第3話:黒い日常
入学して2ヶ月。この黒い生活にもなんとか慣れてきた。
男子だけで過ごす日常。朝9時前から午後4時ごろまで、勉強漬けの毎日であった。中学校までのような体育や音楽の授業はなく、数学、理科、修身(トチギ臨時政府のイデオロギーの涵養を目的としている)、の3つの科目が扱われる。トチギ臨時政府には、「歴史」が存在しないことになっており、少なくともタクヤたちのような公立高校生には教えられることはない。また、トチギ臨時政府の「外」があるということも一般民衆には知らされていないので、現在の「国語(「日本の」言葉)」や「英語」のような授業は行われない。ごく一部の、支配者となることが約束された私立高校生にだけ、これらの授業を行う。トチギ臨時政府では、公立組には社会の構成さえ認知させない、愚民政策が敷かれていた。
「今日の授業はここまでだ。明日までに今日の内容を復習しておくように」
担任のサノは、気怠そうに授業を終えて教室から出て行った。
「今日も勉強、明日も勉強、その次も、またその次の日も、やっぱり勉強......。勉強以外にすることないのかよ」
マサトはまだこの生活に慣れていないようだ。彼はクラスでもやんちゃな部類に入り、友人も多そうだ。しかしやはり中学校までとは違うこの環境に違和感を覚えるのだろう。
栃木第三高校では夏休み前の7月半ばに期末テストがある。今はそのためのテスト対策期間だ。放課後に教室で午後8時まで勉強することが課されている。タクヤたちは入学後初めてのテストとなるため、力の入れ具合もわからず遮二無二勉強していた。
私立に行ったやつらは、今頃何してるんだろうーーー。タクヤの脳内に、中学時代の数人の顔が浮かんだ。彼らは自分たちとはずいぶん違うところへ行ってしまった。そんなことを、タクヤは考えていた。
長い梅雨が明けて空が高くなってきた。夏はもう、すぐそばに来ている。