第2話:漆黒
その学校は漆黒だった。
校内のどこを歩いても学ランを着る漆黒の男子高校生ばかり。セーラー服を纏った純白の女子高生はどこだ?あっいるわけないか、ここは男子校なんだ―――。
入学したてのタクヤはこの異様な空間に戸惑いを隠しきれなかった。タクヤは中学生の頃から異性に特別の関心を寄せている訳ではなかったが、それでもこの男だけの監獄で3年間を過ごすと思うと少し怖くなった。
タクヤは3組あるうちの1組であった。中学からの友達のマサトも同じクラスで少し安心した。
「なんかすごいよなー、男子校って。男子しかいないんだもんなあ。」
「そりゃそうだろ、男子校なんだから。」
タクヤは空返事をして受け流していた。
「そりゃそうなんだけどさ、『公立』男子校ってのがなあ。しかも私立じゃないから民度も低いし特別頭もいいわけじゃないし。なんか大事なもん中学で捨ててきた気がするなー……」
それは核心をついていた。私立ではない、「公立の」男子校なのだ。日本国内には富裕層の御曹司が入学するような私立の男子校が存在する。(が、トチギ内では情報規制が行われており、被支配階級であるタクヤたちはこの事実を知らされていない。)そこでは一定水準以上の人間たちが満足のいく環境で知的財産を享受しているらしい。
しかし栃木臨時政府での公立高校では話が違う。私立の高額な学費が払えない平均以下の所得層の子供たちがこぞって送り込まれる。そして「政府のために」勉強を強いられる。大切な「青春」と引換に―――。
「まぁもうこの現実は変わらないんだし、せいぜい男達だけで楽しもうや」
タクヤは教室の窓からどこか遠くを眺めていた。