何でこんなに心が引っ張られるんだ!
ルースに、特別な感情なんて……!
『わぁ〜! すっごく似合う〜! 可愛い〜!』
『……えへへ〜』
『……やだった……?』
『シビーラちゃんが選んでくれたのを、みんなで食べたいんだ〜』
『すっごーい! シビーラちゃん、頭いいんだね〜!』
『シビーラちゃんすごかったんだよ〜』
『お父様〜、お庭ほめられたのそんなにうれしい〜?』
『わ! 本当だ〜! シビーラちゃんすご〜い!』
『……えへ……、すぅ……、すぅ……』
『シビーラちゃんに相応しい男になるんだ!』
『お顔赤いよ〜? 大丈夫〜?』
ぎゆ。
あ、ある、かも……。
身悶えするような熱は、しばらく収まりそうにない……。
読了ありがとうございます。
自覚完了!
ラブコメらしくなってまいりました。
次話もよろしくお願いいたします。