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透ける橋  作者: 鴨坂塩
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 彼女と私の間には透明な橋が架かっている。



 隣のクラスには人間じゃない人がいるらしい、というのは1年のころから聞いていた話だった。人間じゃないといっても見た目や素行に問題があるわけではなく、人間関係に問題つまりいじめられているとかそういうことでもなくただ本人が自ら人間じゃないのだと言っているらしい。

「人間じゃないっていうなら何なんだし………」

「んー? なんかみんなテキトーに呼んでるよ?」

「適当?」

「宇宙人とかあ、妖精とかあ、小人とかー。ワシちゃんは魔法少女ちゃんって呼んでるけどねっ」

 なぜそこでドヤ顔をするのか。

「やめい」

「あて」

 突きつけられた年期の入った箒を同じく手にした箒ではじく。かこ、と軽い木の音が鳴った。話すときには抑揚をつけ要所要所で身振りを入れる。

「ていうかわしちゃんって」

 それからころころと変わる独特な一人称。

「かわいっしょ!」

「全然」

「うえーっ?」

 かの人間じゃない同級生ではないが、こいつも相当変人だと思う。

 今回の一人称への熱烈かつどうでもいい解説を滔々と語りながら、このめんどくさい部活仲間は気持ち背を反らした姿勢で掃除用具入れまでゆっくりとあるく。さながら演説でもしているように。

 演技臭い様子から目を移し外を見ると夕焼けが空を染めていた。つい最近までこの時間にはもう真っ暗だったのに。

「というわけでわしちゃん、いいと思わん? って聞いてないんかいい」

「うん」

 どっすと鈍いいい音がした。それなりに勢いをつけ体重はかけずに背後からのしかかってくる。

「おうふ」

「おっ野球部! いいねえ青春だねえ」

 視線をやや下げると校舎よりやや窪んだ位置にあるグラウンドではおーいとかわーとかそういう運動部独特の掛け声を上げて野球部が練習を続けていた。こういう掛け声は元の言葉から省略されがちだからかはたまた文化部には聞き取れない類のものなのかいつも何と言っているかわからない。

 野球部は青春なのか。

 一瞬口から飛び出そうになった言葉を直前で飲み込み、代わりに早くしないと校舎のカギがどうのこうのと言って箒を片付ける。やたら騒がしいこの友人はノリも軽いので別に深く考えて言ったことではないのだろう。

 野球部は青春なのか、運動部は青春なのか、部活動は青春なのか、学校は授業はテストは制服は高校生の日常は青春というものなのだろうか。

 青春なんてロクなものではない。

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