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The Resistance of Tochigi  作者: 宇曽川 嘘
第1章
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第1話:トチギ臨時政府

あなたは「栃木県」と聞いて、何を想像するだろうか?

とちおとめ?おおよく知っている。餃子?それは宇都宮だ。日光?那須?あれは「栃木」の名所というより「日本」の名所だ。

栃木県は関東地方の北端に位置し、関東平野に属しながらもしばしば東北と勘違いされ、その知名度は一周回って高くなりつつある。しかし西接するあの県には話題性もネタ性も大きく負けており、敵愾心を抱くものもいるほどだ。

そんな栃木県には他県に誇る知られざる名産がある。


公立男子校、女子高だ。


「男子校」、「女子高」と聞くと大抵の人は有名私立高校を思い浮かべる。

「男子校出身です。」

「うわあ!頭いいんですね!」

「女子高出身です。」

「そうなんですか、育ちがいいんですね!」

という会話が延々と繰り返されるが、そうではない。栃木県では公立高校の大半は男女別学。「男女七つにして席を同うせず」の言葉よろしく、高校生は私立に行かない限り別学を免れる事は少ない。そして田舎にはよくあることかもしれないが、私立よりも公立のほうが成績が良いことが多い。それゆえ栃木県の中学生は15歳になると「別学での勉強」か「共学での青春」の二択を迫られる。これは思春期の少年少女にとっては大きな選択である。

なぜ勉強か青春かの二択なんだ、別学を廃止して二兎を得る事はできないのか、と栃木県の誰もが考えるはずだ。しかしそれはできない。他県の殆どは教育分野でも近代化を遂げて共学制を導入しているにも関わらず、栃木県は未だに別学制を頑なに守り続けている。将来は文部科学省に入省して栃木県の教育を変える、という大志を抱いて高校3年間を勉学に費やした男たちも、夢儚く破れ母校で教鞭を取り、将来の自分たちを産み出し続けるという永久機関を形成している。

そのような独自の「制度」を保ち続けた栃木は

次第に日本から隔絶されることとなった―――。


2X00年、栃木県は日本からの独立を主張。「トチギ臨時政府」としてその首都を栃木区に構えた。日本政府はこれを否認しているが、臨時政府は独自の政治を断行している。栃木臨時政府は領土内のすべての公立高校の男女別学を命じる「男女別学法」を施行。21世紀初頭に栃木県内で「公立共学最後の砦」と言われていた、下野辺りにあったあの高校も今や男女別学を余儀なくされた。

政府の目的はまさしく「身分制度の実現」であり、そのために共学私立と別学公立の役割を峻別した。私立ではコミュニケーション力やプレゼン力などいわゆる「社会適応能力」を要請する。それゆえ部活やアルバイトなども奨励されており、共学ゆえの「青春」も約束されている。

一方公立では部活などは禁じて「学業」に専念させる。彼らは3年間勉強漬けの生活を送り、政府の歯車として社会に送り出される。異性との交流は勉学の邪魔になるという政府の考えにより、別学制度はもちろんのこと不必要な異性との交流は禁じられていた。政府に「不健全行為」と指摘された公立高校生は、政府により厳しく罰せられる。

これほどまでの私立、公立の役割分担は、否応なく社会のヒエラルキーを形成した。社会適応能力を身につけた「私立組」が社会でも権力を持ち、学を身につけたものの社会適応力のない「公立組」は社会の歯車として私立組に利用、搾取される。極小数の私立組が大多数の公立組を支配する、寡頭政治が断行されていた。私立は公立の100倍の学費がかかるため、入学できるのは一握りの人間だけであり、子供の進路は親の所得に大きく左右され、結果として代々私立に通う「ブルジョワ」層が形成された。日本への「出国」は禁じられており、もしも出国が見つかれば「反逆者」として投獄される。2X80年、タクヤはそんな栃木臨時政府内の栃木第三高等学校への入学を決心した。


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