#1・2 変わらないコト
目の前には、一枚のプリントがある。毎年書く、『わたしのCM』という、自己紹介のプリント。目標とか、好きな本、音楽とかを書くあれだ。今年は三年生だからか、今までなかった、『昔から変わらないこと』を書く欄が追加された。幼稚園、小学校時代から変わらないことを、親と相談して書くように、と言われた。
しかし、正直なところ、そんなことを親と話したくはないものだ。いつかはアルバムを出されて、聞くのも恥ずかしい話をされるんだろう。
「透也、帰ろう……って、どうしたの? 新クラス早々、元気がない」
いつものように、由良が俺の席に来て、早く帰ろうと急かす。
「あのプリントについていろいろ、な。なんかさー」
「聞くのも書くのも恥ずかしいよね」
由良の言葉に重く頷く。考えるだけでも頭が痛くなるのに。
「まあまあ、一緒に考えながら帰ろうよ。親と話す前に、分かってたほうがまだ痛みは和らぐ」
そうか、なら、まだマシかもしれない。
「で、さ。私の変わらないことって、何だと思う?」
「うるさいとこ」
「最初にそれはないでしょ! ほかには」
「勉強嫌いなとこ」
「うっわー。良いことひとつくらい言ってくれてもいいじゃん。まるで私にいいところなんかにみたいに言わないでもらえますー?」
「――勉強嫌いな割には、ちゃんと勉強と遊びと分けているところ」
「お、おおー」
反応に困ったのか、意味の分からない声を出す。
「あと、その髪型」
「これ? どこが?」
ショートボブに、右側だけを前髪は留めて、横髪を耳にかける、という髪型。
「あのねえ、保育園と小学校の卒アル見てみなよ。おもっしろいくらい変わってない。本当」
「へえ。そっか、だから、昔の友達からよく、変わってないね、って言われるんだ。じゃあ次は透也のかあ。うーん、考えさせて」
自分でもびっくりするくらいすぐに出てきた。何だ、それほど俺はあいつのこと――。
「うー、あ、はい! 透也透也、見つかったよ!」
いきなりあげられた由良の声にびくっとする。やっぱり、あの頃から変わらない。うるさいのは。
「なに?」
「ふふー、そ・れ・は」
言葉を切り、俺の顔を見て
にたぁー
と、意味ありげな笑みを浮かべた。
「私との、身長の差!」
ピンと伸ばされたかの指は、俺を指している。
「絶対に書きたくない」
「なんでー。事実でしょ」
由良の言うとおり、俺と由良の身長差はあの頃から本当に変わらない。きっちり、3cm差。
「絶対に、書かないね。大体、あのプリントは、そういうことを書くんじゃないと思う」
「はあ? じゃあさっき透也が言った、私のやつも、違うでしょ」
二人で立ち止まってお互いを睨み合う。でもそれは長くは続かないもので。
「ああ、もう。本当無理。笑っちゃう」
由良が横を向いて身体を震わせながら言う。そんなに笑う意味がわからない。
「ねね、透也。明日、勉強会しようよ。透也ん家で」
「別にいいけど。何時から?」
10時、と由良が言った。しかし、由良は一度も時間通りに来たことがない。いつも、早く来る。まあ、遅刻してくるよりはずいぶんとましなのだが。
そんな話をしているうち、俺等の家がある住宅街に入った。
「じゃあ、また明日ね」
「うん、じゃあな」
「ただいまー!」と声を上げ、元気に家の中へ入っていった。
この声を聞くと、なぜだか一日の疲れが吹き飛んだ。




