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 ちょうど一休みのタイミングだったのだろう。プールの(へり)にチョコンと座る、綺麗なお姉さんだった。

 すらりとしたお姉さんが、水から上がったばかりの濡れた姿で、月の光に照らし出されている。なんとも幻想的な光景で、お姉さんを見ていると、童話で読んだ「岩に腰を下ろして王子を想う人魚」の絵が頭に浮かぶくらいだった。

 もちろん、お姉さんは人魚ではない。魚の尾でなく人間の足を持っていたし、紺色の水着だって着ている。

 水泳の授業や海水浴場で見るようなタイプではなく、もっとちゃんと泳ぐ人が着るような、ちゃんとした水着だ。当時の僕は『競泳水着』という言葉こそ知らないが、その存在は理解していたんだ。

 そうやって、しばらくの間、僕は見とれていたんだと思う。

 僕の気配に気づいたらしく、お姉さんがこちらを向いて……。

 目が合った。

 色々な意味で、僕はドキッとしてしまう。でもお姉さんがニッコリと笑うので、僕は心が穏やかになった。

 だから、僕の方から口を開いた。

「お姉さん、誰? ここの生徒じゃないよね?」

 本当は『先生じゃないよね?』と聞くべきだったかもしれないが、まだ教師になるほどの年齢には見えなかった。僕たちよりずっと上で、女子大生よりは年下。そんな感じだった。

「あら、ごめんなさい。勝手に使って。ええ、生徒じゃないわ。この小学校に私が(かよ)っていたのは、もう、はるか昔……」

 お姉さんは、懐かしそうに周囲を見回す。「この学校も随分と変わった」と言いたそうなのが、その目を見るだけで僕にもわかった。

「お姉さん、卒業生なの? じゃあ、僕の先輩だ!」

「フフフ……。そういうことになるわね」

「じゃあ、お姉さん。こんな時間に忍び込まなくても、ちゃんとした時間に泳ぎに来れば……」

 プールには開放日もあるけれど、あくまでも生徒が対象で、卒業生は利用できないだろう。しかし子供の僕には、そんな理屈もわかっていなかった。

「あら、それは無理よ。だって……」

 今述べたような『理屈』とは別に、お姉さんの方にも、正式な利用は出来ない理由があるらしい。直接それを口にする代わりに、お姉さんは遠い目で語り始めた。

「今でこそ、こんなに泳げるようになったけど……。生前の私は体が弱くて、水に入ることも出来なかったの。プールは私の憧れの一つだったのよ」

 お姉さんはクスッと笑うけど、僕はビックリしてしまう。彼女の『生前の私は』という言葉で、気づいたんだ!

「お姉さん! 幽霊だったのか!」


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