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LEG WORK

ゴールドタウンの町役場のロゴが横っ腹にデンと入ったシルバーのライトバンで、東片側の商店街をゆっくり抜けていく。


久し振りに通る大学通りは、駅ビルの再開発エリア以外、10年前とさほど変わっては居ないので、やっぱ懐かしいじゃん。


「佐藤さんもこの道を通学してたんっすか?」


今日の運転手は菊池君だ。


「ま、な」


「片側大学ってさ、片側県にあるから、他の県の人から見ると、国立大学と勘違いされますよねぇ?」


「ハハッ、あるある、その通り。学生ん時、東大に行ってた同級生と話してたら、最後まで国立大学だと思い込んでたな」


「得って言うんですかねぇ〜」


「スポーツや武道が有名で、卒業生がわんさか溢れかえってる崩壊ほうかい大学の方がインパクトがあるんじゃん」


菊池君は学生数がごまんと居る崩壊ほうかい大学の政経学部出身だ。


体育会だったら、良いところに推薦で就職出来たろうにな。

なにせOB多いし。

何が悲しくてゴールドタウンの町役場の臨時職員やってんだかなぁ。



正門近くのコインパーキングに車を停める。


学生は平気で路上駐車し捲ってるけど、駐車違反の罰金なんか払いたくねぇし、何より町役場の看板背負って捕まったらヤバイじゃん。


一応経費で落とせるしね。



今日は取りあえず、脚で稼ぐ、聞き込み調査だ。


菊池君を連れて来たのは、ついこの間まで学生だったので違和感が全く無いから。

見た目も学生に紛れ込めると踏んだからさ。


当然、町役場の作業服から私服に着替えてもらってる。


町役場に臨時職員で採用されたばかりの頃の彼の私服は、絵に描いたようなアキバ系オタクのフアッションだった筈だ。

どういう風に着れば、ここまでダサく着れるのかってくらい、ダサかった。


最近突然ファッションに目覚めたのか、成長著しく、渋谷のラッパー系の帽子にデカTシャツ着てて、けっこうどころか相当今どきだ。

いつの間にかピアスの穴まで開いてる。

こらこら、役場じゃダメだっつうの。


日サロにもジムにも通ってるらしいので、だんだん精悍な感じになって来てるし。

ま、人生には色々あらぁね。


この成長ぶりは目を見張るものがある訳だけど、突っ込んで聴くとウザいし面倒くさいので、敢えて触れない。


ま、彼には彼の新たなライフスタイルが出来たのだろう。


もう一度言うが、敢えて聞かない。

聞くのが、ちと、怖い。ハハッ



サークル棟は、キャンパスの奥の学生会館の隣にあるんだ。


入り口に各サークルの部屋割りが貼ってある。

名ばかりのサークルは代表者の連絡先が書き込まれていた。



「えっと、ハバナ・イス・デ・テニス・サークルと」

「スペイン語っすかね?」


「ちゃうちゃう、Have a nice day!を、カッコつけてもじっただけじゃん」

「あ、なんだ、な〜るほど」


感心するほど大したもんじゃ無い。

基本ナンパ系サークルの典型だから、カッコよければいいんじゃん。


あった。

あった、けど。


「あれ、二重線で消してあるぞ」

「引っ越したんすかね?」


ちょうど通り掛かったミニスカートの可愛い子を捕まえて聞いてみた。


「ねぇねぇ、このサークル探してんだけど、何で二重線引いてあんの?」


人の良さそうな子で協力的だったけど、消されてるサークル名を見て顔が曇った。


「ああ、あそこねぇ」

「知ってんの?」


