サイコパスな昔話 ② 完結篇
ある日、妻が夫の部屋を掃除していると、机の上にあるものが目に入る。
「あら? 何かしら? これ?」
それは数枚の紙だった。妻はそれを何気なく手に取ると、それとなく目を通してしまう。
その数枚の紙にはこう書かれていた。
『サイコパスな昔話 ②』
それを見た瞬間、妻は脱力し深い溜め息をついてしまう。
「あの人ったら……、まだ諦めてなかったのね」
妻はその昔話の内容は半分ほど知っていたので、残りの半分から読み始めた。
「じ、じいさん……、どうしてここに……。 いや、今はなんとしてもあの伝説の鎌を手にしなければ!!」
おばあさんは桃もろとも滝から落下する中、必死にその右手を伸ばします!!
ですが、いかに筋骨隆々のおばあさんであっても落下する桃を支えながら下から投げられる鎌を手にするには難がありました。
………………ところがどうしたことでしょう!?
おじいさんの投げた鎌はまるで生きてるかのように弧を描き、見事におばあさんの差し出す右手に苦もなく収まるではありませんか!!
「じいさんや……、ありがとう……。その優しさ、確かに受け取ったぞい!!」
おばあさんはその右手に確かな愛と鎌を受け取ると、その右手を勢いそのままに桃に向かって振りかざします!!
「さあ、年貢の納め時だよーーー!!!」
「行けーーー!!! ばあさんやーーー!!! そのまま伝説の鎌を振り下ろせーーー!!!」
これで決着か……!? そう思われたその時です!!
ピカーーー………………。
突然、霊妙な光が辺り一帯を覆います!!
「う……、うわぁ……!? 眩しい……!? 何だい!? この光はぁ!?」
「こ、これは面妖な……!? 一体、何が起こったんじゃあ!?」
霊妙な光はどんどん強くなるばかり。おじいさんとおばあさんはお互いがお互いを確認する事が出来なくなり、最後には自分の姿さえ見えなくなってしまいます!!
世界は白一色。おじいさんとおばあさんは、お互いの身を案じ声を掛け合います!!
「じいさんやーー!!」
「ばあさんやーー!!」
ピカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
…………………………………………………………………………………………………………………………
ピコー……ン…… ピコー……ン……
「はっ!!」
「はっ!!」
……どのくらい眠っていたのでしょう? おじいさんとおばあさんは一緒に目を覚まし、ふらふらになりながらも辺りを見渡します。
そこは目にもしたことが無い珍妙な四角い箱がずらりとならび、そこから天井とは何も無いように思われましたが、良く見ると透き通った、とても綺麗で美しい何かがぐるりと張り巡らされ、天井と四角い箱を支えていました。
おじいさんとおばあさんが、とても綺麗で美しい何かを恐る恐る覗くと、そこは暗くも丸く光輝く何が見えるのでした。
「こ、ここは一体どこなんじゃあ!?」
「お、落ち着け! ばあさん!! 気をしっかり持つんじゃあ!!」
おじいさんとおばあさんは今まで見たこともない世界に面食らいます。
しばらく腰を抜かしていると後ろの方に何か気配を感じるおじいさん。
「ばあさん!! 後ろに誰かいるぞい!!」
「何だってぇ!?」
おじいさんとおばあさん急いで後ろを振り返ると、そこには顔立ちの整った優男が立っていました。
その優男は胡散臭い声でこう言いました。
「いらっしゃいませ!! スイーツ・ピーチメロンにようこそ!!」
おばあさんは伝説の鎌を優男に向けて威勢を張ります。
「何もンじゃあ!? お前はぁ!?」
「わしらをこんな所に連れてきおって、どうするつもりじゃあ!?」
鎌を向けられた優男は、おどおどしながらも両手の平をおばあさん達の方へ向け、なだめようとします。
「おっ、落ち着いて下さい!! 今日は、あなた方が金婚式だと聞いたので、ちょっとしたサプライズを用意したのです!! ちょっとやり過ぎたかも知れませんが……」
それを聞いたおじいさんとおばあさんは口を揃えます。
「サプライズってなんじゃい?」
「サプライズってなんじゃい?」
「……え?」
その問いに優男は上手く答えられず、まごまごしてしまいます。
「その……、驚きとか、不意討ち……とか、そういう意味ですかね……?」
その言葉を聞いたおじいさんとおばあさんは激昂し、優男に襲いかかろうとします。
「不意討ちじゃとお!? 貴様、わしらを干し肉にでもするつもりかぁ!?」
「ばあさん、かまうこたぁない!! その伝説の鎌で奴の首をかりとるといいわ!!」
命の危険を感じた優男は急いで今言った言葉を訂正します。
「違います! 違います!! あなた方に献上品がある、そう言いたかったのです!!」
しかし、既におばあさんの伝説の鎌は優男の喉元を掻き切ろうとしていました。が、すんでの所で思い止まります。
「なんじゃい、そうならそうと最初から言わんかい」
「驚かしおってからに」
命びろいした優男は、腰を抜かし尻餅をついてしまいます。
「し、死ぬかと思った……。」
「で、献上品てなんじゃい?」
「ああ……、そうでした。」
おばあさんに言われて優男は、なんとか腰を上げます。
「私は果物を使った甘菓子を作る事ができます。それをあなた方に献上品として差し上げようと思ったのです。何でもお申し付け下さい。」
「何でも作れるのかえ?」
「はい、何でも作れます。……因みに一番のおすすめは桃をふんだんに使用した甘菓子ですね。私の得意とするものです」
おばあさんの質問に優男は懇切丁寧に教えます。
「何でものぉ……」
声を洩らすおじいさん。
「それで、何に致しますか?」
優男はおじいさんとおばあさんに問いかけます。
「どうします? おじいさん?」
「どうするかのぉ? おばあさん?」
おじいさんとおばあさんはしばし相談した後、口を揃えて言いました。
「栗」
「栗」
めでたし めでたし。
最後まで読みきってしまった妻は深淵を覗くような目をすると、手に持っていた紙をごみ箱まで持って行き、その上でビリビリと細切れに破り捨てた。
そして、一言。
「あなたが思っているほど、周りは面白いとは思って無いからね………?」
ごめんなさい、
あぁ、ごめんなさい、
ごめんなさい。