起
あれは、僕が小学生の頃の話だ。
当時の僕は、中学受験のために進学塾に通っていて、その帰りは、かなり遅い時間になっていた。
ちょうど通っていた小学校も、塾から家まで歩く途中にあった。表通りと裏通りに挟まれる格好の小学校で、塾への通学路はその裏通りの方だった。
その日も僕は、小学校に面した裏通りを歩いていた。空にはお月様が浮かんでいるような時間帯だ。
すると、バシャバシャって水音が聞こえてきた。
「……え?」
不思議に思ったけれど、すぐにピンときた。誰かがプールで泳いでいるんだ!
言い忘れたが僕の小学校のプールは、表通りからは離れているものの、裏通りからは近い……というより『面している』というくらいの位置にあった。だから当然の推理だった。
子供というものは好奇心旺盛だから、僕も気になってしまった。
「こんな夜遅くに、誰がプールを使ってるんだろう?」
僕の小学校に、夜間の公式イベントはない。絶対、勝手な利用に決まっている。ならば僕も勝手に入って、その正体を突き止めてやろう!
まあ今とは違って、公共施設の管理もゆるい時代だったからね。夜間の警備員なども、ろくにいなかったはず。
裏通りに面した塀には、小さな子供ならば入り込める隙間もあり、そこから僕は夜の小学校に忍び込んだ。
誰もいない学校に忍び込む、という行為だけでも、子供にはワクワクする経験だ。でも厳密には『誰もいない』わけではない。なにしろ、プール無断使用の犯人がいるのだから。むしろ『犯人』を捕まえる少年探偵――ジュブナイル小説に出てくるような――の気分だった。
そして、プールに近づいた僕が、金網越しに見たものは……。