3 打倒ナベリウス
「あ”あ”ー」
俺はおっさんくさい声を上げながら、むっくりと起き上がる。意識を取り戻してから、寝ころんだまま数十分が立っていたが、俺はやっと動く気になった。
視界に入るのは古びた神殿。俺はいまだに、デイヨルネド鍾乳洞の地下神殿にいた。
初めて俺が「復活」したのはもう何日も前だろう。ここは日も差さないし時計もない場所だ、細かい時間の経過はわからん。最初のほうは夢であってほしいと願い続けたが、もう復活した回数は両手じゃ足りない。さすがに現実を受け入れている。
「体重いなあ、俺おっさんになったらこんな感じなのか」
よっこいしょと声を出しながら立ち上がる。ここ何度かの「復活」でわかったことだが、目覚めたときはものすごく体が重い、そして震えるほど寒い。普通に睡眠をとったときもそりゃあ寝起きは多少は体が重かったりするが、なんというか病的なくらいの全身の倦怠感がある。俺は今まで寝起きは悪くないほうだったのに嫌な感じだ。とはいえ寝起きじゃなく、死んでからの復活だから睡眠なんかとは別ものなんだが。身体がやけに冷たくなっているのも、死となんらかの関係があるのかもしれないな。
「ああ、慣れんな……はあ」
復活はまだ十数回程度だが、それでも慣れない。復活したときには震えが止まらないのだ。それは体が冷えて寒くなるとかそんなことが理由なんじゃなくて、なぜか目覚めたとき恐ろしくてたまらない気分になってる。死んだ回数が十を超えたところで数えるのをやめたが、それでも震えは止まらない。これはあれか、死への恐怖があるのが人間としての本能なら、俺の無意識の恐怖心が騒ぎ立ててるせいなのか?少々、つらくはある。
だが、我ながら神経は図太いほうなのだ。たとえ復活した直後に震えていようが寒かろうが俺は生きてるし、全くもって諦めるとか絶望するとかってことは頭にない。それに「ゲーム」はまだ始まったばかりだ、これは難易度高めのチュートリアルだとでも思えばいい。……やや難易度は高いがな。
「くそお、ナベリウスめ……じゃれついてきやがって、手加減してくれよ」
身体についたほこりを払いながら、ぶちぶちと文句を言う。俺の独り言は、元の世界で一人暮らししていたときの比じゃないくらい多くなった。
「あー寂しい。せめて仲間ほしい仲間。もう種族とか問わないし戦えなくてもいいから仲間ほしい。いやでも贅沢いえば魔術師がいい」
この神殿にいるのは俺とあのどでかい灰色のなんちゃって狼だ。ナベリウスはおしゃべりの相手にはならない。俺は猛烈に寂しかった。だがここから出るにはナベリウスをなんとか倒せるくらいには強くならないとしないと脱出不可能なんだから今はどうしようもない状況だ。
「ふんっ!はっ!ほっ!」
剣を振りながら、俺は今後のことを考える。
まず俺にとって一番重要なのは元の世界に戻ることだ。内心で俺が心底愛するゲームの中に入ったと、ほんの一瞬だけ場違いにも浮かれはしたが、これはゆずれん。友人もろくにおらず恋人もいない俺だが、地元には俺のおふくろが一人で生活している。もう少し金がたまったら実家に戻るつもりだったのだが、俺はこんなところに来てしまった。孫の顔を見せてやれるかどうかは微妙だが、くそったれな親父がよその女といっしょに消息不明にるまで苦労を掛けられ続けたおふくろを放っておくわけにはいかん。俺は他人にろくに気も使えんような男だが、産んでくれた母親一人くらい楽な暮らしをさせてやりたいと思う程度には血の通った人間なんだ。俺はマザコンなんかじゃないが、それは女手一つで育ててもらった息子としては当然くらいに思っている。なんとか元の世界に戻っておふくろ孝行するんだ!
