転
そう。
卒業生。はるか昔。この学校も随分と変わった……。
それらの言葉で、僕は少しだけ「そんなに大改修、あったのかなあ? このお姉さん、そこまで昔の人じゃないのに……?」と、疑問に感じていたんだ。
でも、それも氷解した。見かけは『お姉さん』だけど、実は、古い古い幽霊なのだとしたら……。辻褄が合う!
ところがお姉さんは、僕の言葉を聞いて笑いだした。
「あらあら。私、幽霊じゃなくってよ。安心してね。ほら、脚だって、ちゃんとあるもの!」
そう言って面白そうに、両脚をブランブランさせる。
「でも、今『生前』って……」
「ええ、そうよ」
お姉さんは、平然と言葉を続けた。
「私、一度死んで、生まれ変わったの。妖怪として」
妖怪。
幽霊ではないけれど、やっぱり人外の存在だ。
でも、幽霊よりは親近感がある。「生きているんだ、友達なんだ」という仲間意識。それが、その瞬間の僕の気持ちだった。
「妖怪……? それじゃあ……」
あらためて僕は、お姉さんをジロジロと眺めてしまった。水着姿のお姉さんを、上から下まで。
どう見ても、人間にしか見えない。人間そっくりの妖怪――特に美しい女の姿――として、真っ先に思い浮かぶのは……。
「……お姉さんって、雪女?」
「あらあらあら!」
また笑い出すお姉さん。先ほどよりも大きな声だ。
「雪女のわけ、ないじゃないの! だったら今ごろ、プールも凍っちゃってるわ。ちゃんと私は、泳げる妖怪に転生させてもらったのよ……」
そう言ってお姉さんは、自分の頭に手を伸ばした。
「ねえ、知ってる? 狸や狐が、木の葉を頭に載せて、人に化けるって話……」
「あっ! それじゃあ、お姉さんは……」
狸か狐の妖怪。そう言いかけた僕より早く、お姉さんは言葉を続ける。
「こうやって私は、生前の姿に化けてるの。憧れてた水泳選手の競泳水着をイメージして、ね。今、正体を見せてあげるわ」
お姉さんは頭から、丸くて平たいものを取り外す。水着姿の時には見えていなかったけれど、そんな変身アイテムを装着してたらしい。
すると……。
目の前にいた『水着姿のお姉さん』は、艶かしい緑色の妖怪に姿を変えた。
ちょうど当時、お酒のCMに出ていたヤツだ。
お姉さんはカッパだったんだ!