〜君への気持ち〜
あの日から彼女は変わった。今まで受け入れていたことを、一切受け入れなくなった。でも、それと同時に彼女が学校に来ない日もこの日から増えた。「学校来ないで何してるの?」と聞くと、「サボりかな。」と、無表情で答える。
でも、今考えてみれば、この頃からだったと思う。俺が彼女を意識するようになったのは。
あの日、彼女が俺にすべてを話してくれた日。彼女は俺だけに笑顔を見せてくれた。その笑顔をもう一度見たいと思う反面、俺は彼女を守りたいと強く思う。
この気持ちは、何年経った今でも本物だったと言える。
そして、あの日から、2週間が経った。彼女がいなくなる一週間ぐらい前だった。
この頃、彼女は先生と2人きりで話すことが多くなっていた。
多少は心配した。本当はHしているんじゃないかと、
でも、それを聞くと、彼女は笑った。
「そんな訳ないじゃん。信用してくださいよ。もうヤってないって。」
だから、それ以上聞くのをやめた。
「今日の帰り一緒に帰ろ?」
そしてもう一つ、この頃彼女は放課後、寄り道をするようになった。それは俺も嬉しいことだったから、断る理由なんて一つもなかった。カラオケ、ゲームセンター、図書館、ファーストフード店、とにかく、いろんな所に行った。本当に楽しい時間だった。
今となってはもう確かめることが出来ないが、彼女は必死に思い出を増やそうとしているように見えた。
高2の10月の終わり。それは余りにも突然だった。その日、彼女は学校を休んでいた。担任は朝のHRの時に言った。
「いきなりだが、────」
俺はそれを聞いて、教室を飛び出していた。彼女の家に向かって。とにかく走った。途中、転んだが、痛みも感じられないくらい、焦っていた。
彼女の家に着くと、トラックが何台か止まっていた。
その時ちょうど彼女は家の中から出てくる所だった。
俺は彼女に声をかけ、近くの公園へと移動した。
「何で言ってくれなかったんだよ。引っ越すなんて...」
「ごめん。言い忘れてた。」
「嘘つくなよ。分かるんだよ。お前の顔みてれば、」
彼女は苦笑いをし、俺に言った。
「本当に君には、嘘つけないな。
...両親がね、離婚するの。君にもう、迷惑かけたくなくて。それに、私が引っ越すって言えば、君は優しいから私に気を使う。それは嫌だったから。」
「でも、心が整理つかないままお別れって、1番きつい。」
俺の目から涙がこぼれ落ちた。彼女に涙を見せたくなくて、俺は顔を背ける。彼女は俺の顔を覗き込み、涙を拭いた。優しく。
俺は彼女を抱きしめた。彼女も泣いているようだった。
俺は今しかないと思い、彼女を抱きしめたまま言った。
「好きだ。お前のこと。あの日からずっと好きだった。」
抱きしめた手を彼女から離し、向き合った。
彼女は笑う。とても穏やかな笑顔で。そして俺に言った。
「それは、恋じゃない。」
彼女は言った。とてもショックだった。それは俺にとっての初恋だったから。
「でも、俺は確かに...」
俺の言葉を遮るように彼女は続ける。とても美しく綺麗な完璧な笑顔で。
「君は恋をしたことないから、一緒にいた私を初恋相手だって思ったんだよ。恋って言うのは、好きっていうのは、君が想ってるその気持ちより、もっと焦がれるものなの。
...だから、間違わないで。これは恋じゃない。」
その時、彼女の親が、彼女を呼ぶ声 がした。彼女は返事をすると、俺の方に向き直った。
彼女は、今にも泣きそうだった。それでも、必死に笑顔を作っていた。
そして、次の瞬間、彼女は俺にキスをした。一瞬何が起こったのか、分からなかった。
そして、彼女は俺を抱きしめて言った。
その言葉を聞いて、俺は後悔した。彼女の後ろ姿に涙を流した。そしてもう一つ、あることに気付いた。彼女の連絡先を知らないということに。
俺は彼女のことを何にも知らなかったんだ。
彼女がその事に気付いていたのかどうかは、もう分からない。
その日はそのまま家に帰り、俺は思いっきり泣いた。
彼女の過去を自分だけが知っているという優越感に浸って、何一つ、理解しようとしていなかった自分が情なくて。
今、俺は就職して、結婚し、子供もできた。あれから、彼女からの連絡はない。彼女が今、どこで何をしているかもわからない。でも、彼女と過ごしたあの短い時間は少しも色褪せることなく、俺の心に残っている。あの時、彼女が俺に言った言葉はこれから先も、決して忘れることのない、俺の大切な宝物。
そして、彼女への気持ち。それは確かに恋だった。
『 君と過ごせて楽しかったよ。君なら何があってもこの先大丈夫。...頑張ってね。 私を救ってくれて、ありがとう。』
あの時彼女は、俺にそう言った。
彼女の視点からのストーリーも書き終えたので、載せる予定です。よろしくお願いしますm(*_ _)m