さて、問題は、俺がどうやって元の時代に戻るかだ。
だがそれについてはエーテルがこの神殿に来た時に、神様ぶった言い方で俺やほかの攻略者に教えてくれていた。
あの神は確か、「この世界の運命を託す」と言っていた。そして「余の加護を望むもアーエールの加護を望むも自由だ」そして「世界の行く末定めた暁には元の次元に戻そう」と。つまりは俺たち攻略者たちが、その名の通りこの世界を攻略していけば元の世界に戻してやるってことだ。第1エンドはいわばエーテルの加護する人間の勝利エンド、第2エンドはまだ見てないが、多分アーエールの加護する魔物の勝利エンドだ。足りない脳みそで必死に考えたが、つまるところ人間か魔物かどっちかの味方になって、どっちかのエンディングまでたどり着けばいいってことだろ。だが俺のいた世界にあったゲーム『Rebirth』とこの世界の関係性はなんなんだろうな。この世界に来たやつはおそらく全員リバースのプレイヤーだろうが、まったくどうなってんだか。
ただ、他にもいろいろ言っていたような気がするが俺が内容を推測できたのはこれくらいだ。俺をこんなところにまで連れてきたのはあの神様だが、その意図なんかは知らん。だが俺はおふくろのためにも元の世界に戻らないといけないんだ。
とはいえ、一つの懸念はある。それは俺が第2エンドのエンディングを知らないってことだ。第1エンドは魔物がいなくなって平和になるエンドなら、第2エンドは一体どんな内容だ?多分魔物側の勝利となるエンドなんだろうが、でもそれはゲームのなかの話だ。たとえ第1エンドを目指そうが、ゲームの筋書き通りにいくもんだろうか。この世界に放り込まれた攻略者は俺だけじゃないし、全員が協力してエンディングを目指すかどうかも分からない。もしかしたら俺と一緒に神殿に連れてこられた攻略者のなかに第2エンドまでクリアしたやつがいるのか?どんなエンディングになるのかは聞いておきたいな、いつか出会えたらだが。
「……ほかのやつらは何してるんだろな、どうでもいいが。どこかで痛い目にあってたら多少はすっきりするんだが」
とりあえずアーエールに祈りを捧げてしまったからには俺は第2エンドを目指すほかないだろう、今は。ただほかのやつらはどうするんだ?エーテルの加護を受けて第1エンドを目指すのか?どうせならほかのやつらと協力したほうがいいんだろうが、正直、ほかのやつらとは協力したくないし顔も見たくない。俺は見捨てられたことを根に持ってる。
確かに、ナベリウスは恐ろしいし、俺だってほかの誰かが食われそうになっていても助けないかもしれない。だがだからってあんな綺麗にあっさり俺だけ置いていくかよ。他の誰でもない自分自身にそんな不幸が降りかかってきてまで俺は「そうだよな見捨てちゃうよなうんうんナベリウス怖いぜ逃げたお前の気持ちわかるぜ責めたりしないよさっぱり許してやるよ」なんて思える性格じゃない。やつらを多少恨んだところで俺を非難できる奴はいないはずだ、俺はやつらと再会したときに一発顔面をぶん殴らせてもらうことを心に決めている。
「ふんっふんっふんっふんっ!」
素振りの次は筋トレだ。いくら太刀筋が洗礼されようが相手を切れなきゃ意味がない。俺は腹筋、腕立て伏せ、スクワットなどなど、思いつく限りの筋トレをつづけた。その間も今後のことを考えることはやめない。
謎な仕組みだが、俺の体は不死の状態だ。不死というか、死んでもいくらでも復活できる。
回数に制限があるのか、はたまた俺が知らないうちに代償を支払っているのかもしれない。だが今のところそこは深く考えないようにしている。ゲームだと何回でも復活できてたんだけどなあ。
とはいえ、この便利な「復活」(復活という名前は俺が勝手につけた)だが、今のところ俺は飲まず食わずでも何日もここで生きていけている。確かに時間が経過すれば腹は空くし喉も乾くが、ナベリウスに再戦を挑んで殺されるたびに、空腹や乾きがなくなっているのだ。ある時点の俺の状態を何度も繰り返されているのかと思ったが、髪は伸びているし体も薄汚れてきているからそうでもないらしい。しかも、最近続けている筋トレは効果を表している。
「うん、割れてきたな。我ながら見事なシックスパックだ」