「うん、今は解散しちゃったよ」

「え、解散?」


「なんか傷害事件があったとかで暫く警察が立ち入りしてたのね、縁起が悪いってどんどん辞めてっちゃって」


「ふ〜んそうなんだぁ、このサークルに居た人、誰か知らない?」


「ああ、それだったら、殆どのメンバーが同系のボンバーズってサークルに鞍替えしてるって聞いたよ」


「ボンバーズ?やっぱりテニスサークルなの?」

「うん、名前が違うだけでやってる事は殆ど変わんないんじゃん」


「誰か知ってる人居ないかな?」

「それなら、足立って子が友達だから知ってるよ」

「そのサークルの話聞きたいんだけど紹介してくんないかな?」

「ちょっと待ってね、聞いてみるね」


スマホを取り出してLINEのトークでメッセ入れてもらった。

待つほどもなく返事が来た。


「今、学食で暇潰してるって」

「本当? 紹介して貰えるかな?」

「いいよぉ、いいけどさ〜」


初めて上から下まで観察される。


「ところで、あなた達は、誰? 学生、じゃないよね? そのサークルに何の用なの?」


「あ、これは失礼。僕はゴールドタウンの町役場の者なんです」


町役場の名称とマーク、それに名前だけが入った名刺を渡す。


「そのサークルの新歓コンパを欠席した子が町内に居てね、その時の写メがどうしても欲しいって依頼があったんですよ」


「ウッソォ〜、町役場って、そんな事まですんの?」


「そう思うでしょ、ゴールドタウンの町役場には、便利屋さんみたいな特別な部署があるんですよ」


「へぇ〜、地方公務員も大変ねぇ」


町役場の名前があれば、結構信用されるもんさ。

町立探偵事務所とは入れてないから、普通の地方公務員の名刺だ。


「そっちの人は学生さんでしょ?」


崩壊ほうかい大学のアルバイトっす」


だったには違いない。




学食には毎日の様に顔を出してたので、勝手がわかり過ぎる位だ。


でも、業者が変わったのか、豪華絢爛なフランス料理から江戸前の握り、ステーキ類がドドンとメニューに増えているのには驚いた。


それでもワンコイン500円だから、さすがは学食だな。



足立さんは、モデルばりにスタイルのいい子で、雑誌の読モをやってるそうだ。


「新歓コンパの写メ?」

「そうなんです、無いですよねぇ?」

「ありますよぉ」

「へ? ホント?」

「死ぬほど一杯あるよぉ〜」


ってスマホを見せてくれたんだけど、その数、数百枚。


「これ全部新歓コンパのなの?」

「そうそう、全員撮らないと気が済まないのよねぇ〜、いい男いるかもしんないし、ハハッ」


「名前とかはわからないよね〜?」


「仲良くなった子とかはわかるけど、その他大勢はわかんないかな、後はLINEのID交換した子くらいね」


閃いた。


「LINEのID交換した子、写メで教えてよ」


「えぇ〜、すっごい居るけど」

「そんなに?」

「笑っちゃうくらい!ハハッ」


この子、絶対付属高校出身だな。

外部試験じゃ一生受からんべな。



恐ろしいまでにおびただしい写メの山とLINEのIDだった。


「ねぇねぇ、下世話な話しだけどさ、例の事件があったじゃん。何か覚えてんの?」


「あ、そうなのよねぇ、みんなビックリよぉ、刺された子はよくわかんないけど、あの犯人に間違われた子、ちょっと話ししてたんだよねぇ〜」


「ウソォ〜本当に?」

「ホントホント」

「写メとかIDあんの?」

「あの後しみじみ確認しちゃったわよぉ〜、有りましたよん」


よっしゃあ〜!


