魔神を倒した《マスター》は20年後の世界で自由に生きます
『ん~……長いこと寝てたな。』
ベッドから俺は久々に日の光を浴びながら部屋を出る。バタバタと動くメイド達は俺の姿をみるなり手を止めて深くお辞儀をする。
「「「おはようございます主様!そしてお久しぶりでございます!!」」」
俺は軽く手を上げメイド達に挨拶し、仕事に戻るよう指示する。メイド達は目を輝かせながら仕事に打ち込んでいく。
そんな中、老けた執事らしき人物が近づいてくる。最初は分からなかったが、近づく程に誰だか分かってきた。
『久しぶりかなウォード。その姿だとかなり時間が経ったようだな。』
彼はウォード。昔から俺の世話係であり、元剣聖とう異色の経歴を持つ俺の右腕だ。
「お久しぶりでございますマスター。約20年ぶりでございます。もう御体は大丈夫でございますか?」
彼の表情は昔と変わらず優しい笑顔だ。
どんな時でも彼は笑顔で接してくれた。だからこそ、今の俺には必要な人材だ。
『あぁ。しかし20年か……お前はもう60代になるのか。無理を承知で頼む。これからも手を貸してくれるか?』
「勿体なきお言葉!このウォード!!生涯マスターに尽くす所存であります。」
泣きながら宣言するウォードを抱きしめ、背中をさする。どんな時でも必ず手を貸してくれるウォードには頭が上がらない。おそらく俺が目を覚ますまで待っていてくれたのだろうと思うと、胸が熱くなる。
『あれから20年か……ウォード。世界はあれからどうなった?』
「はい。【人魔戦争】から生き延びた国は約20ヵ国。その後に各国で魔物の氾濫が相次ぎ、最終的に12ヵ国になっております。」
【人魔戦争】。人類と魔族との全面戦争を意味し、俺が魔神を倒して終結させた戦争だ。まぁその時に俺の身体は膨大な負の魔力を浴びた性で、この20年寝たきり生活をさせらたのだが……
『だいたい分かった。そういえば精霊達はどうした?さっきから見当たらないのだが?』
精霊。この戦争をするにあたってこの世界の主である精霊王に頼み込み、各1人ずつに精霊と契約させて戦力アップしていたのだが、あのあとどうなったか分からないまま眠りについた為にどうなったか知らないのだ。
「ご心配には及びません。あのあと契約を全て解除され、精霊が気に入った者には再び契約しているものもいると。ちなみに、先程お会いしたメイド達は全て精霊と契約しております。」
『なるほど……それなら安心だな。そうだ!ウォード。いきなりで済まないが精霊王に会いに行きたいのだが、頼めるか?』
精霊王。この世界を統べる王であり、俺の契約精霊だ。俺が寝ている間にあいつには迷惑をかけたのだがら、早めに挨拶しないとヤバそうだしな!
「分かりましたマスター。恐らくメイド達の精霊が既に精霊王様に報告している筈です。噂をすれば……」
ふと外をみると騎士に扮した精霊達が道を作り、その道を堂々と歩く1人の精霊。スラッとした体型に金色の短髪、背中から羽織るマントには夜空の星空のような模様が映し出されており、神々しいオーラを放っていた。
俺に気が付いたのか、壁を抜けて飛び付き顔を埋める。はたからみれば只の子供にみえるだろう。
「全く、この僕を20年も待たせるなんて君だけだよ《マスター》。僕は……僕はずっと……ずっと!」
泣きながら強く抱きしめてくる精霊……いや、若き精霊王エンは、王の立場を忘れるほど泣き叫ぶ。無理もない。彼にとって俺は数少ない人間の友なのだから。
「すまない。久々に会ったせいか昔を思い出していた。それにしても《マスター》は昔と変わらないな。」
『そりゃそうだろ?俺の記憶は20年前が最後だからな。それにしてもエンはますます精霊王らしくなったな!』
「あれから色々と大変だったからな。嫌でも王らしくなるさ。ところで《マスター》は今後どうするんだ?」
彼からの問いに黙る俺。まだ起きて1時間も経っていないから、そこまで考えてなかったな。
「どうせだから僕の手伝いしてくれない?《マスター》がやってくれれば簡単なんだ!」
見かねたエンから誘いを受けた。俺にとって簡単なことといえば分かりきっている。側にいるウォードが既にエン直属の部下とやり取りを始めてるし、受けるしかないな。
『分かった。その誘い受けようじゃないか。どうせいつものだろ?』
「流石は僕の《マスター》!!いつものお願いね?僕との契約は変わりないし、昔より強くなってるから安心してヤっちゃって!」
時代が変わってもやることは変わらない。俺は悪しきものを倒すただの《マスター》だ。