第十三話 父
どきどきな一日を終え、何とか帰宅したシビーラ。
しかし家では父親が待ち構えていて……?
どうぞお楽しみください。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいま」
あぁ、家だ。家に着いた。
今日はルースの勉強を見て、本を読んだらうたた寝をしてしまって、ルースの気持ちを聞かされて、何とも疲れた……。
グレイブの顔を見たら、とっとと部屋に戻りたい。
「あの、旦那様が、お嬢様がお帰りになりましたら自室に来るように、と仰っていました」
うぇ。マジか。
日頃は帰らない日も多いのに、何で今日に限って早く帰って来てるんだ。
でも仕方ないか。
親父はタイミングを逃すと本当に会えないからな。
いくつか報告しなきゃならない事もあるし、嫌な事は早く済ませるに限る。
「わかりました。少し用事を済ませたらすぐに向かいます」
ただしグレイブの後だがな!
「失礼します。シビーラです」
「入れ」
部屋に入ると、親父はペンを忙しく走らせていた。
商会を大きくしても、爵位を金で買っても、まだしなければならない事は多い。
あのあどけないグレイブに、十数年後これを継がせるのか……。
少しでも楽をさせられるように、姉としてできる限りの事をしなくては。
「報告を」
「はい」
親父との会話はいつもこうだ。
端的に、というレベルじゃない。
喋ったら口がすり減るから、商談以外には使わないようにしている、と言われたら信じる。
私が婚約してから、更に口数が減った気がする。
「絹織物の専売の件ですが、シルキア村はうちの傘下に入りました」
「そうか。どうやった」
「手作りの菓子を女衆に撒いて、そちらから村長達を説得させました」
「成程」
理で動く男を動かすよりも、情で動くおばちゃん達を味方につける方が確実だ。
日を置かずに手作り菓子を持ち込み、しばらく談笑したところ、父の仕事を健気に手伝う少女と認識され、快く力を貸してくれた。
男衆を色で落とすと女衆の嫉妬が怖いし、そもそも魅力が全く足りない。
これが最善手だろう。
「次に鍛冶屋組合の待遇改善要求ですが、撤回させました」
「そうか。何をした」
「孫娘のような体で、老人達をおだて上げました」
「ふむ」
そもそも要求自体がどうかしていた。
週の半分は休ませろだの、それでも給料は今より上げろだの、明らかになめられていた。
北との交易で鍛治製品が思うように仕入れられなかったのを知り、足元を見られたのだろう。
私が涙目で「おじい様達、お仕事大変なの? 私、怒られるかもしれないけど、おじい様達の事、お父様に頼んでみます!」と言ったらあっさり落ちた。
専門性を求められる過酷な肉体労働とは言え、週休二日、月50ドルゴで言える文句じゃないだろう。
「報告は以上です。失礼します」
「待て。まだ話がある」
部屋を出ようとする私を、親父が呼び止める。
何だよ、今でさえ商会の仕事二割と、スラック家との関係構築で手一杯だ。
これ以上何か仕事増やしたら流石にキレるぞ。
……今日のうたた寝は、親父のせいじゃないか?
「何でしょう」
「ルース・スラックとの関係はどうなっている」
父の突然の問いかけに、私の身体は固まった。
読了ありがとうございます。
どうなってるんでしょうねぇ……。
次話もよろしくお願いいたします。