第十一話 努力
本を読んでいる途中でうたた寝したルース。
膝枕で母性解放なシビーラ。
しかし屋敷は二人きりではないわけで……。
どうぞお楽しみください。
……あったかい……。
鼻をくすぐる太陽の光を吸い込んだ布団の匂い。
やっぱり布団はしっかり干したものに限るな。
いつまでも寝ていたくなる……。
……あれ?
私、いつの間に家に帰って来たんだ?
確かルースに勉強を教えて、一緒に本を読んで……。
……!?
「はっ!?」
「あ、申し訳ありません。起こしてしまいましたか?」
メイドの声に意識が急速に覚醒する!
しまった! 寝てた!
肩には薄い掛け布団!
一体どれくらい寝てたんだ!?
膝に目を落とすと、幸せそうな顔でまだ寝てるルース!
くそ、こいつがあまりにも無防備なものだから、つい気が緩んだ!
よだれとか垂らしてないよな!?
「仲がよろしゅうございますね」
「あ、はい。ルース様には良くしていただいております」
か、返しはこれで合ってるよな!?
寝起きで頭が回ってない!
物腰からして、このメイドはスラック家の古参。
もし私の貴族令嬢らしからぬ姿を報告されたら、スラック家はそれを疑う事はないだろう。
下手な姿は見せられない!
「ふふ、今良くしてもらってるのはルース様の方ですわ」
今がまさに下手な姿だった!
婚約者とはいえ、男を膝枕で寝かせるなんて、はしたないにも程がある!
だからといって今更膝から下ろしたところで、余計にやましい感じになるだけだ!
何とか自然にルースに目を覚ましてもらわないと……!
膝を揺すれば起きるか……?
「ルース様、最近頑張っていらっしゃいますから、少しお疲れなのかもしれませんね」
「そうなのですか?」
……驚いた。
このこの雲を詰めて作ったクッションみたいなふわふわお坊ちゃんにも、努力や苦労といった概念があったのか。
「はい。『シビーラちゃんに相応しい男になるんだ!』と、勉強や馬術の稽古をなさっています。最近は嫌がっていた剣の稽古も始められました」
ぴぐ。
な、何を話してるんだこいつは!
私なんかにそんな価値は……。
「ルース様はシビーラ様が大好きなのですわ。これからもよろしくお願いいたします」
「……はい、こちらこそ」
「ではルース様がお目覚めになりましたら、ベルを鳴らしてくださいませ。お茶の支度をいたしますので」
「ありがとうございます」
メイドが部屋から出ていき、足音が遠ざかるのを確認して、大きく息を吐いた。
「……全く……。そんなに私の事が好きなのか……?」
頑張っているという話とは程遠い、緩みきった顔。
その頬を軽く指でつつく。
ここまでチョロいなら、わざわざ騙したり、策を弄したりする必要はなさそうだな。
この胸に溢れる嬉しさと安堵は、きっとそのせい。
……うん、そのせいに違いない。
読了ありがとうございます。
好きな子のために頑張る男の子って良いですよね。
スポ根展開を恋愛ものが持つと熱血とキュンキュンが両方そなわり最強に見える(個人の感想)。
次話もよろしくお願いいたします。




