召使いはスキルを鑑定する
初投稿です!出来るだけ投稿間隔を開けないように頑張ります!
『身分』というものは、生まれつき決まっているものである。
この世界においてそれはかなり顕著と言えるだろう。なぜなら生まれつき目に見える形で身分とも言える職業が決められているのだから。
メインジョブ。それは生まれた瞬間に世界から授けられる、自分に適正のある職業の事だ。これにより自身の才能も決まる。例えばメインジョブが『戦士』ならば『戦士』に相応しい武器を扱う才能や戦闘の才能を少なからずは持っている事になる。そこだけ聞けば素晴らしいかもしれないが、これにはデメリットがある。メインジョブによってデメリットも存在するのだ。先程に続けて『戦士』ならば例えば魔法の才能の喪失及びに魔法耐性マイナス、素早さ、知力のステータスの成長速度マイナス、手先が器用にならない等がある。分かりやすく言ってしまえば『戦士』に生まれたものは『学者』のように知力が必要な事柄は出来ないし、『魔法使い』のように魔法は使えない、という事だ。
昔は違ったらしいが、今ではメインジョブを職業としない人が増えてきている。子供の頃の自分は「メインジョブを職業にして働きゃいいじゃん」なんて語っていたが、それは酷い勘違いだ。生まれつき戦いたくないものも居るだろう、魔法使いに憧れるものも居るだろう。しかしメインジョブとその人の願望が必ずしも合致するとは限らない。自分がそうだから解るが、自分の望まないもので働くというのは思っていたよりも辛い。
そして王国等では、メインジョブによって身分が分けられている。レアなメインジョブであればあるほど身分が高く、今最も身分が高いと言われているのは『王族』『勇者』『聖騎士』などだろうか。これ等の職業がメインジョブならば生まれながらの人生勝ち組だ。金に困る事はなく、生じるデメリットも存在しない。しかもレベルも上がりやすい、文字通り何でも出来るのだ。
ああ、自分もそんな上位のメインジョブに生まれていたらなぁ。そんなあり得ない事を考えながら、成人を迎えた最底辺のメインジョブ『召使い』の自分、アランは成人の儀式を受けるためにご近所の教会に向かっていた。
成人の儀式、というのはただ成人になった事を祝ったりするものではない。この世界では成人である18の年を迎えるとスキルと呼ばれるものが発現するのだ。昔から発現したスキルを世界からの成人祝いの授かりものと称している。
そのスキルは教会に行くことでその名称、詳細を鑑定して教えてもらう事が出来る。このスキルの事を教えて貰いに行くことを俺の住んでる村では成人の儀式と呼んでいる。他ではどうかは知らない。正直に言ってしまえば、召使いである自分に大半のスキルが発現しようと意味はない。自分に役立つとしたら《強運》とか《効率強化》だろうか。まあどちらもレアスキル、運に自信のない自分では発現は不可能だろうが。
教会の一歩手前、自分の村では小さい店が並んでいるのだが、そこの肉屋のおじさんが俺に恐ろしく驚いた表情で迫ってくる。何事かと思ったが、ああそういえば、と一人納得する。
「あ、アラン!お前ぇ!王城での就職が決まったんだって!?」
「ああその通りだよおじさん、俺は召使いのエリートになったのさ!」
召使いのエリート、と聞くと少し笑ってしまう人も居るかもしれないが、実はこれはおじさんの反応の通り凄いことなのだ。最底辺のメインジョブである『召使い』が国王の城に就職、この村ではかなりの快挙である。
「いやあ、あの苛められっ子だったお前が王城でなぁ…うちの馬鹿息子にも見習って欲しいよ」
「ああ…おじさんの所のジョニィは確か肉屋を継がず冒険者になったんだっけ」
「そうなんだよ!ステータスも高くないんだから辞めろって言ったんだけどなぁ」
…相変わらず口の悪い人だ。流石苛めっ子のジョニィの口の悪さはここから遺伝したのではないだろうか。