「この人この人!」

「どれどれ」

「えと、誰だっけ、早川か、そうそう早川徹君」

「よく覚えてんの?」

「ぜ〜んぜん!全く覚えてなかったわ、ハハッ」

「そうなんだ」

「ただ、必死になって女の子のLINE聞きまくってたのだけは覚えてる」


情け無ぇ〜

そういう風に覚えられたくねぇ〜。


取り敢えずスマホで写メとLINEのIDを飛ばしてもらう。


写メは、可も無く不可も無く。

読モをチャラチャラやってる女の子には、そういう風に評価されるくらいか、覚えても貰えないレベルの男の子だ、な。



読モは、さっきから菊池君の方をチラチラ見てる。


「ねぇねぇ、あの子はだ〜れ?」

「ああ、うちのバイトの子。崩壊ほうかい大学の菊池君」

「ふ〜ん、ねねね、紹介してぇ」


今時のファッションの菊池君は、けっこうもてるようだ。

ジムで筋肉質になってるし、日サロで浅黒くなってるし。

これでも少し背が有れば、世界の歴史が変わったかも知れん。


ま、其れはないか。ハハッ


いずれにしても、読モちゃん、彼の好みでない事だけは確かだと思うよ。


彼の好みは、藍より蒼く、泥沼より果てし無く底無しでダークな筈だ。


読モの足立さんは相当に積極的で、既に彼の腕を抱え込んでる。

もう絶対返さないぞぉ、の勢いだ。


読モを紹介してくれたミニの子は、落ち着いて涼しげに二人を眺めている。

横顔は、二重のまつ毛が長くて、ハッとするくらい綺麗だった。


「ね、聞いていい?」

「はい?」


「ほんとは新歓コンパの時の傷害事件の方を調べてるんでしょ?」


おっと〜、勘のいい子だなぁ。


「いやいや、たまたまね」

「ほらほら、目が泳いでるよぉ」

「ハハッ、美人を目の前にすると、動揺すんですよぉ〜」


「おちゃらけてないで、本当のことをおっしゃい」

「ほんとも何も、僕らは町役場の人間だからさ、傷害事件なんてとんでもございません」



「私ねぇ、実はゴールドタウンに住んでんの」

「え?」


「町役場の駐車場に、町立の探偵事務所が出来たことくらい、私だって知ってるわよ」


「あらら」

「図星でしょ?」

「ばれてました? ハハッ」


「やっぱりね」

「えっと、ま、そういう訳で、申し訳ないんですが、聞き込み調査中なので、ご協力ください」


「やっぱ探偵なんだ?」

「小声でお願いします。一応町役場には違い無いので、ハハッ」



「協力はするけどね。ね、バイトで雇ってよ」

「は? バイト?」

「私ね、実は探偵志望なの」

「へ?」

「わたし、探偵小説愛好会の小林静って言うの」


トートバッグの中から、可愛い名刺を出してきた。

へぇ、今時の学生さんは名刺持ってんだ?

世の中贅沢になったもんだなぁ。


「いいことを一つ教えてあげようか」

「なんですか?」

「僕も片側大学OBなんだ」

「えぇ〜!、先輩なんですか?」


「それと。探偵小説愛好会は、10年前に僕が作ったんだ」

「は?」

「僕が創設者なんだ」

「ウッソォ〜」


我がサークルの後輩にこんなとこで会えるなんてな、ハハッ

やっぱ何かの縁だべな。



探偵の仕事は、半分がペット探しのような雑用ばかり。


後の半分が別れさせ屋を含む浮気調査がほとんどなんだ。


最近は、払いすぎた金利を返して欲しい、なんて司法書士や弁護士の仕事も舞い込んでくる様になった。


一応お話を聞いて、直接にはなるけど然るべき業者さんを紹介してあげる。


町民の為に設立された町立の探偵事務所として如何に町民から信頼されるかが最優先なのさ(笑)



シャーロックホームズや名探偵コナン張りの華やかさなんて虚構の世界さ。


ましてやうちは町役場がやってる町立の探偵事務所だし、男女問わず勤務時間中は作業着着てる。


もっとう〜んと泥臭くてメッチャダークなんだ。



それにしても、今時探偵志望だなんて、奇特としか言いようが無いな。


彼女なら、確かに女を武器に別れさせ屋の工作員になれば、かなり良いとこまでいけそうだけど、平気で愛人やれなきゃ務まらない仕事だ。


下半身を、とにかく仕事と割り切って安売り出来なきゃ、到底無理だろな。


何せ、給料安いしぃ〜 ハハッ



でも、大学内部に協力者は必要てはある。


「しばらく、インターンで情報収集とか出来るかな?」

「もちろんです!」


「じゃ、バイトの件は、実績を見てから役場で検討するとして、ボランティアで情報屋をやって貰えると助かるんだけどな」


「本当? やった〜!でも1情報1000円にして。私もバイト削って協力するんだし」


「町役場には、ボランティアにはお金を払う経理項目がありません。無理です」


「わかりました。じゃ、先輩は佐藤さんでしたよね? 佐藤さんのポケットマネーで、間をとって1情報500円でどうですか?」


「1情報につき、中生一杯」

「乗った、ハハッ」


前向きな子は好きだよん。

この子、相当に可愛いし。

これで飲みに行く口実が出来たじゃん! えへへ。


「じゃまず一発目に、この犯人に間違えられた青年の話を聞きたいんだけど、何とかなる?」

「LINEして見るよ、さっきのID教えて」


便利な時代だ。


「可愛い女の子からのLINEなら、必死になってお返事くれるわよ」

「なるほど、それは一理ある」


本当に直ぐにメッセが戻って来た。

わかりやす過ぎるぞ、早川徹!


「図書館に居るって」

「やった」

「呼びつけようか?」

「出来んの?」

「ま、お任せ〜」


『会いたいなぁ❤️ 学食直ぐ来れる?(#^.^#)』


なるほど、女は魔物だ。

俺でも飛んでくよ。



(つづく)

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