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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

生きるエゴと、食べる意味

作者: 和銅修一

 世界は脆い。

 突如、人々は死に絶え生き残った僕は当てもなくて歩いていた。

 何故こんな事になったのか? 何故僕は生き残ったのか?

 疑問は尽きないけど、たとえ分かったとしても解決なんて出来ない。

 家族も友達もみんな死んで生きる事が面倒になってしまった。

「もう……駄目だ」

 足は痛いし、お腹が減った。

 どいうわけか何処に行っても食べれそうなものは見つからない。この崩壊に何か関係があるのか……まあ、どっちでもいいか。

 横になってそっと目を閉じる足音が近づいて来ている。その足音の正体は僕以外の生存者だった。

「私以外にも生存者がいたのね」



***


 

 芽依と名乗る少女に案内されるがまま、とある部屋に入った。壁が白一色で清潔感あふれる部屋だ。

「ここは?」

 ポツンと建っていた一戸建ての一室。ここだけまるで別世界のようで、今が人類滅亡の危機だなんて忘れてしまいそう。

「私の拠点よ。ここになら食料に困ることはないから」

 食料に困らない?

 もしかして僕が食料を見つけられなかったのは彼女が独占していたからなのだろうか?

 でも、彼女一人でそこまでの事をするのは不可能だ。

「どうして僕を助けてくれたの? 君に利益なんてないでしょ」

「確かにそうかもしれないわね。でも、一人での食事に飽きてしまったの」

 僕と同様に家族を失ったのだろう。

 この清潔感はあるが生活感のないこの部屋の隣に人形が沢山ある可愛らしい部屋があった。きっと妹がいたのだろう。一人っ子の僕としては羨ましいが失ったものが多いほど反動は大きい。

「そう……じゃあ、図々しいんだけど一緒に食事をしようか。二日も食べてなくて、もうギリギリなんだよね」

「分かったわ。すぐに用意するから待ってて」

 部屋を出て行って三十分ほどで彼女は厚いステーキを持って来た。時間からして一階にあるキッチンで料理してくれたんだろうけど……。

「欲を言うつもりはないんだけどご飯は?」

 久々の食事が大好物の肉料理だというのは嬉しい限りだが、肉だけというのは少し寂しい。

「残念ながらないわ。冷めないうちに食べて」

 引っかかる事は多々あるけれど、こうして僕と彼女の生活は始まった。

 と言っても一ヶ月経った今でもこれといった事件は起こっていない。いや、事件というほどではないがあれから肉料理しか食べていない。朝、昼、夜のどの時間帯でも。

 ハンバーグ、から揚げ、角煮、生姜焼きなど。食料は肉しかないらしく、お米は食べれていない。こんな状態で文句は言えないが。

 米に飢える日々が続く。

 そんなある日、芽依はふと「食料調達に行ってくる」とだけ言い残して家を出た。

 勿論、手伝いをすると言ったのだけれど、やんわりと断られてしまった。

「さて、どうしようか」

 半日ほど帰ってこないみたいだけどやる事はない。テレビを見る人がいないのでつけても砂嵐、ゲームはネット対戦しようにも相手がいない、ネットは繋がらない。

 仕方ないので家中を歩き回っていると倉庫を見つけた。どうやら食料庫のようだ。

「そういえば一体どんなお肉使ってるんだろう?」

 好奇心は猫を殺す、という諺があるが僕はこの好奇心を抑える事は出来なかった。だがすぐに後悔する事になる。

「う……こ、これは⁉︎」

 重い扉を開けてみるとそこには大量の死体が置かれていた。腐らないようにドライアイスが敷かれているのでヒンヤリとした空気が漂っている。

「見つけちゃったんだ。いつかは知る事だから構わないけど」

「何でこんなところに死体なんて……」

「本当に分からない? 拒否してるだけじゃないの。受け入れ難い現実を」

 お米がないのに肉ばかりが食卓に並んでいた理由。察しが悪いとバカにされた事のある僕でもそれはもう分かる。分かってしまう。

「まさか……俺様、俺たちは人の肉を食べていたのか?」

 人肉のステーキを、人肉のハンバーグを、人肉のから揚げを、人肉の角煮を、人肉の生姜焼きを食べていたのだ。

 僕はそれが何の肉かを知らず、芽依は人肉と承知の上で。

「そうよ。どういうわけか食べ物はないから選択肢はこれしかなかったのよ」

「でも人の肉を食べようと思うなんておかしいだろ。こんなの死者への冒涜だ」

「じゃあ、なんで豚や牛や鶏の肉は食べられるの? どれも死んだらただの肉よ。味とか食感は違うけど」

 もう何が正しいか分からなくなってきた。

 頑張って生きていかなくてはいけない。⇒

けど、人としての心を忘れていけない。⇒生きていくには食べなくてはいけないが人肉しかない。⇒それだと人としての心を失ってしまう。

 どうしてもこうなってしまう。

 僕は頭が悪いから両立をさせるのは無理だった。だけど、せめて片方は成せるようにある決断をした。

「愚かにもほどがあるわ」

 と彼女ならそう言うのだろう。

 そしてあの倉庫から適当な人肉を選んで食べて、生きるという変化のない日々を過ごすのだ。

 いつか食卓に僕が並ぶ将来を見据えて。

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