第十話 読書
勉強を通じて少し関係性が深まった二人。
次は読書が二人をどう変えるのか?
お楽しみください。
「はぁ〜、今日の分、終わった〜」
「お疲れ様でございます」
ルースがペンを置いて大きく伸びをする。
私も思い切り伸びたいところだが、貴族令嬢としてそんな真似はできない。
つくづく余計な事をしてくれたよな親父。
「お茶の時間までまだ時間がありますね。何かされますか?」
「う〜ん。本読まない〜?」
「まぁ、よろしいですね」
二人で本棚に並びながら、本を選ぶ。
あ! 『創金論』! 親父の書庫にあって読みたいと思ってた本!
く、読みたいが、今までの苦労が水の泡になる。
貴族令嬢らしく、華やかで可愛い物語を選ばなくては。
「ルース様は何を読まれます?」
「う〜ん、これ〜」
ルースが選んだのは、身体の小さな少年が知恵と勇気と力で、姫を怪物から守り、結婚するという御伽話。
子どもか。いや子どもだけど。
もうちょっと年相応のものを……、無駄か。
「私もそのお話、大好きですわ」
「ほんと〜? じゃあ一緒に読もう〜」
一緒に?
よく分からないが、誘われるままにソファに並んで腰掛ける。
「はい、そっち持って〜」
「あ、はい、わかりました」
開いた本の表紙側を差し出されて、ようやく理解した。
本の両側をそれぞれで持って読むというのだ。
子どもか。いや子どもだけど。
こういうのは一桁の時に終えとくものじゃないのか。
「……」
「……」
「めくっていい〜?」
「はい」
「……」
「……」
黙読だと沈黙が重い。
字が少ないからあっという間に読めてしまうが、ページをめくる側はルースが持っている。
正直退屈だが、ルースのペースを伺う必要がないのは楽でいい。
「めくっていい〜?」
「はい」
それにしてもこの姫、徹底して役に立たないな。
少年と出会った以外に何もしてないじゃないか。
怪物に襲われて、助けを求めて、助かったらお礼に結婚?
自分が命をかけた戦いの対価として相応しいと思ってるのか。
自意識過剰だろこいつ。
男の望む女ってのは、こういう綺麗で弱くて儚げで、守りたくなるような存在なんだろうけど、私は御免だ。
私なら武器は持てなくても、囮くらいにはなって、共に戦いたい。
……何をこんな御伽話に真剣になっているんだ私は。
ルースがなかなか次をめくらないから……。
「ルース様? あの、そろそろ次のページ、を……!?」
うえっ!?
な、なな何で頭を肩に!?
「る、ルース、様……?」
「……すぅ……、すぅ……」
ね、寝てる!
か、肩に、寝息が!
ど、どうしよう!
「……むにゃ……」
……ルースの寝顔がグレイブの寝顔と重なる。
「……よしよし」
流れるような金髪を撫でる。
まるで水のようにさらさらと指が通る。
何だか気持ちが満たされていく……。
「わ……」
撫でてるうちにルースの頭が、私の膝に!
「……えへ……、すぅ……、すぅ……」
「……全く、仕方のない奴だ……」
目を覚ます様子のないルースを撫でながら、私の心は何とも言えない温かさに満ちていた……。
読了ありがとうございます。
弟グレイブに発揮できない母性があふれてます。
やさぐれの裏に隠していた母性を引き出すなんて……!
ルース、恐ろしい子……!
次話もよろしくお願いいたします。




