親に捨てられた俺、幼なじみで美少女なお嬢様に拾われる――が、その日彼女の家は破産した
幼なじみがかわいそうな目に遭うのがブームと聞いたので初投稿です。
――ごめんなさい。お家には帰れません。
その手紙はそんな書き出しで始まった。
無駄に達筆に筆ペンで書かれた文字は確かに母のもので間違いない。字だけは上手いのだ、字だけは。
――私は今ラスベガスにいます。
「ラスベガスっ!?」
唐突すぎる言葉にせき込んでしまう。が、落ち着け。これは嘘だろう、流石に。そんな渡航費は我が家には無い。
――投資、株取引……それに近しいことをやっています。
「ギャンブルだろ」
全く誤魔化せていない。ラスベガスの時点で誤魔化せていない。
ただ渡航費が無いであろうことは事実。あってラスベガスという名前のパチ屋に行っているくらいだろ。
――本当はこの240万が恋しいけれど。
「240万!?」
――でも今はもう少しだけ知らないふりをします。
「いやどっから出てきたその240万!? 知らないふりすんなっ!!」
――私の投資する240万も、きっといつか1000、2000万と膨らむはずだから。
「そんなきっといつかは絶対来ねぇ!!」
ギャンブルなんて最後は負けるように出来てるのだ。
やられたらやり返す? 否、やられたら更にやられる。倍投資からの借入増額だ。これには銀行さんもニッコリね。
「なんて考えてる場合じゃねえ! 240万……何か引っかかる数字だな。240……年収にしたら月収20万……20万!?」
戸棚のファイルに入っている高校資料の中から奨学金に関するパンフレットを引き抜く。
「……これだ、月額20万の奨学金プラン」
それは経済的に子どもを学校に通わせるのが厳しい家庭の為の奨学金。
基本誰でも借りられて、年利はわずかにつくものの勿論消費者金融よりは安いと言われている。
母はこれを使ったのだ。1年分丸々前借りして。
「あ、あんのクソババァ!!!」
俺は思わず家から飛び出していた。
まだ買ったばかり……ではあるが中古品のため既にボロくさい雰囲気を放ち始めている制服姿のまま。
手紙は切手も貼られず直接ポストに投函されていた。
朝には無く、こうして放課後に入っていたことを考えれば母が直接投函した筈。もしかしたらまだ遠くには行っておらず、駅前のパチ屋に捕まっているかもしれない。
「くっそぉ! 人には借金すんなって言っておいて!!!」
奨学金は聞こえはいいが借金だ。利子も付く。
いや、付かずとも240万なんて大金を一高校生である俺が返せるものか。
さっさと母をとっつかまえて即時返納するなり、計画的に使っていかなければ……そんな思いで町中駆けずり回ったが、全く見つからなかった。目撃情報さえなかった。
そして、俺は詰んだ。
生活費として残されたのはポケットに入っていた僅か7円のみ。ただ居なくなった理由も理由なので借金のカタに家ごとごっそり持って行かれることはなかった。それは不幸中の幸いと考えよう。じゃなきゃ死ねる。死ぬ。
「本宮?」
そんな途方に暮れる俺に声がかけられた。
昔聞き慣れた、今はたまに耳に入ってくる程度の知った声が。
「四天……?」
四天楔、俺のクラスメートであり、見方によっては幼なじみに当たる女子高生だ。
「貴方、こんなところで何してますの?」
異能マンガの強キャラ感漂う名前の彼女は口調もコテコテのですわ口調。関西のオッサンじゃない、お嬢様だ。
ちなみに口調だけでなく中身もお嬢様だ。
四天さん家はそりゃあもう、長者番付とやらに名前が載るほどの資産家らしいっすよ? どこかの社長とか会長とか……多分調べれば出てくるんじゃないかな。
ピッカーン! 俺の中に閃きが生まれた。活路……文字通り生きるための道が!
「し、しでぇん~!!!」
すぐさま眉間を指で刺激(良い子は真似しないでね)。物理的に涙腺崩壊させつつ、ダイビング土下座を繰り出した。
「な、なんですの!?」
「だずげでぐれェェエエ!!」
「ちょっ!? 人々の往来ですわよ!? ああ、とにかく此方に来なさい!」
四天に引っ張られ、近くに合った公園へ連れて行かれる。
そこでハンカチを出しながら何があったか聞いてくる彼女に俺は洗いざらい語った。
母親が蒸発したこと。当然生活費は母の手の中。そして奨学金1年分も母の手の中。俺の手の中には7円。
ちなみにいいご縁を呼ぶという5円玉は無く、おはじきよりも安っぽいアルミでできたちゃちなコインが7枚あるパターンだ。不吉ぅ。
「た、大変ですわね……」
「そう、大変なんだ……助けてくれ、四天!」
俺は恥も外聞もなく、そう泣きついた。
相手は同い年のクラスメート。けれど、関係無い。生きるためなら。
なぁに、1000円とかでいいのだ。とりあえずは。
そりゃあ何十万、何百万と借りれると楽だが、既に240万の借金を抱えてしまった俺がそれだけ上乗せされればいよいよ返せなくなる。地下行きだ。いや、行けるところがあるだけマシだよ。
「ああ、もうハンカチぐちゃぐちゃにして……」
既に俺より資産価値は高いであろうハンカチを眺める四天。
彼女は深々と溜め息を吐くと、僅かに思考するように目を閉じ……、
「わっ!? わたくしったら何を考えてますの!?」
そう突然顔を赤くし、目をまん丸に見開いて声を上げた。
いや本当に何を考えてるの?
「で、でもこれは本宮を救うためですわよ、楔。決して下心なんて無いですし、チャンスとも思ってません! 仕方なく、仕方なくなのです……」
「……四天さん?」
「本宮、あ、ああああ貴方をわたくしのペットにしてあげますッッッ!!」
「ペットぉっ!?」
予想の斜め上ェ!