少し前まではぷについていた俺の腹はいつの間にか固く引き締まり、隆々とした肉体へと変わった。慣れないながらも鍛錬を重ねたおかげで、ナベリウスに瞬殺はされなくなり、戦う時間は日に日に長くなっていく。だからといって勝ち目が見えてきたわけでないが。
そして俺が最も頭を悩ませていること、それはナベリウスをどうするかということだ。ただ単純に倒せばいいという話ではない。俺は今はアーエールの加護を受けている状態であり、つまり魔物の味方ポジションなのだ。ナベリウスとは同門の徒でもあり、いわばともにエーテルを信仰する人間に協力して立ち向かうべきなのだ。むしろナベリウスを殺すのは駄目だ、神殿の守りががら空きになる。
ゲームにおいては、1週目ではナベリウスは最初のボスとして登場する。全てのプレイヤーの第1の難問として立ちはだかるのだが、それは第2エンドを目指す2週目プレイでも同じなのだ。ナベリウスはゲームにおいては主人公の腕を試す存在として登場し、倒せるまでここからの脱出は不可能。つまり俺はナベリウスに戦士として合格とみなせるくらいの力量を身に着けたと認めさせなければ、永遠に地上出ることができないってわけだ。俺がアーエールに祈りを捧げたあとは無闇に襲ってこなくなったが、通せんぼ状態は相変わらずだ。
「ふんっはあっ!うおおっ……あっ、そろそろ来いって?」
本殿でひたすらぶんぶんと剣を振っていた俺だが、神殿広間から急かすように視線を送ってきた存在に気付いた。もちろん、ナベリウスだ。金色の瞳で俺をじっと見つめてきている。
俺は覚悟を決めて本殿から広間へと出る。唯一の武器である剣を、改めて力を込めて握りなおす。そして唯一持っていたアイテム、下級エリキシルが懐にあるのを確認する。下級エリキシルは回復アイテムで、錬金術で生成することができる。見た目は細長いガラス管に入っている水色の液体で、コルクで封がしてある。だが小さい傷くらいならすぐに治るし、深手を負ったとしても比較的回復が早くなるという代物だ。ただ、ナベリウスと戦っている途中に回復をする暇なんかないからまだ使っていない。そもそも傷を負ってもすぐ復活するなら俺には不要の長物な気もする。
ちなみに、より強い効果のある中級エリキシルや上級エリキシルも存在する。それは効能もさることながら値段も張るし、品薄でなかなか手に入らない代物だった。
回復の手段としては錬金術で作った薬品のほかにも、魔術による治癒という手もある。ただし魔術師じゃないと使えないのだが、都市部には魔術御符というものがあって、回復魔法の魔術御符を買えば魔術師いらずだろう。回復魔法といわず、あらゆる魔術の魔術御符も欲しいなあ……。
「ふうっ……今度こそ、勝つぞ」
ついつい意識がそれたが、俺は目の前に意識を集中させる。
ナベリウスは伏せのポーズで待っていたが、俺が出てきたのを見てすっと立ち上がる。伏せていたらまだ目線は違いが、立ち上がってしまうと俺は完全にナベリウスに見下ろされるようになる。
灰色の毛並み、金色の光を湛える瞳、しなやかだが強靭さを感じる四肢、巨大な体躯、実に魔物らしい。いったい何人のプレイヤーがナベリウスの前に絶望しただろう、俺もその一人だ。
実のところ、俺は魔物っていうやつが好きだ。だって格好いいじゃないか。特にリバースで出てくるボス級の魔物は総じてデザイン性に富んでいるし、強いし、俺がこのゲームが好きな理由のひとつだ。各ボスに初めて対峙したときの、圧倒的な絶望感、その禍々しさにいつも打ちのめされる。流石に戦っている途中は気にしてられないが、鍛錬しながら時々ナベリウスを眺めるのは数少ない楽しみではある。たとえ何回も殺されようとな。復活してるんだからそこは気にしないことにする。
「ナベリウス」
俺が呼ぶと、ナベリウスは一度、返事をするように尾を振った。いつでも来い、そう言っているようだ。
ふうっ、と息を力強く吐く。
「よし、いくぞ!」
剣を構え、俺はナベリウスに向かって走り出す。
ナベリウスは低く構え、唸る。そして一度吠えたあと、大きく跳躍した。
「よっと!」
周囲に大きな影ができる。俺の真上に飛び降りてきたナベリウスを、横に移動して交わす。ちょうど俺が立っていたところにはナベリウスの全体重をかけて前足でえぐった跡ができた。ナベリウスの背後に回った俺は、すぐに後ろ足を切りつける。一度だけでは浅い傷しかできないが、連撃によって傷は深くなる。
一撃、二撃、三撃、四撃!よし!
