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ラストdays  作者: 暁智葉
3/3

#1・2 変わらないコト

 目の前には、一枚のプリントがある。毎年書く、『わたしのCM』という、自己紹介のプリント。目標とか、好きな本、音楽とかを書くあれだ。今年は三年生だからか、今までなかった、『昔から変わらないこと』を書く欄が追加された。幼稚園、小学校時代から変わらないことを、親と相談して書くように、と言われた。

 しかし、正直なところ、そんなことを親と話したくはないものだ。いつかはアルバムを出されて、聞くのも恥ずかしい話をされるんだろう。

「透也、帰ろう……って、どうしたの? 新クラス早々、元気がない」

 いつものように、由良が俺の席に来て、早く帰ろうと急かす。

「あのプリントについていろいろ、な。なんかさー」

「聞くのも書くのも恥ずかしいよね」

 由良の言葉に重く頷く。考えるだけでも頭が痛くなるのに。

「まあまあ、一緒に考えながら帰ろうよ。親と話す前に、分かってたほうがまだ痛みは和らぐ」

 そうか、なら、まだマシかもしれない。


「で、さ。私の変わらないことって、何だと思う?」

「うるさいとこ」

「最初にそれはないでしょ! ほかには」

「勉強嫌いなとこ」

「うっわー。良いことひとつくらい言ってくれてもいいじゃん。まるで私にいいところなんかにみたいに言わないでもらえますー?」

「――勉強嫌いな割には、ちゃんと勉強と遊びと分けているところ」

「お、おおー」

 反応に困ったのか、意味の分からない声を出す。

「あと、その髪型」

「これ? どこが?」

 ショートボブに、右側だけを前髪は留めて、横髪を耳にかける、という髪型。

「あのねえ、保育園と小学校の卒アル見てみなよ。おもっしろいくらい変わってない。本当」

「へえ。そっか、だから、昔の友達からよく、変わってないね、って言われるんだ。じゃあ次は透也のかあ。うーん、考えさせて」

 自分でもびっくりするくらいすぐに出てきた。何だ、それほど俺はあいつのこと――。

「うー、あ、はい! 透也透也、見つかったよ!」

 いきなりあげられた由良の声にびくっとする。やっぱり、あの頃から変わらない。うるさいのは。

「なに?」

「ふふー、そ・れ・は」

 言葉を切り、俺の顔を見て

にたぁー

と、意味ありげな笑みを浮かべた。

「私との、身長の差!」

 ピンと伸ばされたかの指は、俺を指している。

「絶対に書きたくない」

「なんでー。事実でしょ」

 由良の言うとおり、俺と由良の身長差はあの頃から本当に変わらない。きっちり、3cm差。

「絶対に、書かないね。大体、あのプリントは、そういうことを書くんじゃないと思う」

「はあ? じゃあさっき透也が言った、私のやつも、違うでしょ」

二人で立ち止まってお互いを睨み合う。でもそれは長くは続かないもので。

「ああ、もう。本当無理。笑っちゃう」

由良が横を向いて身体を震わせながら言う。そんなに笑う意味がわからない。

「ねね、透也。明日、勉強会しようよ。透也ん家で」

「別にいいけど。何時から?」

 10時、と由良が言った。しかし、由良は一度も時間通りに来たことがない。いつも、早く来る。まあ、遅刻してくるよりはずいぶんとましなのだが。

そんな話をしているうち、俺等の家がある住宅街に入った。

「じゃあ、また明日ね」

「うん、じゃあな」

「ただいまー!」と声を上げ、元気に家の中へ入っていった。

この声を聞くと、なぜだか一日の疲れが吹き飛んだ。

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