1/8
プロローグ
「頼む、母さん!俺を私立に行かせてくれ!」
もう何度目だろうか。叶うはずもないと分かっている願いを、それでもタクヤは叫ばずにはいられなかった。
「勉強だけの高校3年間なんてまっぴらゴメンだ!そうやって必死に勉強したって、結局私立のやつらに良いように利用されるだけなんだから!」
そんなこと言わないで!と母はか細い声を震わせた。母をこんなに困らせるとは我ながら親不孝だ、と自責の念に駆られる。
「うちが貧乏なのはあなただって分かっているでしょう?あの人がいなくなってから、私が一人でこの家を支えて、ただでさえ家計が厳しいの。それなのに公立の100倍の学費を払って私立に行かせるとこなんて、私にはできないわ……」
そんなことは、分かっていた。
タクヤは私立高校の願書を破り捨て、「栃木第三高校」の願書にペンを走らせた―――。