「ガウウッ!」
すぐにナベリウスは反応して、大きな尾で殴りつけてくる。交わす間もなかった俺はそれを剣で受け止める。重い衝撃。だが、俺はぎりぎり体制を崩すことなくそれを受け止めた。以前はあっさりと吹き飛ばされていたが、確実に俺の戦いの技術が磨かれている。
「ぐうっ!よし防いだ!」
思わず喜びの声を上げる。が、すぐにナベリウスが前足を振り下ろす。研ぎ澄まされた爪は軽く当たるだけでも皮膚を切り裂く。俺はすでに何度も身をもって思い知っていた。
素早く後ろに飛んでよける。そしてすぐナベリウスの身体の側面に回る。ナベリウスの爪が当たる場所は危険だ。だが、身体を切りつけるにはナベリウスはデカすぎて剣が届かない。となると、攻撃するのは足だ。
「はああっ!」
再度、後ろ足を切りつける。先ほど切りつけたのとは逆側の足だ。
「ギャウウッ!」
灰色の毛並みに、赤が混ざる。痛ましいの鳴き声が、傷が浅くないことを教えてくれる。
より連撃を加えようとしたが、その前に素早くナベリウスは俺と距離を取った。
俺の剣、そして石の床にはナベリウスの血がついている。
「よし……」
俺は手ごたえを感じた。戦闘が始まってからまだ一撃も傷を負っていない、順調に戦いを進めている。
「ガウウッ!」
ナベリウスは大きく吠えたが、すぐに俺との距離を縮めてはこなかった。腰を低めに構えているのは、後ろ足の負傷のせいだろう。あの巨体からは考えにくいが、ナベリウスは非常に動きが素早い。相手の動きを封じる、もしくは鈍らせる。特に巨大な敵との戦いでは重要だ。
俺は全身から汗が噴き出しているのを感じる。だがぬぐう暇はない。戦いの最中に目をそらして、次の瞬間殺されたことは何度もあった。
「はぁっ……」
息を吐いて、気持ちを持ち直す。戦いの緊張感、そして高揚感。俺は腹の底から湧き上がる、燃え上がるような感覚を覚える。
「来ないなら、いくぞおぉっ!!」
地面を強く蹴る。俺はナベリウスにまっすぐ走った。
「ワォン!」
またしても、ナベリウスの前足での攻撃だ。俺は今度は後ろによけるのではなく、前方に転がり込むようにして爪をよける。ナベリウスの身体の下、ここなら攻撃しにくいだろう!
「やあっ!」
ナベリウスの前足を切りつける。もちろん攻撃が返ってこないか注意しながら、連撃を加える。この足を切れば、残るはもう片方の前足だけだ。いいぞ、いい感じだ、今日こそ……。
「ワオンッ!」
ナベリウスは一度高く吠える。そして、気付けばナベリウスの腹が近づいていた。目前に迫った銀色の毛並み。俺は思わず動きを止める。
「は?やば、ぐぅっ!?」
まさかの、ここでボディプレスだ。油断していた俺は、あっさりとナベリウスの体の下敷きになる。俺の数倍もの背丈の犬は、果たしてどれくらいの重さになるのかは知らんが、俺が押しつぶされるには十分すぎるほどの重量感だった。
「か、はっ……」
仰向け状態で俺は力なく床に転がった。全身が痛むし、胸が押しつぶされたせいでうまく息が吸えない。
ちくしょう、油断していた。ナベリウスは賢いんだ、身体での押しつぶし攻撃くらいできるって予想できなかったのかよ、俺の馬鹿野郎め。即座に避ければよかったのに怯みやがって。戦いで恐怖に支配されることがどれだけ動きを鈍らせるか、知っているだろうが!!
