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ラストdays  作者: 暁智葉
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#1・1 一年の始まり

由良に出会ったときのことは、自分でも信じられないくらい覚えている。思い出すのも恥ずかしい、春の日だった、あのときから毎日聞いていた元気な声は、12年経った今でも全く変わらない。

 目の前にいる彼女は、歩きながらくるくると回っている。そして、こけそうになっていた。

 「由良。歩きながら回っていたら危ないよ。それに鞄振り回さない。変な人に思われてもいいの? こんな人通りの多いところで」

「ふふー、今日、始業式だねえ!」

「人の話聞いてる? ていうか、学校が始まるんだぞ? もう最高学年に」

「分かってまーす。楽しみじゃん。クラス替えとか、新入部員とか。私、たくさん勧誘するんだー」

 俺の話をさえぎり、感情が高ぶっている由良は、回るのはやめたものの、楽しそうな軽い足取りで歩いていった。

「へえ。頑張って。バドミントン部は勧誘してもしなくても、自然と部員が集まってくるからな。みんな初心者だし」

「そういえば、知ってる? 女子で、バドミントン部と合唱部とで迷って、合唱部に入ったって言う子、結構いるんだよ。あ、私もだけど」

「聞いたことある。合唱部さあ、今、2、3年だけで30人いるんでしょ? そんなに取るなよ」

「取ってないですー。そりゃ、去年の対面式は、一年生女子は全員、音楽室に来てください! ってやったけど。結局、全員来てないし。あ、でも、駐輪場の前でわざと歌ったこともあったな。去年はテレビ出演もあったし」

 入学式の一週間後くらいにある、対面式。一年生に学校のことを教えたり、部活動の紹介があったりする。それぞれの部活で、一年生を勧誘するためにいろいろと凝ったことをするのだ。運動部だったら練習を体育館でして見せたり、美術部だったらかいた絵を見せたり、茶道部だったらミニお茶会をしたり。

 そして合唱部は、地域限定放送だが、テレビに出演し、歌を披露したのだ、それを見て合唱部に入ろうと思って入部した人もいるのだろう。

「合唱部って、校内でも外でも、どこでもアピールできるよな」

「ふふーん、いいでしょ。目標は、15人!」

 前を歩いていた彼女は俺を振り返り、ドヤ顔をした。しかし、宣言したは良いものの、集まらなかったら意味がない気がする。

「いや、俺が言いたかったのは部活のことじゃなくて。もう三年生になる、っていう自覚がないことを話したかったんだよ」

「ああ、分かるよ。合唱部なんて、4月に入ってから3年生、2年生って言われたから結構こんがらがっちゃって。しかも、先生が、今の2年生っていうから。今のって、どっち? みたいな」

 自覚がないというものの、今日は始業式、クラス替え。そして明日は入学式。三年生になった自覚がないなんて、さすがにいえない状況となる。きっと、三年生になり校舎が変わったら、一年生の姿を見たら先生の口癖や態度が変わったら、対面式から新入部員が入ってきたら。自覚が生まれれてくるのだろう。

「へえ。バド部は春休み、ほとんどなかったから先生からも何も言われてないし。もっと自覚がない。あ、また部活の話になってる」

「ほんと。私達、そんなに部活について話したいんだね」

 私達、には俺も入っているのだろう。でも、どう考えても部活の話に変えたのは由良のほうではないだろうか。

「おはよー! 由良久しぶり。今日は別々に来ると思った」

「久しぶりー! なんか、今日は早く行こうって、透也が」

 由良の親友、合川さんが自転車で俺達の前を走り過ぎていった。

「え、言ってなかったっけ? 朝から始業式の準備が執行部であるからって」

「聞いてない! ……気がする。あいあいも執行部だよね。こんな早くに来る人っていない、っていうことは私教室で一人? まあいっか、なんかしておこう。いずれみんなも来るだろうし」

 由良は合川さんのことをあいあいと呼ぶ。なぜか苗字の“あい”を繰り返していて、よく意味が分からない。合川あい、ならばともかく、合川晴香なのだから。

 由良のこのなんとも言えないポジティブさには感心する。6年生のときから随分と変わったものだ。心が強くなり、なにごとも明るく捉えるようになってきた。

「じゃ、最後の2年のクラス、どうぞ楽しんで」

「透也もねー。さっさと準備終わらせて教室戻ってきなよ。あ、別に透也は帰ってこなくてもいいよ」

 いたずらっぽく笑う由良を見て、ため息が出る。まったく、今日は新学期早々、新学年早々、由良に振り回されてばかりだ。


「おはよー、透也。今日も、二人で仲良く来たんだって? 仲良いなあ」

「なんで知ってるんだよ」

「広川さんが教えてくれた。しかも超快く」

 俺の友達、大和と真吾に今朝もまた、言われる。今日が本当にこのクラスは最後だというのに、一年間、ずっと言われ続けてきた。しかし、一年間も飽きずに言ってくる二人もすごい。

「今日はクラス替えー。テンションが上がるから、いちいち言うのも苦にはならん!」

「苦になってたのかよ!」

「テンション高いからー、とか言われても、大和はいつもおかしいでしょ」

 真吾の言うこともごもっともだが、大和の言うことも分かる。クラス替えとは、中学生にとって一番楽しみな行事……なのだから。特に中学三年ともなれば、最後の一年。一生思い出に残る、それほど重要なクラスになる。

「じゃあ、今からクラス発表するぞー。そこ、窓とドア閉めて。クラス言われて騒がないように。いくぞー、準備良いかー?」

「日高、四。広川、四」

 また、同じクラスになってしまった。

「透也、広川さんと同じクラスになるの、何回目?」

 真吾から聞かれ、俺達二人は顔を見合わせる。

「えーと、幼稚園は年少、年中、年長、全部で、小学校は」

「5年のとき以外、ずっと一緒。中学は3年間」

「へえ。そんなにずっとおんなじクラスになる人って、いたんだ。先生達もすごいね。普通、仲がいい人同士は離されるもんじゃない?」

「つまり、合川さんが言いたいのは、透也と広川さんは先生にとって、仲が良いように見えなかった、って言うことだよね」

 うんうんと頷きながら大和が言う。おい、そこは納得するとこではないでしょう。

「大和、そんぐらいにしとけ。透也がかわいそう」

「まあ、あいあいの言うとおり、別に仲良くはないよね」

「え? ああ、うん」

 由良が俺の方を見て同意を求めてきたが、それは頷くべきか、否定するべきか……。心の中では首を傾げながらも、当たり前だろ、といった風に余裕のある顔で頷く。

 ああ、なんだかもやもやする……?

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