「ははは…じゃあ俺はそろそろ教会に」
「おお!引き留めて悪かったな!いいスキルが当たるように願っとくぜ!」
そんなんでいいスキルが当たったら苦労しないよ、とおじさんが見世に戻った後に小声で呟いた。正直あのおじさんは苦手だ、ジョニィが冒険者になって家を出た理由が良く分かる。今度は誰にも話しかけられたくないので少し駆け足で教会まで向かい、教会に着いたら素早く中に入る。ここの教会には滅多に人が入らないから後は楽だ。
「じっちゃん、スキルの鑑定お願いしたいんだけど」
「はいはい…誰かと思ったらアランか。そうか、お前ももう成人したのか」
「そうだよじっちゃん。だから鑑定の方、よろしく!」
「お前は変わらんのう…で、スキル鑑定じゃったか。少し座って待っておれ、紙を持ってくる」
「りょーかい」
教会のじっちゃん、昔からの数少ない話し相手である。今では腰の曲がった見るからに優しそうなお爺さんだが、本人曰く昔はバリバリ前線で闘うモンクだったそうな。この人なら自分のスキル鑑定を任せられる、わざわざ王国から此方に帰ってきて良かった。王国で『召使い』がスキル鑑定なんてしたら間違いなく大量の金を取られる、職場の先輩がそうだったらしいし間違いない。
「ほれほれ、持ってきたぞ」
「ほへー、これがスキル鑑定用の羊皮紙。普通のと何が違うの?」
「普通の羊皮紙には無い魔力が込められてるんじゃよ。これにお前の血を垂らせばステータスが数値化されてこの羊皮紙に出てくる」
普通に買おうとすると最低でも金貨58枚は必要になる高級品である鑑定用羊皮紙。自分にとってはこれが最初で最後の鑑定になるだろう。左手で懐から護身用のナイフを取り出し、右手の人差し指に切っ先をほんの少し血が出るように押し付け、血が出たのを確認したら指示通りに羊皮紙に血を垂らす。
すると羊皮紙がほんのり青く光り、段々と文字が浮かび上がってくる。この浮かび上がっているのが自分のステータスな訳だ。
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名前:アラン
種族:人
年齢:18
メインジョブ:召使い
サブジョブ:─
Lv:9
HP:25/25
MP:1/1
筋力:2
耐久:8
魔力:1
敏捷:18
器用:100
知力:46
幸運:60
固有スキル:
《ランクアップ》
ジョブスキル:
《家事の心得》
《世話の心得》
《召使いの極み》
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「…《ランクアップ》?じっちゃん、これ聞いたことある?」
「いやぁ、見たことも聞いたこともないスキルじゃなぁ」
「マジで?じっちゃん45年以上『モンク』やってたのに?」
「やってたが聞いたことないのう。どうする?別料金じゃが詳細鑑定やっとくか?」
じっちゃんのその言葉に条件反射で全財産の入った包みに触れる、残念ながら今の所持金は帰りの馬車代しか入っていないので詳細の鑑定は出来ない。
「ま、『召使い』である俺にはスキルなんて関係ないさ。ジョブスキルもあるし」
「そうか。…いつ王国に戻るんじゃ?」
「馬車の予約もしたし、もう今日中には出るよ。あまり休みたくないしね」
じっちゃんに礼を言って、教会を後にした自分。明日は王城で儀式を行うらしいのだ。…確か、内容は異世界からの勇者召喚。正直、眉唾物だとしか感じていないが、参加しておけば給料は貰える。あまり乗り気がしないまま、俺は王国の借りている宿屋の一室まで戻るのであった。
──今日鑑定されたスキル、《ランクアップ》。この詳細をこの時ちゃんと見ていれば、俺は次の日勇者召喚に立ち会おうだなんて思わなかっただろうし、王城で働き続ける事が出来たのだろう。この時から、俺の運命はひっくり返された。
次回は説明文はほとんど無しでいくと思います