「やっべえ」
気付いたら、ナベリウスは前足を高く振り上げていた。俺が情けなく悶えている間に、攻撃の耐性を整えたんだ。刃物のような爪が見える。このままだとまともに食らう。
致命的な一撃を防ごうと剣を握りなおそうとしたが、どこかに転がっていったのか、俺はただ握りこぶしを作るだけだった。横を向くと、手を伸ばすだけでは届かないような場所に剣があった。嘘だろう。
再び頭上を見たときには、ナベリウスの爪は目前だった。
「あっ」
爪が体に食い込んだとき、俺からはこんな間抜けな声が出た。
身体が俺の意思を無視して、びくびくと動く。
「あ、ああ……」
どくどくと胸からは俺の血潮が流れ出て床を汚す。自分の体からぬくもりが失われていく。力が抜けていく。死が目前のせいだろうか、痛みはもう感じなかった。
「クゥン」
しばらく俺を見下ろしていたナベリウスだが、やがては俺のすぐそばに伏せた。ナベリウスは俺に致命的な一撃をくらわした後は、決してそれ以上攻撃することはなかった。何度も何度も俺を殺した相手だが、いまいち憎みきれないのは、いつもこうやって俺の死を見届けてくれているからだろうか。
俺はゆっくりと目を閉じる。そして、意識を手放した。
気付いた時には、俺は硬く冷たい床の上に寝ころんでいるようだった。
「う……」
力が入らない体で呼吸をする。喉の奥に届く冷たい空気が、俺がまだ生きていることを教えてくれる。湿っぽく、かび臭い香りが鼻腔を満たす。
うっすらと目を開くと、やはり、アーエールの神殿の祭壇前のようだった。
ああ、毎度思っているが、やっぱり夢じゃないんだな。
俺はすぐ動く気にはならず、しばらくそこに寝転がっていた。寒さが全身を包み込んでいるようで、俺は赤子のように丸くなる。大の大人が情けないが、この感覚はなんとも耐え難い。
それにしても体が重い。いつものことだが、この感覚はまるで、深い沼に全身がつかり切っているかのようだった。纏わりつく泥と、この重苦しい倦怠感は似ている気がする。
「あ”あ”ー」
おっさんのように唸りながら、俺は起き上がる。復活してから、体感で小一時間くらいはたっていた。固まった筋肉をほぐすように肩や首を動かす。身体のどこも不自由なく動く。
「んー……今度は出血死か」
ぺたり、と薄っぺらい鎧に包まれた胸に触れる。ナベリウスに鎧ごと切り裂かれて絶命に至ったが、何事もなかったかのように治っている。便利だな。
「……ちくしょう」
思わず口からこぼれる。まただ、また負けた。俺は自分への怒りを感じる。決してナベリウスに対して憎しみだのといったものは芽生えない、あれはあくまで番人としての役割を果たしているだけの気高い獣だ。こうやって十数回めの復活を迎えたのは、ひとえに俺が弱いせいなのだから。
ナベリウスの体の下にもぐりこんだのがまずかった。押しつぶしなんて俺の筋力じゃあ防げない。あの巨体の下からすぐ退かなかったから死んだ。しかも、俺は攻撃をくらったときに剣を手放してしまっていた。俺の間抜けが、唯一の武器を手放すなんざ戦いを放棄するようなもんじゃねえかよ。ゲームでも何度もナベリウスには挑んできたんだ、どうやったら勝てるかはわかってるじゃねえかよ!!
「…………よし、気分を入れ替えよう」
自分にイラついていても、状況は変わらんのだ、前進あるのみ。
「ふんっふんっふんっ」
とにもかくにも、鍛錬だ。俺はまた剣を振る。
身体を鍛え、技を磨き、そしてナベリウスに挑む。この地下にいる間はただひたすらそうやってきた。死ねば、また同じようにするだけ。
幸いなことにも、俺は相当粘り強い。俺は頭もよくなけりゃ物事の効率も悪い。だが、自分自身の忍耐力が問われるようなことにはめっぽう強いのだ。伊達に、攻略サイトを一切見ずにリバースをクリアしてはいない。手さぐりで、時にはすっ転びながら、まごまごのろのろ進む状況も嫌いじゃない。むしろそんな状況を楽しんでこそだ。復活という人間の死を克服した最高の能力がある今、俺が諦めさえしなければどうとでもなるんだ!
「やるぞ!」
ブン、ブン、と力強く剣を振る。刃が空を切る音は一定の間隔で素早く繰り返される。完全に我流だが、ただひたすらに剣を振る。
「俺は、やるぞ!」
繰り返される振り下ろしに、冷え切っていた体は熱くなっていく。
「やる、絶対にやる、絶対にやってやる!倒して、地上に出る!そして、元の世界に帰るんだ!!」