ペットってなに!? わんこ的な可愛さ求めてんの? 俺に!? 無理無理無理!
「ごめんなさい……輪廻転生してからまた来ます……」
「ちょっ!? 何露骨に引いてますの!?」
「だって俺ペットにする意図が分からないし。インスタ映えしないからね。犬猫はベッドの隙間挟まってたら可愛いけど俺が挟まってたらただの心霊写真だから」
「可愛いと思いますけれど……」
ああ、駄目だ。お嬢様ってものは世間離れしているなんて言うが、感性がまるで違う。
流石使役する者。人間さえ飼育の対象になるらしい。
四天は互いに小学校に入る前から知る中だが、存在を認知している程度でしかない。まさかこんなお嬢様らしいお嬢様になっていたなんて。
ん? 待てよ……飼育? 俺が四天に飼育される?
「それってヒモというやつでは?」
ヒモ。それは働かなくても誰かが養ってくれるという男の子なら誰もが一度は夢見る夢の職業……いや、形態? あと、廃棄する本とか縛るアレ。
犬からヒモに、多分輪廻転生的にはグレードダウンしているけれど。いや、ヒモって生き物なのか?
「ヒモとはなんですの?」
「え、お嬢様ヒモも知らないの? 本とか縛るアレだよ」
「よく分かりませんわね。本宮は本宮でしょう」
「そうすね」
やはり俺を本宮という人間として認識した上でペットにしようとする四天は本物だ。
俺はヒモではなくリードなのかもしれない。
「いや、ペットでもヒモでもリードでも構わない」
「後の2つは言ってませんわよ」
「なるよ……なってやるよ! ペットでもなんでも!!」
俺は人としての尊厳を捨てた。いや、そもそも人と犬に差などあるものだろうか。共に命を持つ宇宙船地球号の乗組員だ。一つ屋根の下で暮らすファミリーだ。
俺は何も失っちゃいない。失ったのは金だけ。ま、尊厳なんかよりもそれの方が深刻なんですけどね。
尊厳売って金が手に入るならいくらでもって売りますよ、俺は。土下座? するする。何回すれば何円になります?
「ほ、本当になりますの……? わ、わたくしのペットに……本宮が!?」
「ああ、なったるぜ。おっとその割に偉そうなんて言うなよ? ペットショップの連中もきっと腹ん中じゃ『しゃあねぇ、飼われてやるか』って思ってるだろうからな」
まあ俺は買われるわけではなく、拾われるので新境地としては『捨てる神あれば拾う神あり……天使、四天ちゃんマジ天使』って心境だ。
「あっ、ペットを拾うなら親に許可を取らねばいけないんでしたわ! わたくし、マンガで読みましたもの!」
「おう。取れ取れ。存分に取れ」
と言って思う。
マンガでいったらペットを買う許可を取るのは死亡フラグでは……?
『ペットなんて駄目よ!』とママンに怒られ、橋の下とかでダンボールに入れられ、学校の帰りとかにこっそり餌を貰う……そんな感じになるのでは!?
『ごめんあそばせ、本宮。うちでは人間は飼えないのですわ』なんて、悲しげに頭を撫でられてしまうのでは!!?
四天は美少女だ。ぐうの音も出ずギャフンと言わされるくらいに美少女だ。
そんな彼女に撫でられる日々と言えば聞こえはいいかもしれない。
しかし! 一度は(勝手に)夢見た金持ちに飼われるという環境! 毎日三食昼寝床暖房付き! そんなトロピカルでファビュラスな生活は諦められない!!
「四天、ちょっとその電話……」
「え、とうさん?」
とうさん? 何、ちょっとやな響きがしたんですけど。
スマホを耳に当てた四天は呆然と宙に視線を彷徨わせている。
あ、ああ、お父さんの父さんね。ビックリしちまったよ。きっとペットを買うのにお父さんが反対したんだ。いやー男ってのは変化を嫌う生き物だねー。
「お父様の会社が、倒産しましたの?」
ギャー!! 逃げ道塞がれた!!
「破産……差し押さえ……? お母様、どういうことですの!?」
電話のため片方の声しか聞こえない。けれど深刻なのははっきり分かる。
マジだ。これマジだ。
何度か相槌を打ち、ぶるぶると手を、いや身体を震わせながら四天は暫く相手の話を聞く。
そして通話を切ると、顔を真っ青に染めて泣き出してしまいそうな表情で俺を見た。
「……ごめんなさい。わたくし、本宮のこと、拾えません」
「あ、ああ、うん……」
「それどころか、帰る家も無くなってしまったみたいで……ううっ、わたくし……ひっく、どうしたら……」
ポロポロと大粒の涙を零し始めた四天に俺は慌てた。実に慌てた。
16年ほど生きてきて一番の慌てだ。
まさか目の前で、お嬢様の家が破産するなんて。お嬢様が転落して地の底に落ちるなんて。
「うぅ……本宮ぁ……わたくし、わたくしぃ……」
「……取りあえず、うち来る?」
「……はい」
苦し紛れの俺の言葉にコクリと頷く四天。
昔の人よ。確かに『捨てる神あれば拾う神あり』というのは間違いではなかった。
けれど、拾う神がランクダウンして拾われる側になるなんて聞いてない。
正に『拾う神も拾われる』……いや、全然上手くないな。
あまりのショックにぶっ倒れそうになる四天を支えながら、路頭迷いの先輩である俺の家へと帰る。
彼女に比べ、家があるのだからありがたいことだ。下には下がいる。
そう、自分を励ましながら。
1人が2人になっただけ、ということには、今は知らないふりをした。
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