プロローグ
世界はものすごく単純だ。
弱いものは強いものに喰われるし、強いものは弱いものを喰う。ただこれだけ。
俺の人生もこの例に外れることはなかった。
自営業を営む父と専業主婦の母の間に俺は生まれた。
特段裕福な家庭ということはなかったけれど、なに不自由することもなく幸せな家庭だったと思う。
母は毎日絵本を読み聞かせてくれた。あのとき何回も読んでくれた勇者ミミの話は今でも覚えている。
あー、懐かしいなあ。正義の勇者ミミが世界の支配を企む魔王バーバルを倒すありがちな物語。
それでも俺はミミのような勇者になりたかったし今でもそう思ってる。
父は仕事が忙しくてあまり遊んでくれなかった。それでも仕事が早く終わって、家族みんなでご飯を食べた時の父の話は子供心に胸をときめかした。
世界がどんなに広いかを説き、これからの未来がどれだけ希望に満ちたものかを教えてくれた。
そんな家族だった。
でも
母が死んだ。
俺が5歳の時だ。ガンだった。母は痛みをこらえ、俺に絵本を読んでくれた。最後までそんなそぶりを見せずに往った。
俺は泣いた、父はもっと泣いた。初めて見た父の涙だった。
それから家族は父と俺だけになった。
父は不器用ながら家事をこなしたし、俺も手伝えることはなんでもやった。
父が作ったまずい飯を二人で泣きながら食べたのはいい思い出だ。
母がいないのは大変だった。小学校に入って最初の参観日、他の生徒はみんな親がいた。
隣の女の子になんで孝介くんの親はいないの?と聞かれた。
俺はお父さんは仕事で、お母さんは死んだ。とだけ言った。
その子はそれ以来話しかけてこなかった。俺はトイレで泣いた。
それでも、それでも俺には父がいた。優しくて頼れる父。そんな父が誇りだったし大好きだった。
そんな父は自殺した。
当時の財政危機で経営が立ち行かなくなったのだ。
両親を亡くした俺はもうどうしようもなくなった。学校は辞め、アルバイトをして必死に過ごした。
ただ、それも今日で終わりだ。
今日で俺の人生は終わりにする。
このどうしようもない人生。両親を無くし、学歴も職歴も無い、友人も彼女もいない。
『まもなく四番のりばに電車がまいります。危ないですから黄色い点字ブロックまでお下がりください』
不思議と恐怖心もない。JRの方には申し訳ない気持ちもあるが。
......なんだったんだろう、俺の人生
......生まれ変われるなら勇者ミミになりたいな。
ここで俺の意識は途絶えた。
初めまして、針鼠です。近代異世界ものが少ないなと感じたので書き始めました。拙い文章ですが、頑張ります。
次話は明日の7時ぐらいまでにはあげたいと思います。