第十二話 目覚め
仲良くお昼寝していた二人。
ルースの頑張りを聞いて、シビーラの気持ちにも少し変化が出てきたようで……?
お楽しみください。
「ルース様。ルース様」
「ん〜……?」
メイドが部屋を出てから、私は膝をやんわり揺らしてルースを起こした。
「……あれ~? シビーラちゃん、おはよう~」
「おはようございますルース様」
おはようじゃない。もうじきこんばんはになる時間だぞ。
全く、緩みきった顔しやがって。
もっとしゃんとしてたら、私だってうたた寝をする事なんてなかったのに。
「あ、シビーラちゃん、膝枕してくれたんだ~。ありがと~」
「いえ、ルース様がゆっくりできたなら幸いですわ」
まず謝れそこは。金取るぞ。
お前私を何だと思ってるんだ。
姉か? 母親か? 違うだろ。
私だからいいが、嫁入り前の娘にこんな事したら、普通は大騒ぎに……。
あ。
そう言えば私とこいつは婚約者だ。
政略結婚とはいえ、その立場なら問題ないか。
『シビーラちゃんに相応しい男になるんだ! と、勉強や馬術の稽古をなさっています』
『最近は嫌がっていた剣の稽古も始められました』
『ルース様はシビーラ様が大好きなのですわ』
大ありだ!
私は政略結婚だと知ってるけど、こいつは知らない!
という事は、このまま私とルースが結婚!?
ど、どうしよう……!
「あの、お茶を持って来てもらいますか?」
「うん!」
「では、メイドさんをお呼びしますね」
いや待て落ち着け私。
最初の目的からしたら大成功だろ。
特に何もしてないけど、こいつはもはや籠絡したも同然。
弟グレイブのために、スラック家から我が家への支援を密にできる。
そうしたら……。
……え、こいつと抱きあったり、き、キスしたりするって事!?
む、無理無理無理!
騙して取るもの取って婚約破棄しか考えてなかった!
「シビーラちゃん?」
「は、はい?」
「お顔赤いよ〜? 大丈夫〜?」
ぴぇ。
おっおおおでこをくっつけて、近い近い近い!
鼻の先まで少し触れて、あ、後ちょっとで唇が……!
「う〜ん、ちょっと熱いかな〜?」
お前のせいだぁ!
でも押しのける訳にも引っぱたく訳にもいかない!
息が、できない……!
「お呼びでしょうか」
ノックの音とさっきのメイドの声!
助かった!
ルースから顔を離し、扉に向かって話しかける!
「あの、お茶をお願いいたします」
「かしこまりました」
「シンパ〜! シビーラちゃんの顔が赤いの〜! お熱があるかも〜!」
「まぁ大変」
シンパーと呼ばれたメイドが、扉を開ける。
おい待て医者とか呼ぶなよ。
これは病気とかじゃなくて、その、何と言うか……。
「……冷たいお飲み物をお飲みになれば、大丈夫かと存じますわ」
「本当〜?」
「はい。すぐにお持ちいたします」
……良かった。
医者を呼ばれる心配はなさそうだ。
ただあの納得したような満足そうな笑みは一体何だったんだろう……。
読了ありがとうございます。
何とは言わんがお目覚めですね。
ちなみにメイドさんの名前シンパーは、にやにや笑うという意味のsimperから。
ど直球。
それでは次話もよろしくお願いいたします。




