1 彼の失敗
死体愛好者。
通称ネクロフィリアは、広義ならば死に関する事物を愛すること。
狭義ならば死体を犯すことに快感を得るものである。
俺、花草 雪の場合は、
死体になった人間に恋をすることだった。
さて、いきなりこんな話をしたのには理由がある。
それを説明する前に、まずは俺の通っている学園のことを理解して欲しい。
俺の通っている学校は、小中高一貫の全寮制男子校の静が丘学園。
政治家、社長、老舗の名店などなど、各界の有名人達の子息が通う金持ち学園だ。
ちなみに俺は、一般受験の特待生枠で入学した平凡な庶民である。
この学校は、大事な跡取り息子たちに悪い虫がつかないようにという名目で
つくられたもので、外出するには面倒な手続きを踏まえなければ、
出られないため大変閉鎖的な環境となっている。
しかし、一見、完璧に見えたこの学園体制には、重大な見落としがあった。
高校生男子の"並外れた性欲"である。
溜まりに溜まった性欲を発散させようにも、外へは、おいそれと出られない。
では、どうすればいいのか。
導き出したのは、男で発散させようという、とんでもないものだった。
結果として、この学園では同姓愛が当たり前。
さらに、家柄・容姿・能力が優れたものが役員となり、
生徒達から祭り上げられるようになった。
親衛隊、生徒会、風紀委員会、全寮制。
そんなどこかで聞いた設定の場所が、静が丘学園だ。
ここまで来れば分かる人には分かるだろう。
4月の半ばという中途半端な時期に転校生がやってきて、
人気者のイケメンたちを次々と虜にしていく。学園は大荒れ。
親衛隊は、まりも(転校生の見た目から)に制裁→イケメン怒る
→悔しい、マリモの野郎…!!という悪循環の完成だ。
ちなみにばっちり巻き込まれ平凡君もいる。
では、本題に入ろう。
なぜ俺が自らの性癖を告白し、
学園の説明なんていうRPGのモブの役割をこなしていたのかというと、
それは目の前で起きている状況が原因だった。
「俺と付き合ってください!!」
さらさらのハニーブラウンの髪に、
白磁の肌に浮かぶ透き通った目は海のように輝いている。
まるで天使のようだともて囃される彼は、そう俺に告白をした。
「……」
「花草 雪さん!
一目みたときから好きでした!!
最初は男だとか、只のクラスメイトだとか悩んでたんだけど…。
でも、そんなことは関係ない。俺は、あなたと恋人になりたいです!!」
俺は、絶句していた。男に告白されたことにではない。
あ、いや、嘘。ノンケだからそれもあるけど。
それよりも、重大な問題があった。
コイツ、伊吹 生斗は、噂の時期はずれの転校生なのだ。
(いやいやいや、俺お前と喋ったの事務的なことくらいだよな?
どこに惚れる要素があった?顔か?顔なのか?俺のこの死んだ目にか?
DHC豊富そうだからか?それなら、お昼の焼き魚にでも恋してろよ!
というか、これ断ろうが、断るまいが、どっちにしろ面倒くさいことになるよな?
え、待って待って待って!それじゃ俺の放課後のお楽しみタイム
『ドキドキ理想の彼女探し~墓地をさまよって~』もできないじゃん!!)
予想だにもしない事態に、俺の思考回路は滅茶苦茶になっていた。
だから、口が滑ってしまったのだ。
一番、言ってはいけないことを滑らせてしまった。
「え、無理。だって俺、死体じゃないと愛せないから」
「「「「……………………………………」」」」」
俺を含めた食堂にいた人間、全員が固まった。